
エヴァ・カラヤニス/「キャラメル」創業者兼クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: ギリシャ出身。アテネで法律を学び、ロンドンで弁護士として活動。自身の子育て経験をきっかけに、1999年にロンドンで子ども服ブランド「キャラメル(CARAMEL)」を設立。英国の伝統的なテキスタイルや独自の色彩感覚を生かし、クラシカルでありながらモダンなデザインと、上質な素材や着心地にこだわった子ども服を提案する。現在はウィメンズウエアやホームウエアにも展開を広げ、世界各国にファンを持つ PHOTO:RYUSEI MORIKAWA
ロンドン発の子ども服ブランド「キャラメル(CARAMEL)」と「ザラ(ZARA)」によるコラボレーション第2弾が、10月27日に発売した。「キャラメル」は1999年、エヴァ・カラヤニス(Eva Karayiannis)がロンドンで創業。ピンクやブルーを基調とした装飾的な子ども服が主流だった時代に、上質な素材と独自の色彩感覚を武器に、大人のワードローブにも通じる美意識を備えたコレクションを提案してきた。
第1弾の成功を受けた今回は、英国のスクールユニフォームに着想を得たキッズコレクションに加え、親世代に向けたウィメンズのカプセルコレクションもそろう。発売を記念し、10月27日〜11月1日には、東京・原宿で世界唯一となるポップアップストアをオープン。来日したカラヤニスに、コラボレーションの裏話や創業以来貫いてきたものづくりの哲学について聞いた。
──改めて、「キャラメル」はどのようなブランドなのでしょうか。
カラヤニス:27年前に美しく、着心地の良い、特別な子ども服を作りたいという思いから始めました。シンプルな服にこそ、カッティングの精度や生地の質、意外性のあるプロポーションが重要だと考えています。スコットランドのカシミヤ、タータンチェック、ツイード、リバティプリントといった英国の伝統的なテキスタイルから着想を得て、現代的に表現してきました。また、何を着て、どう暮らし、自分をどう表現するかも、教育の一部だと考えています。
──第1弾も大きな反響を呼びました。
カラヤニス:大成功でした。最初は実験のようにスタートしたプロジェクトでしたが、私たちの提案したものをお客さまが心から気に入ってくださりました。「ザラ」という大きな世界の中に、時間をかけた製造工程や、選び抜いた生地、独自のプリントなど、ほかとは違うアプローチでものづくりを提供できたと思います。
アーカイブを現代的に再構築
──今回のコレクションは、過去の「キャラメル」のアーカイブをベースにしているそうですね。
カラヤニス:シルエットもプリントも、すべて私たちのアーカイブから選んでいます。それは「ザラ」のオーナーの希望でもありました。何百種類ものプリントから選び、今回のために配色し直しています。色使いは「キャラメル」を象徴する要素の一つ。無数のアーカイブの中から、最も新鮮に感じる色を選びました。
──英国らしさも「キャラメル」の大きな魅力ですね。
カラヤニス:フェアアイル柄のニットは、昔からの定番です。英国のウールやツイードもよく使いますが、古めかしくは見せたくありません。シルエットにゆとりを持たせたり、丈を長くしたりして、さりげなくモダンに仕上げています。また、シンプルなタートルネックのような日常着にも、プリントや美しいディテールを加えることで、小さな遊び心が生まれるんです。
ユニフォームに学ぶ機能美と妥協のない品質

──英国のスクールユニフォームからも着想を得たそうですね。
カラヤニス:毎朝通りかかる学校で、七分丈のパンツにマスタードカラーのワッフルニットを着た子どもたちを見かけるんです。「このニットをネイビーに変えてみたらどうだろう」と考えたことが、今回の着想の一つになりました。制服には、美しい襟や袖口、プリーツがあります。英国だけでなく、旧ソ連やイタリア、日本など、世界中の制服をリサーチしています。軍服や修道士の服、看護師の制服も好きですね。ロンドンのポートベローの蚤の市では、歴史的な軍服をよく見かけます。修道士の服には十字架を収めるポケットがあるなど、制服には美しさだけでなく、優れた機能性が備わっています。子ども服にも機能性は欠かせません。そうした服のポケットや襟、素材などをヒントに、現代的に再構築するのが私のものづくりの手法です。
──価格帯の異なる「ザラ」との協業で、難しかったことはありますか?
カラヤニス:「ザラ」からは「あなたが作りたいものを作りましょう」と言ってもらえました。私が特に気にしていたのは素材の品質です。例えば、ウールを使うアイテムには、ほかの素材との50対50の混紡ではなく、ウールを使っています。ただ、通常の「キャラメル」とは製造工程が異なります。私たちは生地そのものから開発し、日本の生地を天日干しや染色で仕上げたり、インドで手織りした生地をシャツに使ったりしています。一方、「ザラ」は大規模な生産によって、異なる価格帯を実現しています。そこで今回は、シルエットをシンプルにしながら、良質な素材を使うことを重視しました。製造工程は違っても、肌触りや着心地にはこだわっています。
世代を超えて受け継がれる価値観
──キャンペーンには、子ども、母親、祖母の3世代が登場しますね。
カラヤニス:子どもの人生における祖母の役割を表現したかったんです。今のおばあちゃんたちはモダンで、孫を美術館に連れて行くなど、さまざまな形で関わっています。今の社会では、ゆっくり絵を眺めたり、本を読んだりする時間が失われつつあります。親が「本を読みなさい」と言っても聞かなくても、祖父母なら「一緒にこの本を読もう」と自然に誘える。そんなロールモデルとなる存在が子どもの人生にいてほしいと思っています。
──今回のポップアップは世界で東京のみの開催です。日本のお客さまにはどのような印象をお持ちですか?
カラヤニス:日本のお客さまは特別です。商品を実際に手に取り、理解したうえで慎重に購入します。そして一度ブランドを信頼すると、長く愛用してくださる。それが「キャラメル」が続いてきた理由の一つでもあります。世界では、必要かどうかも分からない服を買い、ワードローブをいっぱいにする人が増えています。でも、私たちは世界を征服したいわけではありません。価値観を理解してくれるお客さまを大切にしたいんです。妥協せず、誠実なものづくりを続けるのは簡単ではありません。「世界が変わっても、私は変わらない」という姿勢を貫くには、努力と強い意志が必要です。
子どもが自分らしくいられる服を
──「キャラメル」にはメンズウエアの展開がありませんが、いつか手がける可能性はありますか?
カラヤニス:メンズウエアのデザインは、私にとって難しいことではありません。17歳の息子がいて、夫もとてもおしゃれですし、私自身が普段買う服もほとんどがメンズウエアなんです(笑)。ただ、今は優先事項ではありません。近いうちに手がける予定はありませんが、将来機会があれば、ぜひ挑戦したいですね。
──創業から27年。子ども服業界で、今も変えたいと思うことはありますか?
カラヤニス:私が違和感を覚えるのは、親が自分の好みや価値観を子どもに押しつけ、まるでファッションの一部のように扱ってしまうことです。大人が「クールな子」「真面目な子」と決めつけて着飾らせるのは、子ども自身の美意識が育つ前に、型にはめてしまうようなもの。「キャラメル」の服は特定のスタイルを押しつけることなく、子どもが自由に着こなせることを大切にしています。
先日、お店に双子の姉妹が来ました。一人はボーイッシュで、ゆったりしたパンツにかっこいいトップスを合わせたい。一方、もう一人は「プリンセスみたいになりたい」と、マキシ丈のシルクドレスを選びました。二人は同じブランドの服を着ながら、まったく違うスタイルでお店を出ていきました。フェミニンでも、マスキュリンでも、クールでも、クラシックでもいい。子どもたちが自分らしくいられることが「キャラメル」が何より大事にしていることです。