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折坂悠太 × 柴田聡子、映画「さとこはいつも」を語る 主題歌「シミレ」の制作秘話と「映画に重なる2人の人生」

PROFILE: 左:折坂悠太/シンガーソングライター、右:柴田聡子/シンガー・ソングライター、詩人

PROFILE: 左:(おりさか・ゆうた)鳥取生まれ、千葉県出身。2018年のアルバム「平成」や19年発表の「朝顔」で注目を集める。24年には4作目となるアルバム「呪文」を発表し、ホールツアーを開催。25年4月には、過去最大となる11名編成での公演「のこされた者のワルツ」を成功させた。映画「泣く子はいねぇが」「ONE PIECE FILM RED」への楽曲提供も行う。今年10月には東京・大阪2会場で行うワンマンライブ「折坂悠太ばんど 独演 せぞん」を開催予定。 右:(しばた・さとこ)大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。現在までに7枚のオリジナル・アルバム、2冊の詩集、エッセイ集などを発表。詩集「さばーく」で第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>受賞。第二詩集「ダイブ・イン・シアター」が第31回中原中也賞最終選考作品選出。アルバム「Your Favorite Things」がCDショップ大賞2025<赤>大賞受賞。26年、シングル「Pool」をリリース。

同級生に恋した中学生の聡子(姫野花春)。6年間にわたる不倫が倦怠期を迎えている沙都子(有村架純)。子育てがひと段落して自分の夢を思い出した里子(石田ひかり)。年齢も環境も違う3人の「さとこ」の物語が交差する様子を、ユニークな語り口で描いた沖田修一監督の新作映画「さとこはいつも」は、音楽にも注目したい作品だ。

同作で音楽を担当したのは4人目の「さとこ」、柴田聡子だ。折坂悠太が手がけた主題歌「シミレ(feat. 柴田聡子)」でも柴田をフィーチャーし、2人の初共演が実現した。いま注目を集める2人のシンガー・ソングライターはどのように曲を作り上げていったのか。映画の「さとこ」たちの人生と通じる一面も持つ2人に話を訊いた。

主題歌「シミレ(feat. 柴田聡子)」の制作背景

——主題歌の話は沖田監督からの依頼だったそうですね。

折坂悠太(以下、折坂):監督が一度、ライブを観に来てくれたんです。その時に初めてご挨拶したんですけど、それから間もなく、「いま作っている映画の主題歌をやってほしい」という依頼を頂いたんです。これまで監督の作品は観ていたので、どんな作品を撮る方なのかは大体分かっていました。それで脚本を読ませてもらったんですけど、その時に「主題歌は柴田聡子さんじゃなくていいんですか?」って言ったんです(笑)。

——同じ「さとこ」だから?(笑)。

折坂:そうです(笑)。物語も柴田さんの歌の世界観と合うんじゃないかと思って。そしたら、「柴田さんには劇伴をお願いしています」と言われて「それだったら」と受けさせて頂きました。それで、せっかくなら柴田さんにも参加してもらいたいと思って、一緒に作りました。

——柴田さんは脚本を読んでどう思われました? 自分の歌の世界に合ってました?

柴田聡子(以下、柴田):いやあ、単純に面白かったですね。脚本だから映像になった時にいろいろと変わるだろうけど、だとしても、絶対面白い作品になるというのが伝わってきたので、「劇判の経験はほとんどありませんが、やってみたいです」と監督に伝えました。

——映画の主題歌「シミレ」は2人のデュエットですが、どんな風に作り上げていったのでしょうか。

折坂:私が曲の形やメロディーを作って、柴田さんが歌うパートは柴田さんに歌詞をお願いしました。私が自分のパートを歌ったものはもう出来上がっていたので、まず、それを柴田さんに聴いてもらって。

——歌詞には映画の内容を反映させたりしたのでしょうか。

折坂:自分の書く歌詞が映画の補足になっちゃいけないと思っていたので、私の思う物語というか、また別の物語……というように作り始めました。脚本を読んで面白いと思ったのが、3人の話がちょっとだけ被ってる部分があるところだったんです。

——3人ともイカの塩辛が好きとか。

折坂:そうそう。そういう作り方が面白いと思ったので、歌詞も映画とは違う物語を書きながら、どこか被っているところがある。歌詞に「荒川土手」という言葉が出てきますが、その道を今までいろんな人生が歩いてきて、そこでは重なりながらもまた違う道を行く。そういう感じで、いろんな物語のひとつとして自分の歌があったらいいかなって思いました。

——柴田さんはどんな風に歌詞に向き合ったのでしょうか。

柴田:折坂さんの歌詞は、結構、具体的に書かれていて人が見えてくるものだったので、私はそこに風景を差し込むようにしようと思ったんです。最後に歌が重なるところもあるし、「人と風景」みたいな感じになったら良いかなって。

折坂:柴田さんがどんな歌詞を書くのか、全然想像がつきませんでした。柴田さんの曲はこれまで聴いてきましたが時期によって全然違う。それで出来上がった歌詞を見ると、これまでのものともまた違っていて……いや、違っていないのかな。私の歌詞は日記のように、いろんなことをぐちゃぐちゃ書いているんですけど、柴田さんは外に出て歩きながら見たものをそのままメモするような感じで、変な喩(たと)えですけど、祖父からの手紙を読んでるみたいな。

柴田:えっ!? それって……。

折坂:これは私のイメージですけど、昔の人って少ない言葉で手紙をしたためるんですよ。だから、最初に読んだときは「どういうこと?」って思うけど、よくよく読むと「これしかないな」っていう文章になっている。柴田さんの歌詞はそんな感じでした。

——2人のデュエットはとても映画的だと思いました。まずドラマがあって、そこに風景のインサートショットが入る、みたいな。

折坂:まさにそうですね。柴田さんのパートは「これしかないな」と思ったし、それが入ったことで曲として完成したと思いました。

ドラマや映画の主題歌について

——これまでも折坂さんはTVドラマや映画の主題歌を手がけていますが、主題歌を書くときに気をつけていることはありますか?

折坂:映画の内容を歌詞でなぞらないってことですね。あと、曲の1音目はすごく大事だと思います。映画で曲が流れ始める時の感じというか。

——映画本編の空気とは関係なく、曲が派手に始まることがありますよね。タイアップ感満載というか。

折坂:この曲さえなければ……っていう作品もありますね(笑)。

柴田:曲を映画の内容に合わせすぎるのはどうかな、と私も思うけど、“ガチ合わせ”することで面白くなることもあるんですよね。ガチ合わせの奇跡が起きるっていうか、新しい物語がそこで始まるみたいな時がある。作品によりけりですけど。

——ガチ合わせミラクルがある?

柴田:それってアニメに多い気もします。ガチ合わせというほどでもないかもしれませんが、例えば(「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の)宇多田ヒカルさんの「Beautiful World」とか。

折坂:ああ、あれは私も大好きです。

——主題歌や挿入歌って、突然、映画の主人公みたいに前に出てくるので入れ方が難しいですよね。

柴田:主題歌ではないですけど、「コーダ あいのうた」の最後の方で主人公の女の子が歌うジョニ・ミッチェル「Both Sides Now」は良かったですね。

折坂:あれは本当に良かった! 曲自体、素晴らしいけど、それを効果的に使ってすごく良い効果が生まれていました。

——感動的なシーンになってましたね。柴田さんは本作のサントラをどんな風に作っていったのでしょうか。

柴田:監督が「この場面ではこんな音楽がいいと思う」と、アイデアが沸くような感じで伝えてくれました。あと、3人の「さとこ」さんの繋がりみたいなものも音楽で表現できたらいいですねっていう話にはなっていたので、メインテーマを3人でリンクさせていったりしました。

——監督が音楽のイメージを具体的に持っていたんですね。

柴田:そうですね。1人目の聡子のエピソードは映画「JUNO/ジュノ」のサントラみたいな感じとか。2人目の沙都子はK-POPみたいな感じとか。そういう監督のイメージに食らいつくようにして全力で作曲しました。

映画と自身の共通点

——お二人は映画にはどんな感想を持たれました?

折坂:それぞれ状況が違うけど、名前が同じ3人の女性の物語、という設定の段階で面白いですよね。その3人が物語を書くまでの話ですけど、映画って主人公が何かに向かって動いていく過程の物語が多いじゃないですか。例えば物語を書き始めた人が何かに巻き込まれていくとか。

——小説を書くことに挫折しながら成長するとか。ライバルと切磋琢磨するとか。

折坂:そうです。でも、この映画は出発点に立つまでの話。そういう映画ってこれまであまりなかった気がして新鮮でした。僕自身、(3人の「さとこ」と同じように)何か書きたいと思ってライター講座に通っていたことがあったんです。だから、3人が物語を書くようになる過程を観ながら「この感じ、懐かしいな」と思いました。

——ライター講座ではどんなことをしていたんですか?

折坂:脚本が書きたくて脚本講座に通っていたんですよ。20代前半の頃でした。クラスが上がるとゼミみたいになって、生徒がそれぞれ20枚程度のシナリオを書いてきて、みんなの前で読むんです。そして、みんなに添削してもらう。

——それは厳しい修行ですね。

折坂:大変ではありましたが、すごく楽しかったですね。そこにはいろんな人がいたんです。脚本を仕事にしようとしている人もいれば、老後の楽しみでやろうとする人もいる。普通、会社や学校では会わないような人たちが同じ教室にいる。そして、その人たちが自分の作品を読んで感想をくれるっていうのは、今思うとすごく豊かな時間だったと思います。

——年齢や職業がバラバラな人たちが横並びで意見を交わす。なかなかそういう環境はないですね。

折坂:横並びっていうのがいいんですよ。みんなに褒めてもらえたんですけど、先生にだけは厳しく言われました。でも、いろんな感想をもらえるのが嬉しかった。いろんな場所があっていいんですけど、ひとつのジャンルを極めた人たちだけがいる場所っていうより、いろんな人生を歩んできた人たちの中で何かやって、そこにいる人がいろんなものを持って帰る。そんな表現をやりたいと思っていて、私が音楽を届けたいのはそういう場所なんです。

——ライブに近い環境ですけど、ちょっと違いますね。ライブのお客さんは折坂さんの曲が好きな人ばかりだし。

折坂:あと、ライブだと一方通行になってしまう時もある。みんなが感想を言い合える場所になると良いのになって思います。

——柴田さんは大学時代に、先生に言われた一言で音楽を始めたそうですね。映画の最初に出てくる中学生の「聡子」が、先生に言われて小説を書き始めるというシチュエーションに似ているのでは?

柴田:言われてみればそうですね。いま、気づきました(笑)。私は先生から「君は歌うか踊るか、どっちかだな」と言われて、映画の聡子さんと同じように「えっ!?」と思ったんです。それで踊るのは無理だけど歌ならできるかもしれないなって。大学の先生も、映画の先生と同じように何を考えているのか分からないというか、マイウェイな先生でしたね。

——先生に言われて音楽を始めて、それが自分にとって大切なものになったのはいつ頃ですか?

柴田:はっきりと自覚したのは割と最近です。ここ2~3年くらい。それまでは自分のために曲を書いているという意識も全然なくて。「売れたいな」と思うことはあっても、音楽を作るのが自分にとってどういうことなのかなんて何も考えてなかったんです。

——「さとこはいつも」はヒロインが自分の物語を書き始めるまでの映画ですが、お2人はそれ以降の人生を送ってきた。音楽を通じて自分の物語を書き続けてきたんですね。

柴田:音楽が自分にとってかなり大事なものになっていることに気づいて震えてます。これができなくなったらヤバいんじゃないかって。依存が始まってるというか(笑)、それが良いことなのか悪いことなのか分からない。

折坂:私は早い段階で音楽がないと自分はダメなんだって気づきました。「この一カ月はライブがないからゆっくりしよう」と思っても、ずっとソワソワしてしまう。「ライブがあるから練習しなきゃ」とか、「締め切りが迫ってるから早く曲を書かなきゃ」って急かされている方が頭がスッキリしている。最近、「自分には音楽しかないんだ」と思い始めて戦慄してます(笑)。

PHOTOS:MIKAKO KOZAI(L MANAGEMENT)

作品概要

◾️映画「さとこはいつも」
9月18日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
出演:有村架純
石田ひかり  姫野花春
黒田大輔 宮部純子 泉有乃 大月美里果 小川冬晴
青木柚 川瀬陽太 島田桃依 中井友望 中村優子
細田佳央太 鳴海唯 髙田万作 古舘寛治
吉田羊 オダギリジョー 筒井道隆
監督・脚本 沖田修一
音楽 柴田聡子 
主題歌 折坂悠太 「シミレ(feat.柴田聡子)」
製作幹事 アミューズクリエイティブスタジオ
配給 ハピネットファントム・スタジオ 
制作プロダクション オフィス・シロウズ
©2026 「さとこはいつも」製作委員会

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