ファッション

「ビルケンシュトック」の靴作りの舞台裏 「エトロ」コラボの製造現場で見た伝統と創造性の融合

ビルケンシュトック(BIRKENSTOCK)」のルーツは、1774年にドイツの教会文書に靴職人ヨハネス・ビルケンシュトック(Johannes Birkenstock)の名が記録されたことにさかのぼる。以来、250年以上にわたる機能的で丈夫な靴作りの伝統と、4世代目のコンラッド・ビルケンシュトック(Konrad Birkenstock)が探求した足の健康を考えた靴への理念を受け継ぎながら発展。現在も7カ所ある生産拠点のうち6つをドイツを構え、大半の製品を国内で作り上げている。その核となるのが、足の構造を研究する中で生み出された独自のフットベッド。機能性を追求するデザイン哲学のもと、“マドリッド(MADRID)”や “アリゾナ(ARIZONA)”“ボストン(BOSTON)”“チューリッヒ(ZURICH)”“ギゼ(GIZEH)”といった数々のアイコニックなモデルを生み、世界中で幅広く愛されるブランドになった。

2019年には、フランス・パリにクリエイティブスタジオを開設。20年に始動したエクスクルーシブライン“1774”では、これまでに培ってきた技術やクラフツマンシップを基盤に独自のコレクションを手掛けるほか、「ディオール(DIOR)」のメンズや「ジル サンダー(JIL SANDER)」「マノロ ブラニク(MANOLO BLAHNIK)」「レペット(REPETTO)」など他ブランドとのコラボレーションにも本格的に取り組んできた。そして26-27年秋冬からは、新たに「エトロ(ETRO)」との協業をスタート。その第1弾として、今年誕生50周年を迎えたクロッグ“ボストン“とトングサンダルの“ギゼ“を「エトロ」の美学で再解釈したモデルを9月10日に発売した。

「WWDJAPAN」は今回、ドイツ東部のゲルリッツとベルンシュタットにある工場を訪れ、「エトロ」とのコラボによる“ギゼ“の製造現場を取材。受け継がれる伝統と現代のテクノロジーを掛け合わせた「ビルケンシュトック」のモノ作りの舞台裏に迫る。

ドイツ国内で100%製造するフットベッド

「世界中の全ての人々の足の健康をサポートすること」を使命に掲げる「ビルケンシュトック」では、その実現に欠かせない解剖学に基づいたフットベッドをドイツ国内で全て製造している。それを支えるのが、今回見学したゲルリッツの工場だ。中心素材となるコルクは、主にワイン栓の製造過程で生じる副産物をポルトガルから調達。製造工程は2種類の粒度で粉砕されたコルクを、ラテックスと混ぜ合わせてペースト状にするところから始まる。それをジュートを敷いた金型にペーストを注入し、職人の手で形を整えた後、耐久性を高めるためのジュートとライニングのレザーを重ね、専用機械でプレスしながら加熱。約7分かけて、ヒールカップやアーチを備えた立体的な形状のフットベッドを焼き上げる。そして乾燥後、別の機械でコーティングを施し、最後に一つひとつ人間の目と手で品質チェックを行っている。

耐久性と柔軟性を兼ね備えるレザーアッパー

現在は多様化するニーズに応えるため、アッパーにオリジナルの合成皮革“ビルコフロー(Birko-Flor)”やフェルトを用いたモデルもあるが、メーンはナチュラルレザー。足になじみながら長年履き続けられるよう、「ビルケンシュトック」では一般的に靴に用いられるものよりも厚みのある2.8〜3.2mmのレザーを採用しているという。今回訪れたベルンシュタットの工場では、さまざまなモデルのアッパーを製作する。ヨーロッパ内から調達した革は、品質や厚みをチェックした後、各モデルとサイズに合わせた型と圧力を用いる裁断機でカット。その際、傷のある部分にはあらかじめ印を付け、左右で色味にムラが出ないように1足分ずつをペアで裁断することになっている。今も機械と人の手を組み合わせた作業が中心となるが、素材の無駄をできる限り減らすように分析・最適化する全自動のカッティングマシンも昨年導入した。裁断後、補強パーツの貼り合わせや、クロッグの場合は金属の足型と熱を使った予備成形などを経て、アッパーが完成する。

協業ブランドの美学を映し出すディテール

「ビルケンシュトック」は、あらゆるコラボレーションにブランドの核となるフットベッドを必ず用いる一方、それ以外の部分は協業ブランドの美学やクリエイティビティーを反映し、独創的なデザインを打ち出している。「エトロ」との協業では、“ギゼ“にはフリンジパーツ、“ボストン“にはリーフモチーフの刺しゅうを採用。金具もオリジナルで、「エトロ」のロゴに見られる “ペガソ(ペガサス)“をあしらったリベットと、ウエスタンスタイルの装飾的なバックルやベルトの剣先を覆うパーツを製作した。また、協業相手によってはアウトソールに手を加えることもある。今回は、「ビルケンシュトック」の“ボーン“パターンと「エトロ」を象徴するペイズリーを組み合わせたデザインに仕上げている。

職人の手仕事がカギとなる組み立て作業

ベルンシュタットやゲルリッツの工場では、各拠点で作られたパーツを製品へと仕上げる「最終組み立て」も行う。その一部は新たな機械の導入によりオートメーション(自動化)を進めているものの、特に上質な素材使いやユニークなデザインが特徴の“1774”ラインの生産を担うベルンシュタットでは、たくさんの職人たちが手作業で製品を作り上げている。その工程は、完成したフットベッドとアッパーの貼り合わせから、接着剤の密着性を高めるためのアッパーの粗化処理、アウトソールの接着、リベット打ち、バックルの取り付け、そして最終検品、各モデルに合わせたタグ付けやパッケージングまで。生産体制強化のために自動化できる部分を探りつつも、伝統的な靴作りのマニュアルプロセスを維持しているという。世界的なビッグブランドになった今でも、多くの工程に手仕事を生かし、ドイツ国内で内製し続けていることは正直驚きだった。

深まるファッションとの関係

そんなモノ作りの核を守る一方で、外部のクリエイティビティーを受け入れてきたことも、現在の「ビルケンシュトック」を語るうえで大切な要素だ。ブランドの歴史をひもとくと、ファッション界との関係が生まれたのは、ニューヨーク拠点のデザイナーであるアンドレ・ウォーカー(Andre Walker)がコレクション発表に「ビルケンシュトック」のサンダルを用いた1983年。その後、85年には英国版「エル(ELLE)」に“ボストン”が掲載され、90年には英雑誌「ザ フェイス(THE FACE)」のエディトリアルでケイト・モス(Kate Moss)が着用。92年には、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)が「ペリー エリス(PERRY ELLIS)」のために手掛けた“グランジ”コレクションのランウエイで、カスタマイズした“アリゾナ”を使用した。これは協業ではなく、あくまでデザイナーの自発的な行動だったという。

そして「ビルケンシュトック」は、2003年からドイツ人スーパーモデルのハイディ・クルム(Heidi Klum)とタッグを組んだコレクションを制作。18年の「リック・オウエンス(RICK OWENS)」以降、デザイナーとのコラボレーションを本格化させた。その協業相手はラグジュアリーからコンテンポラリーやストリート、そしてブライダルまで幅広く、靴作りの伝統と創造性を融合したスタイルが生み出されてきた。現在もさまざまなプロジェクトが進行中で、27年春夏は「エトロ」とのコラボを継続するほか、「サカイ(SACAI)」と一緒に制作したフットウエア2型とバッグも発売予定だ。

関連タグの最新記事

ファッションの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

特集 HUMAN MADE 天才NIGO®に依存しない「カルチャー×ビジネス」の設計図

「WWDJAPAN」9月7日発売号は、HUMAN MADEを特集します。2025年11月に東証グロース市場へ上場し、日本のファッション業界の台風の目となった同社。創業者NIGO®の求心力を原動力にしながら、そのカリスマ性に依存しない企業へと組み替えられていく設計図を、全9ページで解き明かします。 特集の冒頭は、「ヒューマンメイド」の2010年のファーストコレクション発表から今日までを一枚の年表で俯…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。