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唯一無二の個性を放つ俳優・渋川清彦 50歳の節目を迎えて今思うこと 

PROFILE: 渋川清彦/俳優

PROFILE: (しぶかわ・きよひこ)1974年7月2日生まれ、群馬県渋川市出身。98年に「ポルノスター」(豊田利晃監督)で映画デビュー。2013年、「そして泥船はゆく」(渡辺紘文監督)で単独初主演を飾る。16年、「お盆の弟」(大埼章監督)、「アレノ」(越川道夫監督)で第37回ヨコハマ映画祭主演男優賞受賞。 19年、第32回 日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞 助演男優賞受賞。20年、「半世界」(阪本順治監督)で第34回高崎映画祭最優秀助演男優賞受賞。その他の主な出演作に「Playback」(12/三宅唱監督)、「榎田貿易堂」(18/飯塚健監督)、「泣き虫しょったんの奇跡」(18/豊田利晃監督)、「閉鎖病棟-それぞれの朝-」(19/平山秀幸監督)、「偶然と想像」(21/濱口竜介監督)、「夜明けのすべて」(24/三宅唱監督)、「あるいは、ユートピア」(24/金允洙監督)、「箱男」(24/石井岳龍監督)、「少年と犬」(25/瀬々敬久監督)などがある。

6月20日から公開される映画「中山教頭の人生テスト」は、「教誨師」(2018)、「夜を走る」(21)の佐向大の最新監督作だ。舞台は山梨県のとある小学校。物腰が低く平和主義者の中山教頭が、5年1組の臨時担任を任されたことをきっかけに、いくつもの問題に向き合わざるを得なくなり……。主人公の中山教頭を演じるのは、1998年に豊田利晃監督の「ポルノスター」で俳優デビューして以降、唯一無二の個性を放つ俳優としてキャリアを築いている渋川清彦だ。ヒールやアウトローの役が似合うが、お人好しの役もチャーミングに体現する。そんな彼が演じる「教頭先生」は、渋川清彦にしか醸し出せない人間味のあるキャラクターになっている。50歳という節目に公開される主演映画を入り口に、誰もまねのできないフィルモグラフィーを飄々と更新し続ける渋川清彦の魅力を探る。

教頭先生を演じて

——「あのKEEさんが教頭先生役!」と、感慨深いものがありました。20代のモデル時代から渋川さんのキャリアを同じ時代で見てきた者として。

渋川清彦(以下、渋川):そうですか(笑)。俺としては、「お盆の弟」(2015)に近い感じかな、と思いました。キャラクターが似てるし。自分がよくやる、フラフラしていて頼りないんだけど、一つ芯があるキャラクターで。台詞も面白いなと思いました。生徒たちに向けて言っていることに嘘がない。実は反骨精神のある教頭で。俺はパンク(ミュージック)が好きなんで、共感できる、好きなキャラクターですね。主演も「久しぶりだな」くらいの感じで、そこで特別気合いが入ったということはなかったです。

——主演は7年ぶりですね。佐向監督が脚本を書くときに、渋川さんをイメージしていたそうです。教頭先生に、教育委員会の岸本(風間杜夫)が、「殺し屋みたいな顔して」と言う台詞はつまり、渋川さんのことですよね(笑)。

渋川:風間さん、言ってましたね、そういえば(笑)。教頭が悩んでいるときの顔ですよね。そっか、面白いですね。

——面白いです。「殺し屋みたいな顔」の俳優さんは、そういう役に配置されることが多いのに、渋川さんは教頭先生や、最近ではドラマ「地震のあとで」(NHK)で神の教えを説く宗教家など、役の幅を広げています。

渋川:そう言われると、確かにそうですね。ややこしい役というか、難しい役が増えてきてますね。今回の役、「地震のあとで」とも通じるものを感じます。

——善や正しさを求める(求められる)職業なのに、自分の弱さを認めて、言葉にしてしまう。そういう役を、作り手は渋川さんに演じてほしいんだな、と。

渋川:そうかそうか。いや、そういうふうに言ってもらえると納得いきます。自分じゃ気づかないことなんで。

——教頭先生らしさ、みたいなものが世の中にはなんとなく共有されていると思うのですが、どうやって今回の人物像を作っていきましたか?

渋川:「教頭先生って、実際のところ何やってるのかな?」って佐向さんが言ってて、俺も「そうだな」って。いざ自分の母校の教頭先生を思い出そうとしても、1人も思い出せないし。だから教頭先生については勉強してやったわけではなく。脚本に書かれている台詞でキャラクターを探していきました。

——先ほど言った「好きなキャラクター」ということは、役に共感しながら演じることができたということでしょうか。

渋川:そうですね。多分、佐向さんの作品、佐向さんの性格に共感しているんですよね。佐向さんの「夜を走る」を見て、不穏な感じの中に希望があるようなあの世界観に共感しました。監督の色はやっぱり作品に出るんで。そうじゃないとね、映画監督じゃないなって思います。

50歳という節目に思うこと

——この主演映画は、渋川さんが50歳のタイミングで公開されます。30歳で芸名をモデル時代のKEEから現在の渋川清彦に変えたこともありましたが、50歳に対して節目の意識はありますか?

渋川:あったはあったんですけど、49歳で体にいろいろありまして。もう終わったからいいんですけど、腫瘍がこの辺り(喉付近)にできて。良性だったんですけど、デカいこぶみたいになってちょっと嫌だったんで、一昨年の年末に摘出したんです。49歳で1回いろんなことがリセットになって、50歳からよしいくぞと思ったら、またいろんなことが出てきてしまって。悪いことじゃないんですけどね。それを今、乗り越えている感じです。

——病気を経験して何か変わりましたか? 仕事への向き合い方や、この先の生き方など。

渋川:いや、あんまり変わらないかなぁ……。あ、タバコはちょっと落としました。

——落とした? 本数を減らしたのではなく?

渋川:普通のホープ(14mg)からスーパーライト(6mg)に(タールの量を)落としました(笑)。スーパーライトはスーパーライトで慣れるもんで、軽くてもよくなりました。でもたまにガツンとしたのを吸うと、「やっぱうまいな」というのはありますね。

——喜びが増えましたね(笑)。今後やっていきたい仕事のイメージにも変化はないのでしょうか。

渋川:30歳からも40歳からもそんなに変わってなくて、「こういうのをやりたい」というのはずっとないんですよね。今は、新しい人や、一緒にやりたいと思っていた人と(作品を)やるのが楽しいです。最近も、ある監督さんと初めて仕事ができて、すごくうれしくて。あと、強いて言うなら京都の仕事を増やしていきたいです。撮影所が楽しいんですよ。たまに行くんですけど、京都の撮影所の、昔ながらのシステムがすごくいいんです。

——太秦(東映京都撮影所)ですよね?

渋川:そうです。館内放送で「第◯スタジオでなになにの撮影です」「誰々さんどこそこに行ってください」みたいなのが流れるのも、東京では全くないシステムですよね。伝統的な映画づくりの名残が感じられるのが楽しいし、ウキウキします。俳優の人はみんな思っていると思いますよ。京都自体も面白いです。街中は人(観光客)がいっぱいいますけど、太秦あたりはそうでもないんで。時代劇って、やっぱりすごく面白いです。

——時代劇にはもともと興味がありました?

渋川:ありました。30歳前後のときも一瞬「鬼平(犯科帳)」にハマっていた時期がありまして。昨年はドラマ「新・暴れん坊将軍」(2025年1月放送済み)をやりました。しかも(演出が)三池(崇史)さんで、俺は悪役で。あれは本当に楽しかったです。

豊田利晃監督との関係

——三池監督とは何度もお仕事されていますが、同じく豊田利晃監督作品には全て出演しています。今年公開予定の長編映画「次元を超える」にももちろん出演していますし、4月には飛騨市で渋川さんが主演した短編3本をまとめた「狼蘇山シリーズ」の上映会とトークショーをしていましたね。渋川さんが豊田作品に出るのは当たり前、という関係ですか? 

渋川:そうですね。豊田さんの現場は豊田さんがプロデューサー兼監督なんで、「どっかの合間に1日やろう」「誰かスタッフを集めてすぐやろう」みたいな感じで、パッと行ってパッと撮る。役を作るとか、台詞を覚えてとかいう感じでもないので、それはそれですごく面白いです。豊田さん、修験道にハマってまして。山伏っていうんですかね。狼蘇山シリーズはそれなので、結構大変なんですよ。

——滝に打たれたり。

渋川:そうそうそう(笑)。アスファルトの上で五体投地をやったりね。それで俺は旅ができたりするんで、すごく面白いです。

——撮った作品の公開日は事前に決まっている?

渋川:決まってないですね。全くもって。

——役者さんは自分が出た作品がいつ人に見てもらえるのかを気にすると思うんです。渋川さんは現場で豊田さんと撮るというところで完結しているのでしょうか?

渋川:そうですね。豊田さんに関して、まあ好きな監督に対してはそうですよね。別にそれが上映されなくてもどうということではなくて。でもいつかは上映するんじゃないかなと(笑)。豊田さんの場合は、面白いことをやってるんで、俺はそれに乗っかってるだけという話ですかね。

——「次元を超える」はいつ公開される予定ですか?

渋川:日本だと今年の秋には公開するんじゃないかな。外国では2月にロッテルダム(国際映画祭)、5月にフランクフルトの「ニッポン・コネクション」で上映したので、もう完成はしてます。

——豊田さんの作品をきっかけに、自分も海外で見てほしいという意識はありますか?

渋川:それはあんまりないですね。外国でやりたいから英語を勉強するということもないですし。 

——そうなんですね。役は選びますか?

渋川:基本、オファーが来たら受けるという感じです。でも確か一度だけ、死姦する役を断りました。でも、その映画には出たような気がします。死姦はなくしてもらって、殺すだけにしてもらいました。自分でも理由は分かんないんですけど、なんか「やだな」と思って。

——その「なんかやだな」は分かるような気がします。これまでたくさんの役を演じてきて、今回、「教頭先生をやる年齢になったかー」と思いましたか?

渋川:ちょっと思いました。40歳過ぎぐらいから「子どもがいる役が多くなったな」とはなんとなく思ってました。で、今回は教頭かと。

「これまでの役者人生、あっという間だった」

——これまでのキャリアを振り返るとどんなことを思いますか? 「頑張ったな」「もっとやれたな」「あっという間だったな」など。

渋川:あっという間ではありますかね。俺、頑張ったのかなあ。でも頑張ってるつもりはそんなにないですけど。ずっと「もう潰しが効かない」と思ってやってましたけど、今でも同じ感覚なのかもしれないし。でもそんなに(自分のキャリアについて)考えてなかったのかもなあ……。まあ、運が良かったなとは思います。(モデルになる)きっかけも、ナン・ゴールディンに写真を撮らせてくれって声をかけられたからですし。でも、運がいいなりに、勉強しながらやってますよね。

——自己分析するのは難しいかもしれませんが、渋川さんが長い時間をかけて少しずつ役者として大きくなった理由ってなんだと思いますか? メジャー作品にも出演する一方で、豊田さんと当たり前のように自主映画を作り続けているところに、大切な何かを売り渡していないなと感じます。

渋川:うん、それ(売り渡していない)はありますね。芝居をちゃんと学んできた人へのコンプレックスみたいなものがずっとありますよね。俺が好きな先人はちゃんと芝居を学んでいたりするので、そこはずっとあります。あるけど、「じゃあ俺もやるか!」とはならないというか、まあなんか大丈夫かな、という感じもちょっとあります(笑)。

——そこの飄々と流れていく感じが渋川さんですよね(笑)。ところで今日のお召し物は私服だそうですね。別のインタビューで「服は全然買わない」とおっしゃっていて驚きました。

渋川:そうなんですよ。自腹ではあまり買わないですね。こういう取材のときにお金が出たら買うぐらいです(笑)。このシャツもそうです。1940年代くらいのビンテージで、多分3〜4万円するんです。まったくそんな値段に見えないですけどね。古着のシャツが好きなんです。

——行きつけのお店があるんですか?

渋川:10代から知ってる、原宿の古着屋さん。「ジャックス」っていうんですけど、フィフティー(50年代)、シックスティー(60年代)が専門です。買うとなったら必ずそこに行きます。

——ジーンズも育てているとか。

渋川:そう。今日のこれは「リー(LEE)」。

——あ、広告に出演されている。

渋川:これ、広告で履いたやつです。1954年の“アメリカン ライダース 101Z”っていう、「理由なき反抗」でジェームス・ディーンが履いていたモデルです。広告の撮影に、自分が持っている「リー」のジーンズを何本か持っていって、「『リー』、すごい好きなんですよ」って言ったら、撮影で履いたジーンズをもらえました。大事に育てます(笑)。

PHOTOS:MAYUMI HOSOKURA

映画「中山教頭の人生テスト」

◾️映画「中山教頭の人生テスト」
6月20日から全国公開
出演:渋川清彦
高野志穂/ 渡部秀/ 高橋努/ 大角英夫/ 田野井健/ 川面千晶/ 足立智充/ 安藤聖/ 大鶴義丹/ 風間杜夫/ 石田えり
監督・脚本:佐向大
配給:ライツキューブ
https://nakayama-kyoto.com/

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