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世界を熱狂させる謎のキャラクター「ラブブ」 中国発の玩具メーカーが仕掛けるIPビジネス

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2010年に設立した中国発の玩具メーカー・ポップマートは、現在30カ国以上の国と地域で500を超える店舗を展開している。日本でも東京を中心に9つの直営店をオープンし、連日行列が絶えない店舗も少なくない。そんな今注目の企業が生み出したキャラクター「ラブブ」が、世界で急激に人気を高めている。日本でも“ぶさカワ(ぶさいくでカワイイ)”人形として、少しずつメディアに取り上げられることが増えてきたものの、すでにグローバル規模では品薄状態が続くほどの熱狂ぶりだ。キャラクターIPビジネスに強いことで知られてきた日本にとって、「ラブブ」の出現は脅威かもしれない。

「ラブブ」の生みの親は香港出身のアーティストであるカシン・ロン(龍家昇)だ。同氏が2013年に台湾で発表した絵本作品「マイ リトル プラネット」で初めて描き、15年発売のシリーズ作「ザ・モンスターズ」を出版したことで、世間に知られるようになった。ウサギのような耳と不敵な笑みを浮かべたシニカルな表情が特徴で、中国発の玩具メーカーであるポップマートとのコラボレーションによって、19年にフィギュアとして発売されて以降、コレクターズトイとして成長。これまでに、コラボアイテムやバッグチャームを含めて300型以上を販売してきた。

起爆剤となったのはSNSで、25年に入ってからインターネット上で急激に関心が高まり、TikTokでは「#ラブブ」のタグがついた動画が160万本以上、インスタグラムでは100万本以上存在する(5月12日時点)。最近の“バッグチャームじゃら付け”のトレンドにも乗っており、ラグジュアリー市場を席巻している。BLACKPINKのリサ、リアーナ、デュア・リパ、ポスト・マローンらのセレブリティーや、タイの王族までもが「ラブブ」のファンであると公言しているほどだ。

ポップマートのアメリカ地域のIP担当者のエミリー・ブラフによれば、「『ラブブ』は単なるコレクターズアイテムの枠を超え、個人のスタイルを大胆に表現するツールになっている」という。実際、3月のパリ・ファッション・ウイークや5月のカンヌ国際映画祭でも、バッグに「ラブブ」のキーチャームを付けたスタイルが見られた。ポップマートはほかにも、パンダの着ぐるみを着た子どもがモチーフの「スカルパンダ」や、架空のガールズパンクバンドのメンバーがモチーフの「ピーチライオット」などの人気キャラクターを送り出してきたが、「それらと同様に『ラブブ』はファッション文脈にコレクターズアイテムを持ち込むのに適した存在で、セレブリティーやスタイリストの関心の高さからも可能性の広がりを感じる」とブラフIP担当者は話す。

今年3月にはイギリスの老舗百貨店ハロッズが、6週間にわたるポップアップを開催したことからも、「ラブブ」に対する世間の熱狂がうかがえる。レアな限定モデルを購入し、在廊する作者のロンを一目見るために、熱烈なファンたちが開店前から店の外に長い列を作った。また、ロンがファッション誌の「パーフェクト」と共に、同月にロンドンのドーバー ストリート マーケットでサインイベントを実施した際にも、抽選に当たった約100人のファンによる行列が見られた。彼らは自分の「ラブブ」コレクションを持参しただけでなく、中には「ラブブ」風の服を着せたペットを連れてきた人もいた。

人気の秘密は
“ブラインドボックス戦略”にアリ

「ラブブ」がこれほどまでに注目度を高めた理由の一つに、ポップマートによるブラインドボックス戦略がある。箱を開けるまでどのフィギュアが入っているか分からないというガチャガチャのような仕様で、購入者に驚きと発見を与えて気分を盛り上げる狙いだ。各シリーズには標準的なフィギュアのパターンのほかに、少なくとも一つ以上のシークレットフィギュアを入れており、入手困難さがコレクター心に火を付けてきた。ブラフIP担当者いわく、「これは単なる製品に体験価値を持ち込み、他者とその体験を共有したり、商品を交換したりする楽しさを演出する。また、ポップマートが売り出す新たなキャラクターと世間とのエンゲージメントを即座に築く効果もある」。SNS上ではインフルエンサーの多くがブラインドボックスの開封動画を投稿している。

他のキャラクターシリーズと比較すると、「ラブブ」はファッション業界での人気が非常に高く、限定スニーカーや「エルメス」の“バーキン”のような希少性を誇るアイテムもある。他のキャラクターのブラインドボックスが平均して13〜16ドル(約1872〜2304円)であるのに対し、「ラブブ」の最新シリーズは27ドル(約3888円)と高めの価格設定。とはいえ、ブラフIP担当者は「ファンが参入障壁を感じることなく収集できるように、ポップマートは手頃な価格帯を維持しようと意識している。もちろん、フィギュアの素材や作りの複雑さによって価格が多少変動することはあるが、“手に入れやすさ”を重視する姿勢に変わりはない」と強調する。「ラブブ」は転売業者の買い占め対象になっており、商品によってはオンライン市場の「ストックX」や「eBay」などで3134ドル(約45万1296円)もの高値を付けているものも存在する。

積極的なコラボレーション企画

「ラブブ」はさまざまなアーティストや企業とコラボレーションをしてきた。代表的なのは、SFイラストレーターの横山宏やコカ・コーラ、ユニクロ、中国発のデザイナーズブランド「プロナウンス」との協業だ。中でも、ファッション業界での注目企画は、6月10日に発表した「サカイ」とK-Popアイドルのセブンティーン、ファレル・ウィリアムスが運営するオークションサイト「ジュピター」とのプロジェクトだろう。セブンティーンの新曲「Bad Influence」をファレルがプロデュースしたことと、そのMVの中でメンバーが「サカイ」の衣装をまとっていることが背景にある。同グループは13人のメンバーで構成しているため、「サカイ」がデザインしたベージュのオールインワンを着用した「ラブブ」13体と、シークレットモデル1体を「ジュピター」に出品し、18日まで入札を受け付けている。

ブラフIP担当者は、「われわれのビジネスはまだ始まったばかりだ。『ラブブ』の新商品を世界規模で発表し続けるつもりだし、同時に全ての人が自分にとって親しみやすいキャラクターを見つけられるように、他のキャラクターのリーチを広げていく」という。「世界観に没入できる店舗からオンライン販売まで、クリエイティブな世界に命を吹き込める新たな方法を模索中だ。ファンダムを成長させるとともに、ポップマートの世界観も成長するだろう」。

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