「コメット コレクティヴ(COMETES COLLECTIVE)」は、「シャネル(CHANEL)」が2022年10月に創設した新世代のアーティストコミュニティー。スペイン出身のアミィ・ドラマ(Ammy Drammeh)、フランス出身のセシル・パラヴィナ(Cecile Paravina)、中国出身のヴァレンティナ・リー(Valentina Li)が初期メンバーとして選ばれ、シャネル メークアップ クリエイティブ ストゥディオと協業の下でビューティのクリエイションを手掛けている。
「シャネル」は、色彩によって個性を表現する“カラー オブ アリュール(魅力)”を提唱。メゾンのアコードを継承しながら、ビューティに新風をもたらす「コメット コレクティヴ」の3人に、約2年半にわたる「シャネル」での活動を振り返ってもらったほか、それぞれが最も大切にしている色などを聞いた。
モダンでタイムレス、アバンギャルドなブランド
WWD:「シャネル」で活動し始めた当時をどのように振り返る?
アミィ・ドラマ(以下、アミィ):「シャネル」のアーカイブに初めて訪れ、ブランドの歴史に深く触れた時、このブランドに俄然興味を持ちました。100年ほど前に作られた製品は今見てもモダンで、本当にタイムレスなブランドだと思いました。
セシル・パラヴィナ(以下、セシル):初めてアーカイブを訪問した時、私は特にパッケージに引かれました。例えば最初の“シャネル N゜5”のボトルは、研究所のボトルをそのまま持ってきて使うというやり方自体が、1900年代にはとても革新的なアプローチだと思いました。
ヴァレンティナ・リー(以下、ヴァレンティナ):正直最初は「シャネル」とのつながりがあまり見えていませんでしたが、アーカイブへ足を運び、ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)の話を聞くうちに、ブランドとのつながりを感じるようになりました。また、「シャネル」は当初から私たち3人に敬意を払ってくれて、自由なクリエイションを後押ししてくれました。化粧品を作るということは、ただ色をデザインするのではなく、ストーリー全体をデザインすることなのだと、シャネル メークアップ クリエイティブ ストゥディオとの協業を通して気づきました。
WWD:「シャネル」が掲げる“アリュール”やブランドの歴史、アイデンティティーをどのように捉え、「コメット コレクティヴ」ならではの視点やスタイルをどのように表現しているのか?
アミィ:これまでには存在しなかったけれど、ブランドと深い部分で共鳴する製品を作り出すことが重要と考えています。最初のコレクションは大きな挑戦でした。今までになかった色を使いながら、なじみのあるテクスチャーと合わせるなど、伝統と新鮮さの理想的なバランスを見つけるのに苦戦しました。ブランドの歴史をさかのぼると冒険的な色も多く、必ずしも大衆に受け入れられるような製品ばかりではありませんでしたが、「シャネル」というブランドが提案することで、アイコニックなメッセージ性が生まれてきたのだと思います。
ヴァレンティナ:私にとって“アリュール”とは、自分自身に対して誠実であること。人と違う、ユニークな存在であることを認めること。「シャネル」はクラシックでモダンというイメージがあるかもしれませんが、アバンギャルドでもあります。昔からアイメイクに赤や、ピンクっぽい黄など奇抜な色を使っていたと知って驚きました。私たちはそんな「シャネル」のDNAに、新たな視点を持ち込むことを使命としています。バックグラウンドも異なれば、「美」の価値観もさまざまな3人の異なる色合いを重ねながら、今後も「シャネル」に貢献していきます。
セシル:私は二つのことを大切にしています。一つ目は、ガブリエル・シャネルの歴史に深く潜り込むこと。彼女は実現したいライフスタイルがあり、意図を持って洋服やフレグランス、化粧品を作ってきました。例えばつま先が黒い靴は、「靴を汚したくないけれど、歩かなければならない」という思いからデザインされました。こういった歴史を知ると、クリエイティブにはさまざまな可能性があることに気づかされる。
二つ目は、メゾンのストーリーをベースに、意外性のある色を採用するなどして、ひねりを加えること。例えば、2月に発売したメイクアップコレクション“カメリア フトゥーラ ブライトニング コレクション”ではメゾンを象徴するカメリアを着想源に、パールグリーンやパールブルーなどを採用しました。一方で軽いテクスチャーに仕上げることで、奇抜な色でありながら使いやすさにもこだわりました。
多様性を尊重し、高め合う関係
WWD:3人でどのようにお互いに刺激を与え、協力しているのか?
セシル:私たちはいつも、SNSアプリ「ワッツアップ(What’s App)」のグループチャットでアドバイスをし合っています。メイクアップアーティストとして活動することや、ブランドのコンサルティングをすることは、独立した仕事に見えるかもしれませんが、3人の間でもそうだし、シャネル メークアップ クリエイティブ ストゥディオとも常に協業しています。消費者は非常に多様で、異なるニーズや「美」の価値観、スタイルを持っています。異なるバックグラウンドの3人で意見を交わし合うことで、巨大なマーケットへ向けて新たな価値を提案していけると思います。
ヴァレンティナ:ほかのメイクアップアーティストと協業するのは初めてだったので、最初はうまくやっていけるのか不安でしたが、初めて会った日に「美」というテーマで語り合い、すぐに意気投合しました。私たちは「コメット コレクティヴ」として、自分のエゴは捨て、同じ目的のために働いています。1人で活動していた時は孤独を感じたり、自己不信に陥ったりすることもありました。でも今は、新色を開発していて、暗いスキントーンにも合うかしら?と思った時にはアミィに相談するといったように、意見を交わすことで製品開発に生かしています。私たちはバックグラウンドや肌の色も異なるからこそ、日々お互いから学び合っているのです。
アミィ:メイクアップアーティストを長く続けていると、自分の「美」のビジョンが固まってきて、いつの間にか自分を周囲から切り離してしまうことがあります。3人で意見を交換し合うことで、とても視野が広がったし、新たなアイデアが生まれてきました。セシルはマットな仕上がりを好み、ヴァレンティナは艶っぽさを求めるように、私たちの間でも嗜好は一様ではありません。それぞれの感性の違いこそが、より多くの人々に響くプロダクトを生み出す原動力になります。巨大な市場に向けて、多様な価値観に応える製品開発が必要だと感じています。3人、そしてシャネル メークアップ クリエイティブ ストゥディオとの協業はとてもシームレスで、お互いの良さを理解しながら支え合えることがうれしいです。
WWD:それぞれが最も大切にしている色と、その色にまつわるエピソードを教えてほしい。
ヴァレンティナ:個人的に一番好きな色は青ですが、私がメイクで最も大切にしている色は赤です。赤はパッションの色であり、私のメイクに対するパッションを表す色でもあると思っています。赤はとても強い色ですが、一方でいろいろな色と相性がいいのです。
メイクの勉強を始めたころ、雑誌で見た「シャネル」のビンテージ広告が忘れられません。その広告でまぶたを彩っていたのは、赤いアイシャドウ。その赤はただの色ではなく、モデルの目に流れる血のようでもあり、強烈な印象を残しました。私にとっての赤は、情熱の象徴であると同時に、メイクという表現を通じて語られるストーリーの一端のようなものです。
アミィ:私の場合は、自分の個性を象徴する、これといった色は特にありません。年齢や気分、場所によっても引かれる色は変わってくるから。ただ思い出という点でいえば、ゴールドです。実は若いころはゴールドが好きじゃなくて、シルバーばかり身につけていました。ゴールドを身につけるように母に説得されてもダメで、「大人になれば、ゴールドの良さが分かるようになるわよ」と言われていました。真に、今では私のジュエリーのほとんどはゴールドで、メイクをする時もゴールドでちょっとしたアクセントをつけるのが好きです。
セシル:私が大切にしている色はグリーンです。特に翡翠の色が好きで、「シャネル」ではこういった色をたくさん作りました。メイクでは珍しい色ですが、赤やピンクといった王道の色も、このグリーンと合わせることでより美しさが際立ちます。本当にすてきな組み合わせで、さまざまな肌の色に合うと思います。少し大胆ですが、本当に胸がときめく色なので、翡翠の色が大好きです。
マルチユースで、多様なニーズに応えられる製品開発
WWD:プロダクトやキャンペーンを通じて、どのような「美」を表現したいと考えているのか?
アミィ:私たち3人は、マルチユースで多面的な製品をもっと作りたいと考えています。軽やかなテクスチャーが特徴の、スティックタイプのフェイスカラー“ボーム エサンシエル”はその一例です。頰の高い位置にのせ、フレッシュでデューイな印象を演出したり、クリームタイプのチークを塗る前に頰になじませ、シアーでぬれたようなみずみずしい効果を生み出したりできます。まぶたに塗布すると艶やかな仕上がりに、眉骨の上に添えれば眉のアーチが美しく際立ちます。
セシル:マルチユースと一言でいっても、一つの製品で何役もこなすような製品のほか、テクスチャーの妙によって一般的に使いやすいソフトな印象から、よりプロフェッショナルなメイクアップやナイトルックまで仕上げられるような製品があり、その両方を重視しています。
ヴァレンティナ:リキッドリップ“ル ルージュ デュオ ウルトラ トゥニュ”は唇にのみ使用する製品ですが、ぼかしたような仕上がりや、きっちりと縁取ったボールドなリップなど、多様な表現ができます。リップカラーの反対側に付属する透明のグロスでコーティングすることで、艶のある仕上がりもかなえることができます。
WWD:今後「シャネル」で挑戦したいことは?
アミィ:開発には時間がかかったとしても、気軽でエフォートレスに感じる製品を作りたいです。ビビッドな色合いで、冒険的に見える製品であっても、つけてみると軽やかなテクスチャーで、その人のパーソナリティーの一部と感じてもらえるような製品を目指しています。
ヴァレンティナ:私は、アミィの気軽さに遊び心を加えたいです。5月に発売した“レ ベージュ 2025 コレクション”のアイシャドウパレット“レ ベージュ パレット ルガール”には、目を引くような鮮やかなオレンジを入れました。メイクは自己愛や自己表現、自己発見の手法だと考えており、ルーティンになりがちな日々のメイクの中でも色で遊び、新たな自分を発見してほしいとの思いから、この色を採用しました。私は人々に、色を恐れないでと伝えたいです。メイクはただのメイクなんだから、もし気に入らなければ落とせばいいのです。
セシル:私は、非常にたくさんの製品が市場に溢れる中で、競争力があり、輝くような製品を作りたいです。気軽に手に取りやすい製品でありながら、ユニークであることも重要。自分自身を特別に感じられ、日常に刺激を与えられるような製品を届けたいです。