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“世界で最も美しい店を作る男”、ラムダン・トゥアミが中目黒に新店開業 スイスの山にハマっているワケは?

PROFILE: ラムダン・トゥアミ/アーティスティック・ディレクター

ラムダン・トゥアミ/アーティスティック・ディレクター
PROFILE: PROFILE: 1974年、フランス生まれ。2014年には配偶者のヴィクトワール・ドゥ・タイヤック(Victoire de Taillac)と「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」を復活させ、大きな成功をおさめる。20年にはLVMHに売却したが、以降もアーティスティック・ディレクターとして携わる PHOTO:SATOMI YAMAUCHI

フランスの実業家・デザイナーであり、パリの総合美容専門店「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー(OFFICINE UNIVERSELLE BULY)」復活の立役者であるラムダン・トゥアミ(Ramdane Touhami)が手掛けるコンセプトショップ「ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプス(WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES)」が、東京・中目黒にオープンした。日本1号店となる同店は、2024年10月にオープンしたパリ・マレの本店に続く2店舗目だ。

オリジナルの最上級カジュアルブランド「ディ・ドライべーグ(DIE DREI BERGE)」をはじめ、自身が創設した出版レーベル「パーマネント・ファイルズ(PERMANENT FILES)」から刊行するマガジン「USELESS FIGHTERS(ユースレス・ファイターズ)」など、ラムダン・トゥアミの世界観が堪能できる。活動から目が離せない彼に、中目黒の新店について話を聞いた。

ーー今回のショップを含むプロジェクトのテーマは、“山”だと聞いています。

ラムダン・トゥアミ(以下、ラムダン):正しくは、自然がテーマです。山だけではなく、自然にまつわるショップ。正直、山はどうでもいいんです。私の父は農夫でよく山に連れて行ってくれていたので、子供のころから自然に親しんできました。だから地球環境に配慮して、この店ではプラスチックは使わない。私たちの使命でありこだわりは、石油由来の素材を使わないで服を作ること。ゼロ・プラスチックを目指しています。ここに置いてある全てのアイテムはオリジナル。じっくり手にとって見ていただきたいですね。

「何かを作るとき、
最も美しいものを作りたい」

ーー店内にある商品の構成を教えてください。

ラムダン:全てオリジナルで、(パリ店の品ぞろえに)新しいコートを追加しています。加えていくつかの新商品をご用意しています。でも、ファッション業界の一年を大きく2シーズンに分けてコレクションを作るアイデアは好きじゃない。もっと自由にその時の気分で好きなものを選んでほしい。寒ければジャンパーを買って、暑ければTシャツを買う。私は既存のルールを気にしません。ひとつだけ譲れないことは、クオリティーについて。品質がいいものを作ることができる工場を知りたいし、生産者を知りたいと常々思っています。最近は糸から作ることに取り組む必要があるとさえ思うくらい。このダービーシューズを見て。ディテールに夢中なんです。私は何かを作るとき、最も美しいものを作りたいと思っている。この発想こそが、店全体のストーリーだとわかるでしょう?

ーー店名の「ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプス」に込めた意味は何ですか。

ラムダン:私たちは言葉を使うからWords。自分たちのラジオ番組を持っているのでSounds。Colorsは私たちが色を愛しているから。そしてShapesは、私たちはさまざまな造形をプロデュースしているから。常にこれらの要素で世界を作りたいと思っている。ちなみに、この店名はドナルド・バード(Donald Byrd)というジャズマンのアルバムタイトルからとりました。私は彼の大ファンなんだ。この言葉を知ったとき、「正しい響きだ!」と感じたし、いつか店の名前にしたいと思った。BGMにも彼の曲を流しているし、何より本人が「このタイトルが好きだ」と語っていたんだ。

ーー店内で特に気に入っている箇所はありますか。

ラムダン:とても面白い店になったと思う。私がプロデュースする、スイスの山岳地帯ミューレン村にある「ホテル ドライベーグ(HOTEL DREI BERGE)」に少し似ているんだ。実際にホテルの内装を見れば分かるけれど、同じムードになっている。こういうウッディーなシャレーみたいな感じだけど、同じようにモダンな感じに仕上げているんです。

ーーショップの外観は淡いグリーン。どのような考えでこの色になったのでしょうか。

ラムダン:私の愛車、1940〜50年代のホンダのバモスからとった色です。この車の緑色で全面を塗ったビルが欲しいと思ったんだ。いつか車を変えたら、どうしよう(笑)?僕はクレイジーだからさ、また色を変えることになるかも知れないね。

ーー中目黒を選んだ理由は。

ラムダン:この街が私にとってまるで村のようだから。友達がみんな住んでいるし、自分の家も中目黒にあります。いいコーヒーショップの場所も知っていますしね。それに、ここには登山が好きな仲間がたくさんいるんですよ。例えば、昨日プレオープン前に来てくれた「マウンテンリサーチ(MOUNTAIN RESEACH)」の小林節正さん。それに、他にもアウトドアブランドで働く友人や仲間が大勢駆けつけてくれました。

ーー店内には、スイスの山々の写真や古い電話などがありますね。以前、「WAM」というスイスにまつわる本も出版されています。スイスに何か特別な思いがあるのでしょうか。

ラムダン:いや、スイスという国自体にはあまり興味がなくて、どちらかというと自然が好きなんです。スイスは美しい自然があるし、すごく気に入っている山がある。それに、スイスと日本には興味深い共通点があると前々から思っているよ。スイスの国土の70%は山で、日本は75%が山。そして世界で一番時間通りに電車が来るのは日本、2位はスイス。中立国と戦争を放棄した国だしね。似ている点が多々あるんだ。それはとても奇妙で面白いことだと思う。多分、この2国はもっと世界のために一緒に話をしなければならないと思うよ。

「コストは調べない、
本当にどうでもいい」

ーー店内には、これまでに行った日本のブランドとのコラボレーションアイテムもそろえています。

ラムダン:「ポーター(PORTER)」とコラボしたバッグだね。ポリシーとしてプラスチック由来の素材は使わない。代わりに100%コットンのキャンバスを使っています。「ポーター」ではダークカラーが好まれるけど、私は白。「ポーター」はあまり明るい色を使わないけれど、私たちはディテールにたくさん色を使っています。「ポーター」は軽いバッグで知られていますが、私たちのバッグはとても重い(笑)。そして、生産コストもとても高い。発売時は「値段が高すぎる」と散々言われたけど、2時間で売り切れたんだ。

ーー原価率やプライシングを度外視するのは、 ビジネス的なノウハウや勝算があってのことですか。

ラムダン:いや、思いついたらすぐに行動に移さないと気がすまないんだ。いいと思ったらやってみて、後々につながっていけばいい。それに、多くのブランドは価格設定を(高くすることを)あきらめているように感じます。みんな絶対に売れるようになるべく安くしようとするんだけど、個人的にそこは全く気にしない。事前にコストは調べないし、本当にどうでもいい。それは、ビジネスよりも趣味に近いからかもしれないね。「理解できない」とよく言われるけど。「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」でも同じことをしました。そして、とてもうまくいった!

ーー日本の職人や工場とのモノ作りの醍醐味を教えてください。

ラムダン:彼らが“ホンモノ”を理解してくれるという点です。だから彼らとは話し合いができる。そしてお互いに信頼しあえれば、ずっと友達でいられる。日本人はたった一つのことを目的に動くと考えています。それが信頼関係を築くことなんだ。これが壊れたら、永遠に相手を失うことになってしまう。

ーーオリジナルブランド「ディ・ドライベーグ」の名前の由来は。

ラムダン:スイスの「ホテル ドライベーグ」に由来した名前にしたんだ。ホテルの目の前には3つの山があるんだけど、いつも見るたびに「ファック」と思うよ。こんな巨大な山を毎度、無料で見ることができるんだから。それが僕のホテルの魅力の一つ。あの山々を前にすると、「ここが好きなんだな」と心から思う。写真を眺めるだけで懐かしく感じるくらい、夢中なんだ。

ーー日本でも山の近くにホテルを作る予定はありますか。

ラムダン:挑戦はしているけれど、かなり難しい。まず、日本人は昔に比べて山に行かなくなりました。とても不思議なことです。日本で一番好きな場所は青森。ほか、長野や五島列島(長崎)も好きですね。北海道は海外からの観光客であふれかえっているから、あまり好きじゃない(笑)。私が日本にいるのは外国人を見るためじゃない。日本人に会いに行くためなんだ。日本の山は好きだけど、やはり圧倒されるのはスイスの山。最高に美しくて想像を絶する。クレイジーなんだ。マッターホルンやユングフラウ、アイガーのようにスイスには有名な山がたくさんある。だけど、それらはあまりにも有名すぎるように感じている。私のホテルがあるスイスのミューレン村の雰囲気を先に知ってしまうと、よく知られた山には拍子抜けしてしまうと思うよ。

ーー山ではどのように過ごすのですか。

ラムダン:ハイキングです。歩いて登って、降りて、登って、降りて、登って、降りて。それしかしない。最高の過ごし方です。

ーーアウトドア製品のアーカイブを収集していますし、パリで手掛ける「ア ヤングハイカー(A YOUNG HIKER)」ではラギッドなテイストのアイテムを扱っていますね。機能性を生かした、テッキーなアイテムが重宝される今のアウトドア市場の流れとは、やや逆行しているようにも感じます。

ラムダン:古いアウトドアギアは、デザインのインスピレーションの資料として買っているわけではありません。正直、自分でも何で買うのかわからない。例えば、私たちは山をモチーフにしたラグを作っています。「ホテル ドライベーグ」の真正面にそびえるスイスの三大名峰をデザインしたものです。日本の富士山をモチーフにしたラグも作りました。こんなデザインのラグ、誰も作らないでしょう。それと同じことかも知れない。

ーーその反骨精神は、「マウンテンリサーチ」の小林さんとも通じますね。

ラムダン:彼のパンクなところが大好きなんだ。本当に気が合うし、お互いに似た雰囲気を持っていると思っている。つまり、友情なんだ。僕がここにいる理由の一つは、彼の近くにいること。「ノンネイティブ(NONNATIVE)」を手掛けるサーフェン智もそんな友人の1人です。

2階にカフェ、3階にギャラリーも
オープン予定

ーーあなたにとって日本とは。

ラムダン:1990年代から日本のことが大好きでした。当時はTシャツを作って売っていました。そのころから、日本特有のカルチャーに興味があったんです。当時、藤原ヒロシさんを始めとする裏原宿の人たちと出会い、友達になりました。私たちはずっと同じ時間を共にしていると感じています。

ーー90年代には東京に住んでいたそうですね。その時代に得たことは何ですか。

ラムダン:東京は大きく変わりました。昔はとても未来的に感じたよ。今はとても古くなって、とても奇妙です。それが悪いとは言わないし、良いとも言わない。でも、今でも東京が大好きです。僕はバブル崩壊の後、97年に初めて日本に来たんだ。覚えてるのは、新宿の路上にいた大勢のホームレス、恵比寿のクラブ「リキッドルーム」や今はなき西麻布の「イエロー」。それらのクラブはすばらしかった!そこでDJをやったこともありますよ。若かったし、すべてがクールに感じた。でも「ああ、前の方が良かった」と思うのは年をとったからだ。過去が現在より優れていたからではなく、自分が年齢を重ねて優れた存在になったのであって、決して周りのものが優れていたからではないと思うよ。

ーーインスタグラムでは、自身のクリエーションについてと共に、世界情勢に対する思いも投稿していますね。

ラムダン:いま、大虐殺が起きている。そこに対してメッセージなんてないよ。ただ、「人間であれ」というだけ。世界はとても奇妙な方向に進んでいる。それについて、誰も気にかけていないことは確かだ。無反応なのは普通じゃないし、若者やファッション業界が何も話題にしないのもおかしい。日本人に「政治的であれ」とは言わないけど、少なくとも僕たちは行動に移している。人々も惨状をSNSで見ているが、誰も動かないじゃないか。正直なところ、僕は今のアメリカに対して何の情熱も持っていないよ。彼らを憎むことはできないけれど、アメリカは解決策というより問題だと思う。世界は8年前と同じことをまた繰り返していると思うよ。

ーー今後控えている、新しいプロジェクトを教えてください。

ラムダン:多くのことが進行中です。まず、「ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプス」は1階がショップで、この後は2階にカフェ、3階にギャラリーをオープンする予定。あとは、私の雑誌「ユースレス・ファイターズ」の第3号を出すつもり。それから社会風刺的なアートやグラフィックが好きで、1960〜70年代のレジスタンス運動に関連するものなどを20年にわたって収集してきました。このコレクションを基盤にした古書店「ラディカル メディア アーカイブ」を開き、コレクションをまとめた本も刊行しました。この夏には「ラディカル メディア アーカイブ」の美術館もパリに開く予定があります。

ーーたくさんのプロジェクトを、うまく同時進行するコツはありますか。

ラムダン:毎日、本当に本当に忙しいです。でも、とにかくやる、行動するに尽きるよ。私にも家庭があって、3人の子どももいる。大変だよ(笑)。でも子どもたちはリラックスしていて、とてもクールだと思う。自身のデザイン会社も運営しているし、「ザラ(ZARA)」のコーヒーチェーンも作ったばかり。自分のためにいろいろなものを作り続けているんだ。

◼️「WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES」
住所:東京都目黒区青葉台2-16-7
営業時間:12時-20時
定休日:月曜日
電話:03-6455-1847

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