ファッション

オープンから1年足らずでミシュラン一つ星 「ゴ・エ・ミヨ」にも選出されたフレンチ「アポテオーズ」が届ける“記憶に残るレストラン体験”

森ビルが運営する「東京ノード(TOKYO NODE)」内のフレンチレストラン「アポテオーズ(APOTHEOSE)」の北村啓太シェフは今年、フランス発のレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」で“明日のグランシェフ賞”を受賞した。同賞は、確固たる基本技術の上に独自の料理世界を築き、優れた才能として日本の料理界をけん引することが期待される料理人へ贈られるもの。「アポテオーズ」はフランス語で「最高の賞賛」を意味し、“日本の風土をフレンチで表現する”をテーマに掲げ、2023年11月にオープンした。オープンから1年足らずでミシュラン一つ星を獲得するなど、注目を集めている。北村シェフに店舗作りのこだわりや、ターニングポイントを聞いた。

ヒノキの香りや温かみのある店舗デザイン

「東京ノード」の最上階に位置する「アポテオーズ」の店内へ入ると、ヒノキを中心にベルガモットやシナモンリーフ、パチュリを加えた香りが鼻腔をくすぐる。北村シェフは、「料理がおいしいのは当たり前。一つのレストラン体験として記憶に残るアプローチを考えた」と、アロナチュラ(ARONATURA)のアロマセラピスト山内みよ氏に依頼してオリジナルの香りを作ったことを明らかにした。落ち着く香りは、大都会の喧騒から離れるきっかけになる。日本には、「フランス料理は堅苦しい」というイメージを持っている人も多いが、「肩肘張らずに食事をしてほしい」という思いから、空間は北欧デザインを採用。木や石などの多様な素材を用い、ナチュラルで温かい空気感を作り出した。特注の食器は、石川県金沢市を拠点に活動するクリエイティブ集団「セッカ(SECCA)」が手掛けた。

コースのメニューはその日入荷した食材に応じて変化させ、3カ月に1回フルモデルチェンジする。北村シェフは、「自分は野菜が大好き。季節を表現するのにも野菜が一番適しているためふんだんに使う」といい、メニューの約80%は野菜で構成する。「日本の野菜や野草は面白い。森にある木の実や、その瞬間にしか採れないような新芽なども取り入れている。レシピ通りに何かを作ることはしない。作りたい料理は素材が教えてくれるので、素材が到着してから調理方法を考える。修行時代に培った料理の技術を生かし、自分が今素直に感じるもの・ことをお皿の上で表現したい」と語り、色とりどりの野菜・野草を使った美しい料理を披露する。

全11品ほど(食材によって微動)で3万円のコースは基本的に、アミューズ3品にメインを含む5品、デザート3品で構成する。「メインは出すが、それ以外は全て前菜と考えている」という。5月は明石鯛とモンゴウイカ、6月は希少価値の高い北海道積丹のウニなどを打ち出す(仕入れによって変動の可能性あり)。「日本でフランスの食材を輸入すると、価格は4〜5倍もするのに質があまりよくない。日本にある、おいしくて鮮度のよい食材を採用している」。

「オープン当初は食材がなかなかそろわなかったこともあり、あまり料理としてまとめきれていなかった」と振り返る。「フランス料理は濃厚な味わいのものも多いので、秋冬は特においしく感じる。去年の秋に、パリ時代に作っていたテイストを強めた料理を提供してみたらお客さまの反応がよかった。日本の風土をフレンチで表現したいと思いつつも、お客さまが求めているものはやはりフランス料理。フランスで修行をした自分にとっては当たり前の味でも、日本のお客さまにとってはそうでないと再確認した。変に“日本らしさ”にこだわりすぎず、素直に表現してみるのもありだと思った」と発想の転換があったことを明らかにした。

「秋には必ずミシュラン二つ星を獲る」

「スペシャリテは自分で打ち出すものではないと思う」と話す北村シェフは、「顧客の反応がよいものは万人受けするもの」と考え、スペシャリテとして確立させているという。“キャベツのパイ包み”は、スペシャリテに発展したメニューの一例だ。北海道産の熟成させた紫キャベツとサボイキャベツ、寒玉キャベツによる紫と黄のコントラストが特徴の一品。「数回食べに来てくれている、師匠の成澤由浩シェフが初めて『これはいい』と言ってくれたので自信を持てた」という。

パリで経験を積んだ北村シェフは、「日本である程度技術を習得し、28歳で渡仏した。最初に働き始めたビストロでは、毎日食材に応じてメニューを変えるため臨機応変な対応力が身についた。その後ミシュラン三つ星のレストランで働く中で感性を刺激されつつも、一方で日本の仕事の精度の高さを再発見することもあった。修行する側から表現する側にシフトチェンジしようと考えていたので、『アポテオーズ』として新たな挑戦ができてうれしい」と語った。

「ゴ・エ・ミヨ」で“明日のグランシェフ賞”を受賞したことについては、「今年同賞を受賞したのは、フレンチでは自分だけだった。全国で選ばれるのは難しいこと。素直にうれしかった」と話した。ミシュラン一つ星を獲得したときは、「二つ星を獲るつもりだったので悔しかった。フレンチでどこがおいしいかと考えたときに、一番に思い浮かぶ店へ成長させたい。海外の二つ星や三つ星のレストランを常に見ており、世界で戦える三つ星レストランを目指している。秋には必ず二つ星を獲る」とコメントした。

「ゴ・エ・ミヨ」とは

「ゴ・エ・ミヨ」とは、フランス人ジャーナリストのアンリ・ゴ(Henri Gault)とクリスチャン・ミヨ(Christian Millau)が1972年にパリで創刊したレストランガイド。日本版は2017年に発刊し、現在世界15カ国で展開する。同レストランガイドは、単に料理だけでなく、「予約の電話から見送りまで」を総合的に評価し、レストランという舞台全体を支えるプロフェッショナルに注目する独自の姿勢を貫いている。

「東京ノード」とは

「東京ノード」は、23年に開業した「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の最上部に位置する情報発信拠点。約1万㎡の複合施設には、イベントホールやギャラリー、レストラン、ルーフトップガーデンなどが集積する。施設内には、レストランやイノベーティブなプレーヤーが集まる研究開発チーム「東京ノードラボ(TOKYO NODE LAB)」の活動拠点も併設。「NODE=結節点」という名の通り、テクノロジーやアート、エンターテインメントなど、あらゆる領域を超えて、最先端の体験コンテンツやサービス、ビジネスを生み出し、世界に発信する。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

メンズ47ブランドの推しスタイル 2025-26年秋冬メンズ・リアルトレンド

「WWDJAPAN」6月16日号は、2025-26年秋冬シーズンのメンズ・リアルトレンドを特集します。ウィメンズに比べるとトレンドが見えづらいと言われるメンズウエアマーケットですが、近年、多くのブランドやアパレル企業が直面しているのは、気候変動という現実的な課題。夏が長く、冬が短くなっている中で、商品の投入スケジュールを調整したり、重衣料から軽アウターや通年着られるアイテムに秋冬物の軸足を移したり…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。