伊バッグブランド「フェリージ(FELISI)」は、ファッションディレクターの鴨志田康人と協業した新ライン“フェラレージ(FERRARESI)”をこのほどスタートした。
同ブランドが正式にコラボレーションを実施するのは、創業以来これが初めてだ。日本のドレスクロージングに精通し、ユナイテッドアローズ時代はバイヤーとして数多くのバッグを見てきた鴨志田氏。「フェリージ」も、そんな同氏の経験と審美眼に信頼を寄せたのだろう。
「フェリージ」は2000年代に日本に上陸。当時の野暮ったいビジネスバッグとは一線を画す、軽やかなナイロン素材のブリーフバッグで、おしゃれなビジネスマンたちを虜にした。
ただ20年が経ち、働く男性の価値観も装いも大きく様変わりした。現代の男性がバッグに求める条件とは何か。“フェラレージ”のプレス展で鴨志田氏に話を聞いた。
スタイリングを引き立てるバッグを
WWD:“フェラレージ”について教えてほしい。
鴨志田康人(以下、鴨志田):フェリージが本社を構えるイタリア・フェラーラの街並みや人々からインスパイアされたレザーバッグを作った。実は本社を訪れるのは今回が初めてだったが、街の温かみやこじんまりとした美しさ、石やレンガの色味などに惹かれ、ナチュラルでモダンなカラーリングのバッグを作ろうと思った。構想から完成まで2年ほど要したが、いいバッグができたと思っている。
WWD:「フェリージ」はこれまで、他のブランドや人物とはコラボしてこなかった。初めての協業のプロセスはどうだったか。
鴨志田:確かにフェリージはファミリー企業で、保守的な一面もある。でも今回は「新しいフェリージを作って欲しい」という言葉をもらったし、前向きな意思をすごく感じた。都度こちらの意見を柔軟に受け入れてくれ、スムーズでいいコラボができた。僕自身、バイヤーとしてバッグを見てきた経験はあるけれど、バッグを作るのは初めて。そこをプロの彼らがしっかり形にしてくれた。
WWD:「フェリージ」の既存商品とは、何が違うのか。
鴨志田:「フェリージ」はすでにバッグカテゴリーでは“オーセンティック”なイメージかもしれないが、自分たちが使い始めた2000年代初頭は、むしろ革新的なブランドだった。革の重たいブリーフケースが主流だったところに、ナイロン素材でカラーバリエーションも豊富な「フェリージ」が登場し、若いビジネスマンの装いにぴったりとはまった。
“フェラレージ”では、そうしたブランドの過去の文脈を踏まえつつ、今の時代のライフスタイルに合わせてアップデートした。今の人たちはワードローブにあまり色を使わず、黒やベージュ、グレーなどが主流。そこに少しだけ色を足すことで、全体のスタイリングが一気に引き立つ。そんな「さりげない主張」ができるバッグを目指した。
WWD:実用の面では、どうか。
鴨志田:今はデジタル化で書類もずいぶん減った。20年前と比べても、求められるバッグ像が変わっている。ポーチ1つで出勤する人も増えた。僕自身も仕事の必需品はiPadと生地のスワッチくらい。昔のような「いかにもビジネスマン」なバッグは、今はむしろ敬遠される。
一方で、用途によっていくつもバッグを持つのは、今の若い人にとってはリーズナブルじゃない。オフの日に旅行に行くときも使えたり、何でも放り込めるような使い勝手のよさがあったりと、自由度の高さも求められる。余計なコンパートメントを廃したのもそのためだ。
飽きずに愛用できるものが
自分だけのクラシックになる
WWD:「フェリージ」といえばナイロン素材だが、“フェラレージ”はレザー素材を採用している。その理由は?
鴨志田:いま街には機能性を前面に押し出したバッグがあふれているが、そこに少しだけエレガンスを加えたいと思った。たとえばTシャツ姿が少しかっこよく見えるような、そんなバッグだ。クラシック好きやモード好き、あらゆるジャンルの人に似合うバッグを意識した結果、やはり使いたいのはレザーだった。
“フェラレージ”のバッグはとても軽い。芯材を使わず、カッティングと組み立てでフォルムを作っている。素材そのものはしっかりとした厚みのあるバケッタレザーだから、形状を保ちつつ、耐久性も十分。美しさと実用が共存するバッグに仕上がった。
WWD:インポートのレザーバッグの価格が軒並み高騰する今、“フェラレージの”20万円を切る価格は“お値打ち”に映る。
鴨志田:ハイブランドのバッグが100万円を超える中で、この品質とデザイン、耐久性を考えれば、むしろ投資価値があると思う。長く使えば味が出てくるし、実際に1年使った僕のバッグは、とても良い雰囲気になってきている。そうやって「飽きずに愛用できるもの」は、やがて自分だけの“クラシック”になっていく。
WWD:バイヤーたちの反応はどうか。
鴨志田:すでにアジア圏のセレクトショップなどが高い関心を寄せてくれている。特に香港やバンコクなどでは、昔からの知人のバイヤーたちが「これはいい」と即決でオーダーを入れてくれた。
個人的に、メンズファッションにおいて、東南アジア市場はますます重要になるエリア。ファッションへの関心が高まっていて、モノの良さを理解する若い世代も増えてきている。彼らは東京にも頻繁に来ていて、感度が高いし購買力もある。だからこそ、クラフトマンシップに裏打ちされたプロダクトにはいいリアクションを示してくれる。