PROFILE: 新井暁/en one tokyo副社長 ギャラリーコモン ディレクター(左)、岡田茂/en one tokyo飲食事業プロデューサー

原宿で最も注目されているクリエイティブ集団かもしれない。en one tokyo(西本将悠希社長)は、神宮前5・6丁目を中心にギャラリー、イベントスペース、飲食店など20以上の施設を運営し、企業のブランディングまで手がける。特に商業施設ジャイルの裏側にはバツアートギャラリー、ザ・マス、スタンドバイなどの同社運営の施設が集まっている。「シャネル」「ディオール」「ナイキ」「アディダス」といった有名ブランドも同社の施設でイベントを開いた。この数年で増えた「プラダ ビューティー」「シュウ ウエムラ」「オーデマ ピゲ(エーピー ラボ トウキョウ)」などの店舗も同社の施設で営業する。(この記事は「WWDJAPAN」2024年4月22日号からの抜粋です)
アート、イベント、フードなど
クリエイティブで新しい風を吹かす
新井暁/en one tokyo副社長 ギャラリーコモン ディレクター
岡田茂/en one tokyo飲食事業プロデューサー
2010年にキャットストリート近くの民家の2階を借りて、ストリートカルチャー出身の若手作家を紹介したのが始まりだった。当時、原宿にギャラリーはほとんどなかった。副社長の新井暁さんは「六本木、銀座、天王洲が中心だった東京のアートマップを塗り替えたい。次世代のアートを原宿から発信したいという夢があった」と振り返る。小さなスペースから始まった活動だが、人気ストリートブランドが展示会を開くなど、徐々にファッションコミュニティーに広がっていった。ギャラリー事業とエージェンシー事業を掛け合わせ、海外の作家を招いて作品販売するだけでなく、ファッションブランドに作家を紹介する手法も奏功。バツアートギャラリー、バンクギャラリーといった拠点も増えた。
学生時代からアートプロジェクトを手掛けてきた社長の西本さんは、「(16年の)ザ・マスの開業が大きかった」と話す。建築家・荒木信雄氏によるコンクリート造りのザ・マスは新しい景観を作り、周辺エリアの価値を高めた。「この頃から明確に街づくりを意識するようになった」。ハイブランドを含めた有力企業との仕事が増えたのもこのタイミングだ。人気ブランドが常設店とは異なるポップアップの店舗や展示会を開く動きが相次ぐようになった。
ハイブランドは表参道沿いにしか出ないのが常識だったが、コンセプチュアルなポップアップは隠れ家的な雰囲気の裏手のエリアが好まれた。新井さんは「ポップアップが盛んになる時代の波に乗れた。場を提供するだけでなく、コンテンツ作りにも僕らが携わる。事業領域が広がった」と話す。
18年には飲食事業に本格進出する。行列が絶えないうどん店「麺散(めんちらし)」である。飲食店経営で実績のある岡田茂さんがプロデュースした。「原宿でワンコインのうまいうどんの店があれば、買い物のお客さんも地元のお客さんも喜ぶに違いない。そしてen one tokyoが運営するのであれば、ユースカルチャーのハブになる店にしたかった」と言う。内装にも同社らしく数々のアート作品がちりばめられる。それでいて、かけうどん500円からと手頃だ。昨年秋には香港で「サカイ」と協業したうどんを展開して話題になった。一方、20年に開いた会員制ミュージックバー「不眠遊戯ライオン」は、20〜30代のコミュニティーとして機能している。
西本さん、新井さん、岡田さんはそろって41歳。90年代から2000代初頭の裏原宿カルチャーの洗礼を受けてきた世代だ。新井さんは「藤原ヒロシさんやNIGO®さんに代表されるような裏原宿カルチャーは、ファッションだけに限らない。裏原宿から派生した音楽やアートに強い影響を受けてきた僕らがこのエリアに新しい風を吹かせたい」と話す。