ファッション

「we+」が発見した「テキスタイルの現在地」【NUNO 須藤玲子の見果てぬ布の旅 vol.4】

前回に続いて、コンテンポラリーデザインスタジオ「we+(ウィープラス)」の林登志也氏と安藤北斗氏に話を聞く。麻布台ヒルズの大垣書店で開催中の「KYOTO ITO ITO Exploring Tango Threads 理想の糸を求めて(1月14日まで/以下KYOTO ITO ITOと略)」展で、須藤と協働したふたりは、布を構成する最小単位である「糸」に焦点を当てた。we+のデザインにとって、素材は常に重要な要素だ。

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we+が見た「テキスタイルとNUNO」

「素材の特性や可能性をリサーチして、どう扱うと面白いことができるかを見いだしていきます。KYOTO ITO ITOでは糸を追いかけることで、より布に近づけるのではないかと考えました」(林氏)。布はとても身近な素材で、入浴時以外は常に身につけている。あまりにも身近すぎて、その特性などは認識せぬまますごしているという人も多いだろう。「かつて布づくりは、職住接近で行われていた。自宅で蚕を育て、糸をたぐり、織物に仕立てていました。ものづくりの現場と生活がとても近かったんですね。現代は距離ができてしまって、ものがどこからどうやって生まれてきているかがわからない。KYOTO ITO ITOはこの距離を縮める試みであり、ものづくりの源流をたどる旅はとても刺激に満ちていました」(安藤氏)。

そうして糸に近づき、布づくりの片鱗が見えてくればくるほど、須藤がNUNOで行っていることの価値と偉大さも見えてきたという。「まず、布づくりに対しての姿勢が非常に柔軟です。新しい技術や新素材と、伝統的な技術や素材を線引きせず、そのどちらにも重きを置いている。そして実験を繰り返しています。糸を溶かしたり、熱によって変化する繊維をオーブンに入れてみたり、よくそんなこと思いつくなと。そして絹や綿や化学繊維といった既存の枠を超えて、金属や和紙も布にしていく。『糸になればどんな素材でも』と思ってらっしゃるのではないかと思います。そういうことを1980年代から継続してきているのだから、その蓄積はどれほどかと驚きます」(林氏)。

we+から見た「須藤玲子」像

「途絶えそうな素材や技術を発掘したり、新たな視点で価値を見いだすことにも長けている。たとえば蚕が最初に吐き出す糸である『きびそ』なんてまさにそう。現代では織り糸として使われなくなっていた『きびそ』に、須藤さんが光を当てた。素材を徹底的にリサーチするし、工場のポテンシャルを最大限に活かすべく、そこもリサーチを重ねる。だからものすごくロジカルだし、テクニカル。さまざまな要素を計算し尽くして、布に着地させていく。『素材からものをつくっていく』ことにものづくりの立脚点を見いだす姿勢は、我々に通じるものがあるというか、大先輩です」(安藤氏)。

もう一つの点が、「デザイナーであり、会社を運営する経営者でもある」点にも、ふたりの関心はおよぶ。「僕たちも同じ立場ですから、クリエイティブと経営という異なる側面を両立させる大変さ、ものづくりに純粋に没頭する姿勢を続ける難しさはよくわかります。それでも須藤さんは、クリエイティブに軸足を置く。ここがぶれない強さがあるからこそ、ずっと第一線で活躍されているのだと思います」(林氏)。

さらにふたりが強調するのが、須藤の「現場主義」な点だ。日本各地にちらばる産地に精力的に足を運び、職人とともにゴールを目指す。日本が誇るべき布づくりは、基盤となる工場があってこそ。NUNOらしい布をつくり続けるためにも、共に継続できる道を探り続ける。そして布という素材に大きな敬意をはらい、大切につくっている。サステナビリティがうたわれはじめるずっと前、それこそ1983年の創業当初から、循環する布づくりに取り組んでいるのもそのあらわれだ。

糸に焦点を当てることで布の特性を見いだす旅をへたふたりは、今後どのように布と向き合おうと考えているのだろうか。「布づくりの現場を間近で見ることができて、現代に生きる我々が布と対峙したらなにができるか、熟考する時間となりました。素材そのものに向き合えたことも大きい。現場のひとと一緒に、自分たちで手を動かして、布をつくってみたいです。布を媒介にして、過去と未来がつながるのではという期待もあります」(安藤氏)。「古代布に興味があります。すでに縄文時代には日本にも布が存在したと言われていて、たとえば平織りは5000年前から変わらない。ここまで変わらなかったものに、自分たちはどうアプローチできるのか。機会があれば、すべてのエネルギーを傾けて挑んでみたい」(林氏)。

ルーペで糸をのぞき込み、見えているようで見えていなかった糸の世界に入り込み、須藤がつくり出すテキスタイルへの理解を深めていった林氏と安藤氏。ふたりが手がける布を見るそのときが、待ち遠しい。

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