ビジネス

ファストリ柳井“社長”「10兆円達成は難しくない」 10月12日会見全文レポート

有料会員限定記事

ファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長は10月12日、2023年8月期決算説明会に登壇し、「売上高5兆円達成までの道筋はほぼ見えた。10兆円達成はけして途方もぬない目標ではない」と、10兆円企業を目指すとあらためて意欲を示した。また、ユニクロの根幹には「日本の美意識、精緻なものづくり、勤勉な精神、独自の価値観がある」とし、それらが世界に認められたことが成長の要因だと見方を示した。コツコツと努力することの重要性も繰り返し訴えた。

今回は、9月1日付でグループ上席執行役員でもある塚越大介ユニクログローバルCEOが、ユニクロの代表取締役社長兼COO(最高執行責任者)に就任してから初めての会見だったため、抜擢理由にも質問が多く寄せられた。塚越氏への評価や今後の経営体制についても言及した。柳井社長の発言をほぼ全文レポートする。

柳井正ファーストリテイリング会長兼社長(以下、柳井):ファーストリテイリングが今後どのような考え方で経営を行っていくのか、今何が最も重要だと考え、何を実行しようとしているかについてお話したいと思います。

2023年8月期の連結業績は増収増益でした。今後数年程度で売上高5兆円を達成し、さらに引き続き売上高10兆円の達成を目指します。世界の主要都市にグローバル旗艦店を出店していく現在のやり方で、売上高5兆円までの道筋はほぼ見えています。あとはこれを2倍にするだけで、そんなに難しいことではないと思っています。10兆円はけして途方もない目標だとは考えていません。

ユニクロの商売は、単に流行を追いかけるファッションビジネスではありません。LifeWearはお客さまの日々の暮らしを快適にする、究極の普段着です。優れたデザイン性やファッション性を備えながらも、高い機能性を持ち、着やすく快適で、しかも丈夫で長く着られる服を、誰でも買いやすい価格で世界中のお客さまにお届けしています。店舗やECで日常生活のベーシックなパーツをきっちりそろえ、固定フェイスで欠品なしで売っていく。お客さまが欲しい服が欲しい時にそこにあってすぐに買える。その安心感と信頼感でお客さまに何度も繰り返しご来店いただく。これがユニクロの成長の原動力となっています。

ユニクロの根幹は日本の美意識、精緻なものづくり、勤勉な精神にあり

私たちが世界に訴えてきた、このような新しい服の価値は、一体どこから来たのでしょうか?それは日本です。ユニクロの、そしてLifeWearの価値観の根幹は、日本にあります。1999年に制定したユニクロ初のブランドメッセージでは、こう言っています。「ユニクロは、あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です」。

ユニクロがまだ日本の全国区ですらなく、海外出店はわれわれの単なる夢でしかなかった。そういった時代に、ブランドメッセージにはあえて、日本の企業と入れました。日本の美意識や精緻なものづくり、勤勉な精神など、日本の持つ独自の価値を生かし、それを強みとして必ず世界に打って出る。私たちはそう考えていたんです。

2006年、世界の大都市で展開する旗艦店の先駆けとなった、ユニクロSOHOニューヨーク店の出店時から、私たちは日本発を高く掲げ、日本のカルチャーの魅力や独自性を世界に訴えてきました。ユニクロのロゴを英語だけでなくカタカナとの併記にしているのも、その象徴です。

ユニクロの服は、従来のファッションビジネスの常識を覆し、服をあえて日常生活を快適にするツールやパーツと定義し、あたかも工業製品をつくるように、精緻さ、厳格な品質管理で作ってきました。原材料の選定から素材開発、デザイン、機能、縫製、シルエット、色使いなど、服の細部まで、1枚1枚生産するプロセスに自ら関与して、深い信頼関係のある長年のパートナーと一緒に服をつくっています。そして、最先端の技術を駆使して、服そのものを常に革新し、進化させ、絶え間ない改善を繰り返してきました。このような日本の製造業の強みを生かした、精緻な服つくりこそが、ユニクロが世界でお客さまの支持を勝ち取り成長することができた最大の理由です。

コロナ後の世界はいたずらに華やかさや贅沢感を追い求めるのではなく、日々の暮らしを重視し、実質的な価値を伴った商品を求める方向に大きく変わりました。LifeWearが世界各地でお客さまに受け入れられている背景には、こうした時代の変化があります。

余計なものをそぎ落とし、シンプルに自分らしく生きる。一つの領域に特化してコツコツと専門性を磨き、誠実に商品をつくる。近年、LifeWearはとくに欧米社会で支持が急速に高まっています。その背景には、このような日本の美意識や価値観が世界中で社会の広い共感を得ている状況があります。

ヒートテックやウルトラライトダウンなど、機能性の高いベーシックな商品から、今、世界中で大人気の「チェンソーマン」のTシャツに至るまで、ユニクロの商品にはすべてのこうした発想が生きています。

値引き販売に頼ることなく、商品そのものの価値を正面からお客さまに訴え、日本発の新しい服として徹底的にブランディングに注力してきました。それによってグローバルブランドポジションが確実なものになっています。

「売上高2兆円は1枚1枚をコツコツ販売し、積み上げてきた結果」

私たちは、服を売る小売業です。それも、日常生活で着る小さな単価の商品がほとんどです。地方の炭鉱町の商店街から、売上高が2兆円を大きく超える今日まで、1枚1枚、毎日毎日コツコツと売り続けてここまできました。そこには何の秘訣も楽に儲ける近道もありません。店が1店舗でも1万店舗でも、やることは同じです。ひたすら真面目に、本当に良い商品をお客さまに提供し続ける。私は日本企業が生きる道はこうした道や精神しかないと考えています。今後も常に進化し続けるLifeWearを世界中で提供し続ければ、売上高10兆円の目標を超えて、次の段階にも行けると確信しています。

経営体制の面で、グローバルなビジネスをより強力に進めるために、次世代のチーム経営強化の一環として、今般、ユニクロの事業のグローバルCEOを務める塚越大介が株式会社ユニクロの代表取締役社長兼COOに就任しました。世界各国や各地域の経営者とともに、経営チームを構築すると同時に、弊社の全部門が連動・連携し、グループ一体となった、真の全員経営を実現し、経営の質を高めてもらいたいと考えています。

なお、私、柳井正は、今後も株式会社ユニクロの代表取締役会長兼CEOと、株式会社ファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長として、従来通り、グループ全体の経営の意思決定および経営執行をやってまいります。念のために申し添えますが、私もまだ現役で頑張りますので、どうか会長と呼ばずに、社長と呼んでください。心からお願い申し上げます(笑)。

これまで、各国の経営者や各部門の責任者などでチーム経営を実践してきましたが、今後も塚越を中心にその体制を強化していきます。すでに経営チームが中心となって、さらに次の世代を担う20代、30代の経営者候補を発掘し育成するサクセッションプランをつくり、世界各地で実行しつつあります。若い人たちの力に大いに期待しているところです。

世界の現状を見ると、戦争や貧富の差の拡大、気候変動など、解決すべき難題が山積しています。私は日本人、日本企業、そして日本という国は、私たちが培ってきた独自の文化や発想を生かし、世界の問題解決のために大きな貢献ができると確信しています。私たち私企業は世界中どこでも誰とでも商売が可能です。高い志を持つ個人や企業が政治の垣根を超えて力を合わせれば必ず平和で安定した世界をつくることができます。そのことを信じて、今後も変わることなく、服を変え、常識を変え、世界を変えていくための挑戦を進めてまいります。

【質疑応答】塚越氏をユニクロの社長兼COOに選んだワケ

Q:塚越さんがユニクロの代表取締役社長兼COOに就任したが、柳井さんの、塚越さんの能力の評価は?

柳井:まず、現場第一ということと、全体感を持っていること。実践していく。即断・即決・即実行する。それもよく考えて実行していく。修正点があればすぐ修正していく。それと、自分の考え方を言葉で、あるいは、いろいろな説明をうまくできるということで、COOにぴったりなのではないかと思いました。世界中で今からやることに関して理解している。やはり指導者としてはいいのではないかと思ってCOOに任命しました。

Q:今後のユニクロ事業において、チーム経営の中で、柳井さんと塚越さんの役割分担はどう考えているのか?とくに塚越さんは北米事業で手腕を発揮されたが、どういうところに期待しているのか?

柳井:役割分担はないんです。みんなそういうことばっかり言うんですよ。グローバルワン・全員経営でチームで経営していくので。多分、2人でチームになる。ということと、岡﨑(健CFO、ファーストリテイリンググループ上席執行役員)も含めて、シニアの経営陣がチームになっていくことがまず大事です。期待していることは、全部です。全部やってもらいたいと考えています。皆さんにも全部やってもらって、得意な分野に関しては力をぜひ発揮してもらいたいなと思っています、けど、経営者は全部やらなければいけないということなので、ここに出ている人だけでなしに、われわれの経営者全員、グローバルワン・全員経営で、チームで仕事をする。それと、個店経営、ということをお願いしたいなと思っています。

Q:会長でなく社長と呼んでとおっしゃっていましたが、ユニクロの次の後継者に必要なものをどう考えているのか?

柳井:次の経営者全員にお願いしたいのですが、やはり経営というのは、(ファーストリテイリングのステートメントである)「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という前に、普遍的な倫理のある服、それは、僕は真善美だと思っているんですけど、人間の良識的なものですよね。それを大事にした経営。それとやっぱり、売り場の人が主役になるような経営。そういうものをやってもらえたらいいんじゃないかなと思っています。

Q:塚越さんは次の後継者の有資格者ということか?

柳井:そうですね。それじゃなければ社長にしないですよね。ですから当然有資格者で、そういうことに対する指導者ということになると思います。

Q:今回、9月に塚越さんが社長に就任されましたが、機が熟したというような、何かタイミングがあるのか?

柳井:そんなこと考えてませんでした。まあ、自然に。熟したといえば熟したんでしょうね、これ。時期が一番いいんじゃないかと思いましたし、塚越くんも今、アメリカとかカナダをやってますけど、そろそろ全社的なことを始めてみてもいいんじゃないかなと思いまして。まあ、機が熟したといえば熟したということなんじゃないかなと。

Q:最近、日本と中国の外交や貿易関係が緊張してきた。スタッフの派遣や安全などをどう考えているか?

柳井:まず、お互いに変な愛国心や米中対立みたいなことが背景にある。本来は共存共栄しないといけないし、ストレスを感じずに相手のことを思ってやっていけばいい。そういう心配を感じたことは一切ありません。今後もないと信じています。安全保障の問題や政府の問題ばかりで、両国、あるいは米国、世界を含めて、共存共栄の精神自体が足りないんじゃないかなと思っています。われわれ、共存共栄以外に商売はできませんので、世界平和のために努力することが大事なんじゃないかなと考えています。

Q:先ほど10兆円の目標の道筋は見えているとおっしゃっていましたが、LifeWearの浸透などもあると思うのですが、もう少し具体的な戦略として教えてください。

柳井:(10兆円までは)道筋は見えていませんよ(笑)。ただ、そう難しくはないと思います。過去の成長と将来を見て。今、世界中の情報は誰でも簡単に手に入るし、反対に、自分のことも世界中に発信される。外国でも何でもできる。それがスマホの時代になって、デジタルの真骨頂のロボティクスが(進化する)。ほとんどの人がそういう武器を持っていると思うんですよ。ですから、世界中で商売をすれば、日本でなくても、中国でも東南アジアでもヨーロッパでも、その中で良い部分を取り出して、世界中でやったら、10兆円はみんなが考えるほど難しいことではない。のですけど、ただそれは、1店舗ごとに、1単品ごとに、いい商品でいいサービスで満足してもらう。お客さまが決めることなので、われわれはそれに向かって努力するだけだと考えています。

Q:海外が稼ぎ頭になるということだが、難民が増えたり、景況感も難しい。コロナ後の反動(増)も止まってきた。市況の見方は?終わった期は非常に好調だったが、今後もイケると考えているのか?

柳井:過去もそうだが、けしてそんなに簡単な時代ではなかった。ただやっぱり、われわれとしては、成長しよう、進歩しようと向き合ったので、全社員がそういう気持ちになって、各チームで一致団結してやれば(今後も)成長できるのではないかと思いますし、そう計画している。それも一時的な成長でなしに、持続的に成長して、ある意味では生き残るということが非常に大事なことなんじゃないかなと思います。世界で難題が山積しているのですが、そういったことよりも、自分たちとして、自分たちの商売をどうしたいのか、何が大事なことなのかを考えて行ったら、自ずと未来はあると思いますし、その答えはそれぞれの企業で答えは違うのではないかと思います。

UNIQLO x ビジネスの記事

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

“カワイイ”エボリューション! 2026年春夏ウィメンズリアルトレンド特集

「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。