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なぜTikTokでアートが人気? TikTokクリエイター による美術館のLIVE配信から学ぶ

 TikTok上の幅広いコンテンツの中で、今注目されているのがアートだ。「#Art」は3310億回、「#アート」は10億回の視聴があり(2022年9月末現在)、さまざまな切り口の動画が投稿されている。こうした動きはオフラインにも影響を与えており、森美術館にはTikTokをきっかけとする来場者が増加。その来場者が展示会の様子をTikTokで紹介するという循環も生まれた。今回、館内から配信されたクリエイターによるTikTok LIVEに密着。なぜ“TikTokでアート”なのか、人気の理由を探った。

美術館を一緒に
回っているような没入感

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「耳で聴く美術館」Avi。1年前にTikTokを開設し、現在は約13万人のフォロワーを抱える

 この日、配信で回ったのは、東京・六本木の森美術館が11月6日まで開催する「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」。配信では展示された国内外のアーティスト16人のうち、4人を紹介した。

 配信に登場したのは、TikTokでアート作品や美術展を紹介するアカウント「耳で聴く美術館」Aviと、森美術館のキュレーター。作品を巡りながら、作品そのものだけでなく展示の裏側や作家の小ネタまで話を膨らませる。壁一面を使ってダイナミックに展示される堀尾貞治氏の作品 《「色塗り」シリーズ》 では、知らなければ見過ごしてしまいそうな細かな作り込みにも注目した。

 また鉛筆で黒く塗りつぶした新聞紙をつなげ、巨大なカーテンのように吊るした金沢寿美氏の作品では、「1枚塗りつぶすのにどのくらいの時間がかかったのか」「こんなに大きな作品をどのように運んで展示したのか」という素朴な質問も飛び出す。一見アート初心者には解釈が難しそうな展示作品も多いが、さまざまな視点で語られることで作品や展示に興味が湧いてくる。まるで一緒に美術館を回っているかのような没入感のある体験は、TikTok LIVEならではだ。

なぜアートを
TikTokで紹介するのか

 「耳で聴く美術館」は、作品や作家について調べた情報や、訪れた美術展のレビューなどをTikTokに投稿している。「TikTokで映画を自分なりに解釈して紹介するアカウントを見たことが開設のきっかけ。自分も元々アートについて調べるのが好きだったので、同じようにやってみようと思った」という。

 コンテンツ制作では「共感できること」を意識する。最近ではTikTokユーザーに親和性の高い、漫画とアートの関係性を紹介した動画が人気投稿となった。今回の配信でも視聴者目線でキュレーターに質問し、驚きや感動を素直に表現していた。Aviは「アートを紹介する時は、絶対に上から目線で言わないように気をつけている。動画や配信を見ている人たちと同じ視点に立って驚きを共有することで、アートって難しくないんだと興味を持ってもらいたい」と話す。

 こうした発信には、熱量の高いコメントが寄せられる。「TikTokでは自由な意見を持てて、自分の意見を言えるムードがある。私の投稿にも長文で思いを伝えるコメントが多く集まっている」。

 今回のTikTok LIVEにも多くの反応があり、堀尾氏の作品やアトリエの展示には、「色塗り、奥深いです。私もやってみようかな…」「アトリエ再現、面白いですね!」や、青野氏の作品には、「さまざまな記憶のスクラップみたいですね」など、展示作品への視聴者の感想や考えなどのコメントが多く投稿された。

美術館はなぜ
TikTokを選ぶのか

 森美術館は2015年頃からSNSユーザーを意識し、撮影やハッシュタグでのSNSや動画プラットフォームへの投稿を促す看板を展示会場の入り口に立てるなど積極的な取り組みを行う。森ビル 文化事業部 広報・プロモーション担当の洞田貫晋一朗は、「これまでのSNSや動画プラットフォームの活用でカメラ好きの方など、美術と親和性の高い来場者が増えた。しかしTikTokで話題になると、より多様なユーザー層が訪れる」と話す。「おすすめフィード」によって、幅広い人にコンテンツが広まるTikTokならではの成果といえる。

 そんな森美術館がクリエイターに期待するのが「ユーザーの背中を押す」役割だ。「コロナ禍で美術館は時間予約制になり、ふらっと立ち寄りにくくなった。美術にあまり触れてこなかった人はもちろん、美術が好きな人にも『行ってみようかな』の最後の一押しとなるコンテンツが必要だ」と洞田貫は言う。

 その最後の一押しとなるのが、来場者視点のリアルな口コミ。公式サイトの写真や情報だけでなく、リアルな意見を求めて口コミを検索する人は多い。「今は情報が溢れているので、口コミを見分けて判断するのは時間がかかる。その分野のリーダーであるクリエイターの意見には説得力があると思う」。

 一般の来場者によるTikTok投稿も盛んで、その様子を洞田貫は「クリエイターだけでなく一般の人も、投稿するコンテンツに意味を持たせて、そこに注目してもらいたいという意識を持つ人が増えたと感じる。私はこんなことを感じた、勉強になったと投稿していて、コメント欄も活発だ。いい意味で美術の敷居の高さを緩和できているのではないか」と考察する。

TikTokとアートで
創造性を刺激し、
喜びをもたらす

 なぜ、これほどにTikTokとアートは相性がいいのだろうか。TikTok Japanでアート分野を担当する大西真琴は「美術館や展覧会などは展示の仕方や展示会場の内装にもこだわっている。静止画だけでは伝えきれない部分も、動画であれば臨場感を持って届けることができる。またTikTokは完成形だけでなく過程を楽しむ特性もあり、アーティストやイラストレーターらによって作品の制作過程を投稿する動画も人気」と話す。

 TikTokは感染症拡大による行動制限が始まった2020年、自宅から美術館を楽しめるプロジェクト「GoToアート」をスタート。TikTok LIVEを活用し、ヨーロッパの5つの著名な美術館から日本のユーザーに向けて、日本語解説付きで美術館の作品を紹介するという内容で、その後は日本の美術館や展覧会、アートフェアからも配信をした。遠方の居住者や、子連れでなかなか美術館にいけない人など、“行きたいが行けない”人も美術館を楽しめる新たな機会にもなった。

 「海外では歴史ある美術館が作品の解説をしたり、音楽をうまく活用した映像を制作したり、中には作品にエフェクトを用いて作品が話しているように見せるなど、遊び心満載の動画もある」というが、国内では権利の関係もあり、自由に撮影できる美術館はまだまだ希少だ。「森美術館は早い時期から来場者が撮影してTikTokやSNSに投稿できるよう尽力されており、社会にとっても非常にインパクトのあることだ」と大西は続ける。実際に、TikTokをきっかけに初めて美術館を訪れる来場者もおり、アートの裾野を広げる取り組みとなっている。

 大西は「TikTokのミッションは、創造性を刺激し(Inspire creativity)、喜びをもたらす(Bring joy)こと。現在TikTok上で視聴できるさまざまなジャンルのコンテンツの中でも、このミッションはアートとの親和性が非常に高いと考えている」と語る。今後も“TikTokとアート”の可能性は広がりそうだ。

INFORMATION
地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング

期間: 2022年11月6日まで(会期中無休)
時間: 10:00~22:00(最終入館 21:30)、火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
会場: 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)

TEXT:ANNA USUI
PHOTOS:SHUHEI SHINE

問い合わせ先
TikTok Japan