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ヘアメイクアップアーティスト藤原美智子が42年のキャリアを振り返る 「ヘアメイクで人を輝かせることが一番の幸せ」

 ヘアメイクアップアーティストの藤原美智子は4月19日付で、42年にわたるヘアメイクアップアーティストとしてのキャリアに終止符を打つ。同日に自身が経営する事務所のラ・ドンナ(LA DONNA)も解散する。藤原氏はこれまで数多くの雑誌や広告のヘアメイクを手掛け、長年にわたり日本のヘアメイク業界の最前線を走ってきた。化粧品やファッション関連のアドバイザーを務め、テレビ出演など幅広く活躍するほか、栄養コンサルタントの資格も持ち、食や健康、暮らしまでライフスタイル全般の発信をしてきた。2017年には自身のライフスタイルブランド「ミチコドットライフ(MICHIKO.LIFE)」を立ち上げ、長年のヘアメイクのノウハウを生かした化粧品や雑貨を販売。また1992年4月に事務所のラ・ドンナを立ち上げ、小田切ヒロやAYA、田中宏典といった業界トップのヘア・メイクアップアーティストを多く輩出してきた。
 
 藤原氏は今後、ビューティ・ライフスタイルデザイナーという肩書きで再出発する。引き続き「ミチコドットライフ」のプロデュースやヘアメイクアップアーティスト丸山智路のスキンケアブランド「ボーテ ド ラ・ドンナ(BEAUTE DE LA DONNA)」のアドバイザー活動も行う。そんな藤原氏に、これまでの42年のヘアメイクのキャリアを振り返りつつ、今後の活動について聞いた。

WWD:そもそも42年前、ヘアメイクアップアーティストになろうと思ったきっかけは?

藤原美智子ビューティ・ライフスタイルデザイナー(以下、藤原):母が美容室を経営していて、後を継ぐために美容学校に通っていました。しかし卒業間際になって、子どもの頃から見ていた世界を自分が続けることに興味が失せ始め、何か新しいことをしたいという思いが湧いてきました。

そんなとき、後に私が師事する先生(松永タカコ氏)が取材されている週刊誌を偶然目にしました。それを読んで、初めてヘアメイクアップアーティストという職業があることを知りました。そしてたまたまアシスタントを募集していることを目にした途端にピンときて、すぐに連絡をして面接を受けたら合格したんです。それが私の42年に及ぶヘアメイクアップアーティストのキャリアのはじめですね。

WWD:日本のビューティ業界の最前線で活躍してきたが、キャリアが軌道に乗ったと思うエピソードは?

藤原:ちょうど30歳になったころから「藤原さんはこういうメイクが得意ですよね」と頼まれる仕事が一気に増えたことです。つまり、それは自分の個性や好きな美しさの表現をハッキリと他者に伝えられるようなヘアメイクを作れるようになったことであり、それが認められてきたということなので、とてもうれしかったことを覚えています。

 私が表現できるようになりたいと思っていた女性の美しさとは、透明感や品性があり、ノーブル性(気品がある)と「今」が感じられるもの。私は一人の女性の中にある多面的な内面の魅力をメイクで外側に表せられるようなヘアメイクアップアーティストになりたいということを、この職業に就いたときから目指していました。

WWD:キャリアを振り返り、一番苦労した点は?

藤原:20代のころは私自身、好きな世界観や個性というものを模索していた時代だったので、依頼される仕事もさまざま。ですから、どういった綺麗さを求めているのかを把握できない仕事を依頼されたり、自分が不得意な女性像を作らなければいけなかったり。でも仕事なので依頼側が納得する以上のものを作らなければいけない。それが今思うと一番の苦労だったと思います。

WWD:逆に一番印象に残る仕事は?

藤原:アシスタント時代に急遽、先生の代わりにとある雑誌の表紙のヘアメイクを担当しなければいけなくなったときの仕事です(そして、これが私にとって初めての一人仕事となりました)。そのとき、自分が納得するまでヘアメイクに時間をかけてしまったのに、編集者やカメラマン、スタイリスト、モデル、誰一人として私を急かしたり文句を言ったりせずに、私の気が済むまで待ってくれました。そんな皆さんの懐の深さをそのときは気づく余裕はなかったのですが、後でその有り難さや「創る」とはどういうことなのかを気付かされました。

鉄則は「人の内面が引き出されるヘアメイク」

WWD:ヘアメイクをして一番幸せに感じる瞬間は?

藤原:自分がヘアメイクした相手の目が、まるで星が入ったかのようにキラキラと輝き出し、カメラの前で自信を持って魅力的な表情をしながら撮られているのを見ているときです。この瞬間を見るために私はこの仕事をしているのだな、と毎回思っていました。

WWD:ご自身のヘアメイクのこだわりや鉄則を教えてほしい。

藤原:その人の内面が引き出されるヘアメイクをすることですね。

WWD:長きに渡り美容業界を見てきたが、この間で業界はどう変わったと考えるか。

藤原:いつのときも時代というのは変わっていくものであり、変化していくのが人間。当然ながら人が求める美も変化していきますし、その道具となるものを作り発信する美容業界も変わっていくのが常です(これは「鶏が先が卵が先か」かもしれませんが)。もちろん私自身も時代の空気感に感化して変化してきましたが、私が美しいと思う「透明感」や「品性」という根っこの部分は変わっていませんし、それはこれからも変わらないと思います。

WWD:コロナで暗いニュースが続きましたが、ビューティ業界の未来はどう見ている?

藤原:何が美しいのか、その本質を考え直す岐路にあるように感じています。これまでのただ「モノ」を提供するだけではなく、そして近年多い“トータル美容”を提供するだけでなく、またSDGs的なものを提供するだけでなく、今は「コト」を提供することも大切。「美」は人間が本能で求めるものであるからこそ、もう「モノ」だけでは難しい時代になってきているように感じています。これからは単に「売る」というだけではなく、トータルで「美の元」を提供していかなければならない時代になるように感じています。

WWD:これまで自身も現役として最前線で活躍しつつ、多くの次世代アーティストを世に出してきた。これからヘアメイクの道に進む人に対してのアドバイスは?

藤原:自分はどんなものを美しいと感じるのか。どんなものを可愛いと思うのか。どんなことをカッコイイと思うのかーー。そういったことを自分に投げかけて、自分自身を知ること。それが美を創るための元であり、全ての始まりになります。

WWD:ヘアメイクを始めて42年。感謝を伝えたい人は?

藤原:もちろん今まで全ての仕事で関わった編集者やカメラマン、スタイリスト、女優、プロのモデル、モデルになって下さった一般の方々、全ての方々にお礼を申し上げたいと思います。そして「ヘアメイクの人のアシスタントにつきたい」と話したとき、「あら、良いんじゃない?面白いんじゃない?!」と即答で賛成し、そして援助してくれた母に感謝したいです。

今後はライフスタイル全般を発信

WWD:今回引退を決めた理由は?

藤原:実は数年前から「ヘアメイクの仕事はもう十分にしたよね」と思っていました。それで昨年末にマネージャーと今後の事務所のことについて話をしているときに、4月19日で丸30周年になることに気づき、それを機会に事務所を閉じることに決めました。そして「事務所を閉じるのだったら、へアメイクもやめようかな」と。この数年間、「きっかけ」を待っていたので速攻で決められたのだと思います。

WWD:今後は「ビューティ・ライフスタイルデザイナー」として活動されていくが、具体的にどのようなことをしていくのか。

藤原:40代前半からは、講演や取材、執筆依頼される本において、メイクのことだけではなく、生き方や暮らし方などライフスタイル全般について聞かれたり頼まれたりすることが多かったのですが、実は20代のころから実質的なメイクのことだけではなく、メイクと心、ライフスタイルの関わりに興味を持っていましたし、それが楽しいと感じていました。

また実際に作るメイクも「美しい印象」「幸せな印象」など、その美しさによって女性はどんなふうに幸せな気持ちになるのか、イキイキと輝き出すのかを考えながらヘアメイクの提案をすることが好きでした。ヘアメイクアップアーティストという具体的に表現をする仕事からは卒業しますが、20代のころから「楽しい」「好き」だった、そして40代からさまざまな場面で聞かれていた美とライフスタイル(生き方)を具現化する仕事に専念していきたいと思っています。

そうした事柄を自分のブログ「BEAUTY LIFE」での無料コンテンツ、また有料コンテンツ「MICHIKO’S DIARY 日々のこと」で発信していきます。これからは、このホームページを太い幹に育てていきたいと思っています。また私がプロデューサーとして関わっているライフスタイルブランド「ミチコドットライフ」も同じ理念を持って立ち上げたものです。これからの女性の生き方に沿った、そして総合的に「モノ」や「コト」を提供できるブランドに関係者一同で育てていきたいと思っています。

WWD:ラ・ドンナの所属アーティストの今後については?

藤原:所属アーティストに知らせるとき、「仕事ということだけではなく、自分の生き方も含めて今後のことを決めて欲しい」と伝えました。今事務所を立ち上げる準備をしている人もいれば、他の事務所に所属することを決めた人、ヘアメイクだけではなく映像の仕事もする人もいます。皆それぞれの生き方に沿った「次なる」ことを決めているところです。その報告は会社のホームページ上で随時更新していきますので、これからも応援して頂けるようよろしく願い致します。

WWD:最後に今後の展望や夢は。

藤原:これから日本の大人女性の現役時間は長くなるわけですが、ただ長いだけではなく、前向きにイキイキと自信を持って、軽やかに時を積み重ねられる新しい大人の女性像を提案し応援していけたらと思っています。そして、そのような生き方であるライフスタイルの提案もしていきたいと思っています。

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