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大丸松坂屋は“ニューリッチ”をどう取り込む? 戸賀敬城「J PRIME」編集長に聞く富裕層商売

 大丸松坂屋百貨店は9月15日、2018年にスタートした富裕層向けメディア「J PRIME」を、30〜50代の若年男性富裕層向けに刷新する。新編集長を務めるのは、「メンズクラブ(MEN’S CLUB)」の元編集長で、現在はラグジュアリーブランドや自動車メーカー、セレクトショップなどのコンサルタントを務める戸賀敬城氏だ。歴史的な株高を背景に、コロナ渦中でも“ニューリッチ”と呼ばれるような若年富裕層の高額品消費は非常に活発。消費の二極化が進む中で、百貨店各社にとって富裕層市場は今後ますます重要になる。しかし、ニューリッチのし好や消費様式は旧来の富裕層とは異なる部分も多く、旧来型の外商の仕組みでは彼らの消費をつかみきれないという課題もある。大丸松坂屋は、ニューリッチとどうつながっていくのか。

 「われわれの外商会員データや外商催事に来場されるお客さまの定性データを見ていても、世代交代を感じる。オーナー企業の経営者が若返っていることや、IT関連を中心にコロナの中でも業績好調なベンチャー企業が多いことなどが背景にある」と話すのは、大丸松坂屋で「J PRIME」リニューアルを指揮する永井滋本社営業企画部部長。世代交代に伴い、富裕層の消費も変化している。スーツに代わって「ディオール(DIOR)」や「セリーヌ(CELINE)」などのスニーカーやロゴ入りパーカなどが売れているのはその代表例だ。

 それ以外にも、「コロナもあって、現代アートやスマート家電、ホームジム機器などへのニーズが高まっている」「以前は『食は女性のもの』というイメージがあったが、高級酒やそれに合わせるおつまみ、スイーツへの問い合わせも増えている」といった傾向がニューリッチ男性の消費として浮かび上がっている。時間に余裕があるというかつてのオーナー社長像とは異なり、「ニューリッチは自らバリバリ働いていて非常に忙しい人たち」。デジタルメディアによって、彼らとの接点拡大を目指す。

 従来の「J PRIME」は大丸松坂屋が運営しているとはうたってこなかったが、今後は大丸松坂屋発として打ち出し、ゆくゆくは店頭での集客や売り上げにもつなげていく。時計やファッション、食、アートなど、多ジャンルにわたって情報を網羅できるのも百貨店運営ならではの強みだ。また、例えばジェット機やクルーザー、不動産など、百貨店では扱っていない事柄やモノも、富裕層が欲する情報ならば取り上げていくという。

 富裕層メディアではあるが、「J PRIME」では読者をID登録で囲い込んだり、ECに直結させたりはしない。掲載商品やサービスに興味を持った富裕層は店頭や「大丸・松坂屋アプリ」、同社の外商顧客向けサイト「コネスリーニュ」に送客し、将来的に外商部門につなげていく。「ニューリッチの憧れの存在」という戸賀編集長とも密にアイデアを出し合って、今後は富裕層への物販以外のサービス提供の方向性も探っていくという。


「富裕層の進化に百貨店やブランドが追いついていない」

戸賀敬城/「J PRIME」編集長

 「ちょい悪オヤジ」ブームから約20年が経ち、僕が雑誌編集をしていたころのメイン読者は50〜60代になっている。一方で、30〜40代の富裕層も増えていて、ある高級車メーカーではオーナーの平均年齢が30代半ばというデータもある。「J PRIME」は雑誌と違い、現時点では広告出稿に依らない媒体作りを考えている。だからこそ、純粋に彼ら富裕層を満足させられるコンテンツ作りができる。

 仕事でラグジュアリーブランドや高級車の顧客イベントに参加すると、顧客から「(戸賀氏自身がSNSやブログで発信している)予約の取れないあのレストランに行きたい」などと相談されることが非常に多い。「J PRIME」でも、コロナの収束を見ながらレストランを貸し切るなどしてイベントを行い、そこで出た富裕層の声や要望をそのままコンテンツに反映させていきたい。いわばそこが編集会議の場だ。雑誌編集のノウハウを生かし、商品の背景のストーリーに光を当てて発信することで、売り上げにもつなげられると思っている。

 お金持ちはどんどん進化しているのに、百貨店に限らず、富裕層を対象とする小売りやメーカーの手法がそれに追いついていないとは強く感じる。例えば、顧客向けイベントでいまだに冷えたケータリングフードを出しているブランドがあるが、星付きレストランに行き慣れている顧客はそれでは満足しない。富裕層ビジネスをするうえでは、自社の商品だけでなく他社や他分野もしっかり勉強し、ニューリッチの世界に入っていくようにすべきだ。

 新世代富裕層の増加で、今後伸びると感じる市場はまず車。スポーツカーだけでなく、キャンピングカーやラグジュアリーなミニバンなどへのニーズが拡大するだろう。時計は5大ブランドはまだまだとんでもなく伸びるだろうし、ファッションではよりカルチャー色の強いブランドが支持されるようになる。メンズコスメもここから伸びると思っている。

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