スニーカーにまつわる噂話のあれやこれやを本明社長に聞く連載。商品紹介から業界の裏話まで、多彩なコンテンツで登録者数急増中のユーチューブチャンネル「アトモスTV(ATMOS TV)」では、本明社長がMCを務める番組も放送中。動画施策をしばらくやってみて分かったこととは?(この記事はWWDジャパン2021年5月31日号からの抜粋です)
本明秀文社長(以下、本明):しばらくユーチューブに取り組んでみて分かったんだけど、ユーチューブで商品を訴求するのはなかなか難しい。新商品の紹介動画は視聴者がすっ飛ばすことも多くて、再生回数もイマイチ。もしかしたら、ショッピングチャンネルみたいに“今なら半額”とか、安売りを謳い文句にすれば売れるのかも知れないけど。2万円のスニーカーを紹介してもなかなか販売につながらない。
WWD:値段の高い商品は、なぜ売れないのでしょう?
本明:値段が高くても売れるモノには、コレクターやマニアが付いていることがほとんど。でもそういう人はすでに知識が豊富だから、商品の背景をわざわざ動画で説明しても「そんなの知っているよ」と、見てくれない。僕たち以上に情報収集が早かったりする。だからユーチューブって、すごい長〜い道のりのPR&ブランディングだと思った。
WWD:逆にコレクターやマニアでも興味を持ってくれる動画って何ですか?
本明:ググっても出てこない情報。そのグーグルに出ない情報っていうのは2010年以前のものだよね。昔の情報や裏話はググっても出てこないから興味を持ってもらえる。
WWD:確かに昔の話って面白いです。
本明:先日「アトモスTV」で、“伝説のバイヤー”市村博之さんをフォーカスしたんだけど(5月13日公開)、すごく反響があった。今の二次流通は店から買うのが当たり前だけど、インターネットもまだ不完全だった1990年代は日本人バイヤーが世界中にスニーカーを探しに行っていた。市村さんもアラスカや南米にまで行って買い付けていたから、当時の話はすごく貴重で、面白い。その放送を見た若者から「僕もやりたいです」って声もあった。
WWD:でも今は世界中でスニーカーが掘り尽くされていて、もう見つからないんじゃないですか?
本明:そうでもないよ。例えば、古着って世界中で見つけられるじゃない。古着の大きな市場の一つがアメリカなんだけど、アメリカのスリフトショップ(リサイクルショップのこと)ではホチキスでタグや値札が洋服に直接付けられている特価品がカンボジアに流れている。その古着の山から隣国のタイ人がピックした「リーバイス(LEVI'S)」の“501”のジーンズなんかが、タイのナイトマーケットで売られていたりする。カンボジアでも捌けなかったモノは、次にアフリカとかに行く。スニーカーも1万7000もの島があるインドネシアのどこかに流れて、破格で売られているという噂がある。
WWD:世界中のアウトレットの売れ残りが東南アジアに流れているんですか?
本明:そう。売れ残りって言っても世界中で違うからね。「アディダス(ADIDAS)」も今なかなか厳しい業績だけど、中東では「キャプテン翼」の影響で「アディダス」の人気が高い。一見価値がないモノも、どこかの国では価値のあるモノとして売られている。日本のアウトレットで仕入れた「アディダス」が中東で売られているかも知れないし、そうやってグルグル回っているんだよね。
WWD:なるほど。日本でも見つかるものですか?
本明:日本でも蔵出し(倉庫に保管してあったものを取り出すこと)で、眠っているお宝が見つかることがある。例えば、亡くなった家主が生前集めていたコレクションとか。僕も蔵出しで一文銭を買ったことがあるし、タモリもジャズのレコードをコレクターが亡くなった後、買い取ったらしい。そのうち、スニーカーが蔵出しで見つかる時代が来るかも知れない。世界にはまだまだお宝が眠っているよ。