ファッション

死者1000人以上の事故「ラナ・プラザの悲劇」から8年 労働環境の改善はまだ遠く

 2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で複数の縫製工場が入った複合ビルが崩落し、死者1000人以上、負傷者2500人以上を出す大惨事が起きた。ビルの名称から「ラナ・プラザ(RANA PLAZA)の悲劇」と呼ばれるこの事故は国際的にも注目を集め、15年にはアパレル業界のサプライチェーンにおける労働環境および人権問題を追ったドキュメンタリー映画「ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~(原題:The True Cost)」が公開された。

 その後、縫製業に従事する人々の労働環境は改善されたのだろうか。「ラナ・プラザの悲劇」から8年経った21年4月24日、短編ドキュメンタリーシリーズ「ファッションスケープス:ア・リビング・ウェージ(原題:Fashionscapes: A Living Wage)」がユーチューブ(YouTube)などで公開された。「ザ・トゥルー・コスト」を手掛けたアンドリュー・モーガン(Andrew Morgan)監督と、環境や人権問題に関するコンサルティング会社エコ・エイジ(ECO-AGE)のリヴィア・ファース(Livia Firth)共同創立者兼クリエイティブ・ディレクターが再びタッグを組んだ今作は、最低賃金以下で働かざるを得ない発展途上国の女性たちと、コロナ禍でさらに悪化した労働環境や搾取システムを改善しようと尽力する人権活動家らにフォーカスしている。

 モーガン監督は、前作を公開した当時から労働者の環境はあまり改善されておらず、もはや「事態を広く認知させる」段階ではなく「行動に移す」べき段階に来ているという。「しかし、実際に何をどうするべきなのか。これには複雑な問題がいろいろと絡みあっており、誰が対話を主導するのかを慎重に考えなければならない。これまでも、現状を維持したいアパレルブランドなどがその莫大な資金力によって対話を“ハイジャック”するのを何度も目にして来た」と語った。

 事業における人権侵害の根絶に取り組む非営利団体ビジネスと人権リソースセンター(Business & Human Rights Resource Centre)のタルシ・ナラヤナサミー(Thulsi Narayanasamy)=シニア・レイバー・リサーチャーは、「労働者が貧困状態にあるのは偶然ではなく、そうなるように制度が作られているからだ。生活できないほどの低賃金で働かざるを得ない女性は6000万から8000万人いる。こうした労働者らはコロナ禍以前から極貧状態にあり、その17%は飢餓に直面している。新型コロナウイルスよりも飢餓を恐れる労働者のほうが多いぐらいだ」と作中で話している。

 ファッション業界は世界全体で2兆5000億ドル(約270兆円)程度の市場規模を持つ巨大な産業だが、近年は人権を含めた環境問題で批判されることも増えている。国連の専門機関で、労働者の労働条件と生活水準の改善を目的とする国際労働機関(International Labour Organization)などが定める指針やイニシアチブに署名しているアパレル企業も多いとはいえ、縫製産業従事者の労働環境の改善を訴える非政府組織「クリーン・クローズ・キャンペーン(Clean Clothes Campaign以下、CCC)」が19年に発表したリポートによれば、発展途上国の労働者に生活賃金以上の賃金を支払っていると証明できるブランドはないという。

 ファース共同創立者兼クリエイティブ・ディレクターは、「ファストファッションブランドは生活賃金もしくはそれ以下しか支払っていないという人権活動家らの批判をはぐらかしてきたが、パワフルな女性たちが連帯してそれに立ち向かったことによって変化が起きている。ファッション業界は(労働環境を改善するという)約束を幾度となく破ってきたが、法整備が進めば、今後は人権を守る法的義務を怠ったということで異議申し立てなどを行うことができる」と述べた。

 女性の地位や権利の平等を目指す非政府組織ザ・サークル(The Circle)のジェシカ・シーモア(Jessica Simor)弁護士は、生活賃金や人権に関する課題は欧州連合(European Union以下、EU)など政策の実施機関が主体になるべきだという。これまではアパレル企業が主体となっていたが、彼らは既存のシステムを維持したいため、生活賃金について言葉を濁して対話を引き伸ばしてきたからだとその理由を説明する。なお、ザ・サークルはEUに対して、ファッションブランドや小売店が縫製業の労働者に生活賃金の支払いを保証する法案を提出することを4月に提案している。

 問題は、こうした法整備には時間がかかることだ。また労働者の安全に関する協定などが締結されても、期限が切れてしまうことがある。

 「ラナ・プラザの悲劇」から1カ月後の13年5月に、安全監視機関として「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh以下、アコード)」が設置され、「H&M」や、「ザラ(ZARA)」の親会社であるインディテックス(INDITEX)など欧州を中心とする200社以上のアパレル企業が署名した。「ユニクロ(UNIQLO)」などを擁するファーストリテイリングも13年8月に署名している。

 アコードには法的拘束力があり、参加企業はバングラデシュにある縫製工場などの安全検査を実施し、問題があると判明した場合にはその改修費用を負担する仕組みとなっている。しかし5年間の期限付きだったため、活動停止を命じる判決をバングラデシュの下級裁判所が出していたが、その後も縫製工場などで火災が頻発している状況に危機感を覚えたアコード側が19年5月に上訴し、281日間の活動継続および後継組織への活動引き継ぎが承認された。その継続されたアコードの期限が21年5月31日までであるため、人権活動家や非政府組織は、これをアパレル企業への強制力を持った形で再継続させるべく奔走している。

 では、私たち消費者にできることは何だろうか。モーガン監督は、「ファッションは個人のアイデンティティーを示すものであり、自分の価値観に従って何かを選ぶ機会だと思う。ファッションを楽しむことに罪や恥の意識を感じてほしいわけではない。服の生産工程について疑問を持ったり、メーカーの取り組みについて調べて質問したりすることも、既存の非人道的なシステムに対抗する手段の一つだと知ってほしい」と話した。

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