ファッション

ドリス・ヴァン・ノッテンが語るクリエイション 「私たちは立ち止まってはいられない」

 30年以上コレクションをデザインしているドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)は、自身のコンフォートゾーンの外にあるアイデアや美学に挑戦し続けている。そこには最初のうちは反発しうるものも含まれ、初めてオリーブを食べるようなものだと表現する。「初めて食べてみたときには『あまりおいしくない』と言うかもしれない。しかし、だんだんとオリーブの味が分かるようになり、料理に混ぜて使えるといったような可能性が見えてくる」。そして、それはファッションも同じだとし、次のように語る。

 「私の周りにいる人々は、自分たちが面白いと思っている私の知らないことを教えてくれたり、見せてくれたりする。それを必ずしも好きになる必要はなく、『このアーティストは好きじゃない』や『このミュージシャンは自分には合わない』などと言うかもしれない。でも耳を傾け始めると、良さが分かるようになってくる。それが私にとって最も興味深いことであり、すなわち常に進化していく必要があるということだ。私たちは立ち止まってはいられない。常に驚きや新しさを加えなければならないし、それこそがファッションのエキサイティングなところだと思う」。

 さらに「私は自分のチームやクライアント、バイヤーを驚かさないといけないし、自分自身さえも驚かさないといけない。私が一番望まないのは、私のクリエイティブなプロセスがある種のごまかしやシステムになってしまうことだ。私たちが常に口にしていることではあるが、『ドリス ヴァン ノッテン』には"ごまかしを知ったら、魔法を失ってしまう"という黄金律がある」と続ける。
 

新型コロナのパンデミックがもたらしたもの

 20年5月にドリスが中心メンバーの一人となり立ち上げた、実際の季節に合ったスケジュールで商品を販売することなどを提言するウェブサイト「ファッション業界への公開書簡(Open Letter to the Fashion Industry)」は、ファッションサイクルのスローダウンに取り組む高級小売店の経営者やデザイナー数百人の署名を集めた。もともとドリスは長年、デザイナーを疲弊させるようなプレ・コレクションに反対し、(メンズ・ウィメンズそれぞれ)年2回のみコレクションを発表してきた。それでもなお、新型コロナウイルスのパンデミックによる強制的なスローダウンによって、シーズン提案を30〜35%縮小できたという。

 さらにパンデミックの影響により、広告キャンペーンを制作しない同ブランドにとって主なコミュニケーションツールであるランウエイショーも中止した。彼は当初、ショーなしで21年春夏コレクションを発表することにかなり困惑し、慣れていない新たな形式でどうやって感情を伝えるか心配したと打ち明けた。しかし、最終的にはそんな挑戦を受け入れ、ヴィヴィアン・サッセン(Viviane Sassen)と共に生み出したイメージと短編映像に対して好意的なフィードバックを得たという。

 21-22年秋冬に関してもおそらくショーを行わないことを明かし、「私たちは別の発表方法を見つけなければならない。制限があるとき、人はそれを問題視することもできるし、とてもポジティブに捉えて受け入れることもできる。それこそ、今の私たちが取り組んでいることだ」と話す。実際、ドリスは昨秋のファッション・ウイークで他のデザイナーたちが披露したクリエイティブな解決策の数々を称賛。「誰もが今、学んでいるところだ。そして自分のブランドに合うものを見極めて、それぞれの真実を見つけなければならない。来シーズンは、本当の意味でコレクション発表のための新たな機会を発見できるだろう。それは素晴らしい状況だと思う」と述べる。

 また、ドリスはパンデミックによってもたらされた変化を受け入れる必要があり、それは最終的にはファッションにとって良いものになるべきだと主張。ファッションにおける大きな変化に期待を寄せる。その解決策の一つは、ファッションの“本質”に立ち返って廃棄を減らすこと、そして「最終的な顧客にいかにファッションは美しいものであるかや、そこに注ぎ込まれた技術、そしてハイストリートブランド(大量生産型のブランド)との違いを説明することだ」という。

 ロイヤリティーの高い顧客基盤について聞かれたドリスは、そのことに感謝する一方で、常に新しい顧客を引きつける必要があることを強調する。そして、「コレクションと共に年齢を重ねるということを考えたことは一度もない」とし、「クリエイティブなプロセスの初期段階で、特に自分のためにデザインしていたこともあったメンズ・コレクションからは距離を置くようにしてきた」と説明する。一方、彼のクラフトへの情熱は少しも衰えておらず、独特な装飾は彼の美学のベースになっている。「画家が自分の絵の具を持っているように、私には自分の色や生地、プリントがある。ファッションはとても重要なコミュニケーションの手段であり、私たちの文化の一部だ。だから、私にとってはあらゆる文化的なものが大切だ」。

 尊敬しているデザイナーについては具体的な名前を挙げなかったが、「私はファッションの世界で起こっていることを追いかけている」とコメント。「私にとって、皆がいかに異なる方法で服にアプローチしているかを見るのは、とても刺激的で興味深いことだ」と語る。
 

プーチグループ傘下に入った理由とその後

 長年、ファッション業界を代表する独立ブランドの一つとして知られてきた「ドリス ヴァン ノッテン」は18年、スペインのフレグランス&ファッション企業プーチ(PUIG)に過半数の株式を売却し、業界を驚かせた。ドリスはこの決断の背景を「いろいろなことの組み合わせ」と表現したが、主な理由として60代に突入した彼の会社の将来を確かなものにしたいという思いがあったという。

 そして契約を結んだとき、「(ドリスも)他のデザイナーと同じようになってしまい、ロゴのようなものを多用し始めるかもしれない」とたくさんの人が考えたということを明かした。しかし、何も変わったことはなく、今でもリスク覚悟でコレクションに取り組んでいると強調した。その例の一つが、クリスチャン・ラクロワ(Christian Lacroix)とコラボレーションした20年春夏コレクションだ。そして、昨年10月にオープンしたロサンゼルスのブティックでは過去のコレクションのアイテムも取り扱い、企画展示用スペースやミュージックルーム、トロピカルガーデンを備えている。「私は今でもとても自立していると感じているし、彼ら(プーチ)は私たちに自由を与えてくれている」とし、「プーチは大規模なインターナショナルビジネスでありながら、とても人間的なアプローチがあるファミリービジネスだ」と称賛した。

 最後に、ラクロワと取り組んだような大きなコラボレーションを考える可能性はあるかと尋ねられると、「絶対ないとは言えない。(先のことは)分からないから」と回答。「それこそがファッションの楽しさだろう。そこには常に次のステップがあり、それが感覚を研ぎ澄まし続けてくれる」と締めくくった。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

  

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