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マーク・ジェイコブス、新型コロナの影響を語る

 多くの有名デザイナーたちと同じように、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)もまた新型コロナウイルスがビジネスにもたらす影響を案じている。彼が最も心配しているのは、彼にとって“チームであり家族”だという「マーク ジェイコブス」の従業員たちのこと。LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)傘下のブランドということもあり、少なくともこの先しばらくの間はサポートが得られるだろう。しかし、新型コロナウイルスによる影響が大きくなりつつある現状へ打開策はまだ見いだせていないという。「この先どうなるか予測が立たない。今後のビジネス戦略を考えてはいるけど、まだわからない」という。

WWD:突如として生活が一変したけど、どのように適応している?

マーク:みんなと同じように私も時間を持て余している。危機に陥った時の悲しみへの対処法は人それぞれだし、自分に打ち勝つ方法も千差万別。人の気持ちが分かる人間であろうと思っている。簡単なことではないけれど。

WWD:この騒ぎを最初は大げさだと思った?

マーク:大げさだとは思わなかったよ。どちらかというとこの世の終わりのような感じがした。私は悲観主義者ではないけど、考え方はとても現実的だと思う。周りの人と話してみると、自分の考えが悲観的過ぎて話が合わなかった。でも、自分がネガティブだとは思えないかな。

WWD:人びとは不安や恐怖を感じているが、親切な行動も見られる。

マーク:うーん、それについてはっきりとしたことは言えない。テラス付きのホテルの部屋で愛犬と一緒に過ごせて、周りに助けてくれる人たちもいるから平常心を保つのも簡単なんだ。私は明らかに恵まれているよ。

WWD:会社のことで何が一番気掛かりか?

マーク:チームのことだよ。家族のようなスタッフたちには、少なくとも数週間は会社が賃金を保証すると思って自宅で安全に過ごしてもらい、できる限りの安心感を抱いてほしい。それが一番だよ。あとは最高経営責任者のエリック・マレシャル(Eric Marechalle)と話をして、マスクを生産することで合意した。私と、私の右腕のような存在のニック・ニューボールド(Nick Newbold)、コレクション制作で指揮を執るダヌタ・デヌリー(Danuta Denuree)の3人で着手していて、素材の供給を待っているところだよ。エリックがアジア製造部門の担当者と連携して医療用品を手配する段取りを進めている。従業員の安全を保証して、ほかにも援助の手を差し伸べていきたい。そうすれば希望が持てる。

WWD:食糧支援団体に寄付したと話していたが?

マーク:寄付することが可能な立場にいるからね。自分が健康である限りは、ほかにも何かできることがあると思う。

WWD:ボランティアでの食料のデリバリーも考えているとか?

マーク:デリバリーに関しては、責任の負い方がわからないから少し難しいところもある。時間があるから、安全を確保できるなら行動するのは可能だよ。感謝祭の朝に夫ともやっているしね。

WWD:興味深い考えだ。

マーク:スポンサーやアルコール依存症プログラムなどから教わったことがある。自己中心的思考や被害者意識、恐れなどを抱かないためには、誰かのために何かをすることが大事なんだ。最高の方法だと思うよ。

WWD:「マーク ジェイコブス」のビジネスについて今どう考えているか?経営面と感情面の両方で。

マーク:もちろん集中して考える必要があるけど、危機を脱した後の方向性が分からないという気持ちも少しはある。いつ収束するのか、どれほどのダメージや影響を受けるのか分からないから。今後の方針は考えていくけど、正直今はまだその段階にはいない。

私はとても光栄な夢のような業界で仕事をしている。私の人生において、夫との関係の次に重要なのは仕事。だから私は自分を最優先にしているし、そのために生きている。それが変わることなんて考えたくないけれど、変える必要があるのだろう。全てを変える必要がある。最も大きな問題は教育不足にあると思う。教育にあまり価値を置いていないせいで、緊急事態の時にほとんどの人が対処不能に陥っている。

WWD:でも、こんな状況には誰も対処できない。

マーク:そうだね。でも人びとの行動や態度はどうか。実際、多くの人がトイレットペーパーを買い占めるなどの馬鹿げた行動を取っている。

「自分が選択したキャリアに負い目を感じたりはしていない」

WWD:楽観的であることは大切だと思う?

マーク:楽観的?これが“この世の終わり”ではないと思うし、そうあってほしいよ。何がどうなるかなんて全然わからないけど、多大な影響を受けることは確か。本当の意味での現実を受け入れるのは難しい。自分はその他の人びとと同じだと思う。朝は祈り、瞑想もする。そしていつも通り注意深く、他人にも親切にする。手袋をして、頻繁に手を洗い、人とは適度な距離を取るなど、やるべきことをするだけだよ。

WWD:祈りや瞑想から何を得たか?

ジェイコブス:祈りは私が実践している12のことのひとつで、瞑想もその一部。何かのイマジネーションに啓発されているわけではなく、冷静で高潔で役に立つ人間としてやるべきことをする。仕事であっても家にいるのであっても、それが私の毎日の課題だよ。

WWD: なるほど。そして事態が収束した後のビジネスの方向性は、まだ考えられる状態にはない、と。

ジェイコブス: 同じことになるけど、ただそのような考えが頭をよぎっただけだよ。なんにせよ、ビジネスは非常に難しい局面にある。先週、米「WWD」が掲載したあなたの記事には「新型コロナウイルスのパンデミックにおいて人びとが必要としているのは生活必需品だ。贅沢品は“欲しいもの”であって“必要なもの”ではないから、ラグジュアリーブランドは店を閉めるべきだ」と書いていたね。でも私の考えはそれとはすこし違う。私は、人びとが“欲しがるもの”も“必要なもの”だと考えている。もちろん贅沢品は食料や水のように差し迫って必要なものではない。でも私は自分が選択したキャリアに負い目を感じたりはしていないよ。

WWD:そんなつもりであの記事を書いたわけではなかった。

マーク:私は創造性が織りなすものはすべて、人びとが必要としている贅沢品だと考えている。いい本を読むこと、美味しい食事を摂ること、素敵な家に住むこと――生き抜くために最低限必要なもの以外はすべて贅沢品だよ。ある日、コールドプレスジュースを買いに行ったとき、そこで働いている若い店員と話をして、彼が恐れを感じていると聞いた。彼は休みや有給休暇を求めていたのではなく、「これが僕の仕事。誰かがサービスをしなければいけないことに気が付いた」と言っていた。あなたの記事にも書いてあったように、スーパーやテイクアウトのフードショップ、デリバリーの仕事をしている人たちは医療従事者と同じように、とても重要な仕事をしているということに目を向けて、感謝しないといけない。医療施設で治療にあたっているのとは違うけど、食料や薬を必要としている人びとにサービスをしているのは一緒だから。

WWD:この出来事によって、私たちの生活が永遠に変わるだろうと言う人が多いが、あなたもそう思うか?

マーク:そうだね。私たちの生活は永遠に変わるだろう。どのように変わるかは分からないし、そもそもそれがどういうことなのかもよく分からないけど。私もほかのみんなと同じような動きを求めているんじゃないかな。

WWD:その動きはどこから出てくると思うか?

マーク:このような時は、自分は守られていると信じるためにも神への信仰心を持つことが重要。恐れを抱いているときに信仰を持つのはすこし難しくもあるし、実践する習慣も必要だから、不特定多数の人に向けての話題としては適切ではないかもしれない。私は生活に困ることのない恵まれた場所で信仰心を簡単に持つことができる立場にいるから、できればこの話はあまりしたくない。

WWD::あなたは自分のことをよく分かっている。

マーク:多少はね。

WWD:恐れを抱いたことは?

マーク:もちろんあるよ。私はすごく怖がりというか、とても心配症なんだ。ただありのままを見るようにすれば不安に駆られることはない。つまり、いま私は窓の外を眺めていて、空は晴れていて、2匹の犬がベッドに寝そべっていて、あなたと会話をしている。これが私の現実だから、今のこの瞬間に恐れなど感じない。でも、未来について考え始めるとやはり怖いはと思う。

WWD:それは興味深い。

マーク:それがスピリチュアルの原理なんだ。現実以外のものにとり付かれて恐れを抱くこともなければ、「未来はすべてよくなる」みたいな風にも考えない。

WWD:つまり今を生きるということか。

マーク:自分自身が心身ともに健康であれば、電話で話をしたり、相手を励ましたり、どんな形でも他者に貢献することはできるからね。朝起きて、祈りを捧げて、正しい行いをするという、自分が教わったことを可能な限り実践するだけだよ。時に正しい行いとは、シャワーを浴びてテレビの前に座ることだったりもする。そして、今日の私にとっての正しい行いとは、あなたと話をすること。記事を書いて有益な情報をシェアする仕事は大切なことだよ。

WWD:ありがとう。

マーク:恐怖に陥り、パニックになりながら間違った情報に触れるよりも、価値のある役立つ情報を自由に得られる方がずっと素晴らしいと思うよ。