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若き才能が芽吹くロシア 一般客に開かれたファッション・ウイークをリポート

 10月に開催されたメルセデス・ベンツ・ファッション・ウイーク・ロシア(MERCEDES-BENZ FASHION WEEK RUSSIA)に参加するため、ロシアの首都モスクワへ初めて足を運びました。今季、主催者側から招待を受けて世界から訪れたゲストはピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)のディレクターや、イタリア版「ヴォーグ(Vogue)」をはじめ、オーストラリア版「GQ」、中国版「エル(Elle)」、米経済誌「フォーブス(Forbes)」、インディペンデント雑誌「インディ(Indie)」の編集者のほか、ストリートフォトグラファーやインフルエンサーにプレス関係者を加えた約60人で、日本からは私一人でした。滞在したホテルは5つ星の「メトロポール(Metropol)」で、過去にマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)や各国首脳が滞在したこともあるそうです。観光名所の赤の広場や聖ワシリイ大聖堂などが目と鼻の先に位置しています。

きらびやかすぎる超豪華ホテル

 5日間の滞在中は、オーガナイザーによって組まれたスケジュール通りにほかのゲストと一緒に行動します。「メトロポール」の朝食は今まで泊まったホテルの中で最もゴージャスで、朝から優雅な気分に浸りました。舞踏会が開催されるようなきらびやかな内装で、ステージ上ではハープの生演奏がスタート。ビュッフェ形式の朝食は洋食と少しの和食が並び、ロシアの名産物であるキャビアやイクラ、さらにシャンパンまで並んでいました。

 ファッションショーが始まるのは16時からとゆっくりなので、ショーが始まるまでにプーシキン美術館(Pushkin Museum of Fine Arts)や、現代芸術美術館(Museum of Modern Arts)などの美術館や蚤の市ヴェルニサージュを訪れるスケジュールをオーガナイザーが立ててくれました。ランチタイムの後は、いよいよショー会場へ。移動はもちろん、スポンサーのメルセデス・ベンツの車です。

一般客も入れるコレクション会場

 ロシアのファッション・ウイークはほかの都市と違い、プレスやバイヤーといった業界関係者だけでなく、登録すれば一般客も参加可能です。一般客向けのショーのシートは有料で、ブランドによって料金は異なりますがだいたい5000ルーブル(約8500円)ほど。ロンドン・ファッション・ウイーク(LONDON FASHION WEEK)で初めて行われた一般入場可能なパブリックショー(Public Show)が135ポンド(約1万7700円)〜という料金設定だったので、ロンドンに比べると安価です。会場には、この時とばかりに着飾る一般客の若者が集結し、ファッションへの熱狂ぶりをひしひしと感じました。

 会場内1階には大きなホールがあり、フォトスポットやDJブース、化粧品ブランドのポップアップと飲食スペースが設けられ、それらを抜けた一番奥にショーやプレゼンテーションが行われる約350人収容可能なショー会場があります。バイヤー向けの合同展示会はなく、地下に設けられた受注会兼ポップアップショップで、一般客向けに商品販売が行われます。ロシアのファッション・ウイークはブランドや業界関係者のためのビジネスの場というよりも、一種のお祭りのように認識されているようでした。若手ブランドはオンラインショップで販売するか、独自ルートで国外にセールスする方法しか今のところないようで、ファッション・ウイークに参加することで認知度向上を目指します。ショーを行い、バイヤーなどから連絡が来るのを期待するのだそうです。

ショーは全て同じ会場で爆音BGMと映像が変わるだけ

 会期中は70ブランドがコレクションを披露しました。全て同じ会場で、ブランドによってスクリーンの映像とBGMが変わるのみ。16〜22時で1時間ごとにショーが行われるのですが、待ち時間にも大音量の音楽が流れるナイトクラブのような会場内で半日を過ごすのは、正直かなりぐったり……。パリの自宅に帰宅した後は体調を崩しました(苦笑)。

 ブランドの傾向は、ロシアのアイコン的存在である「ゴーシャ ラブチンスキー(GOSHA RUBCHINSKIY)」のようなカルチャー色強めのストリートスタイルが多かったようです。特に印象に残っているのは、SF映画「ストーカー(Stalker)」から着想を得て未知の地に住む宇宙人の世界を描いた「クルゾフ(KRUZHOK)」や、世界で最も寒い定住地ヤクーツク出身のデザイナーが手掛ける「ザザ(ZA_ZA)」、デザイナー自身が脱毛症を患っていることから脱毛症患者をモデルに起用して話題を呼んだ「マッド デイジー(MAD DAISY)」です。注目ブランドについての詳細は別記事をご覧ください。

 各日18〜21時には地下のスペースでトークショーやワークショップも開催されました。今季は、ロシアと東欧のユニセックスブランドを集めた原宿のキャットストリートのショップ「バンカートーキョー(BUNKER TOKYO)」のディレクター兼リバーヘッドショールーム代表の森一馬さんと、「サカイ(SACAI)」「ジャックムス(JACQUEMUS)」などをクライアントに持つパリの大手PR会社ルシアン パージュ(LUCIEN PAGES)代表のルシアン・パージュ、ストリートフォトグラファーのアダム・カッツ・シンディング(Adam Katz Sinding)とスタイル・ディレクターのジャン・ミカエル・クアミー(Jen-Michael Quammie)によるトークセッションが催されました。

若手支援の具体的な中身は

 最終日に、今回が2度目の参加という森さんとお話しする機会がありました。「前シーズンはコンサバティブなブランドが多かったけれど、今回は挑戦的な若手のよいデザイナーが増えています」と満足気な様子。「特に『ローマ ウバロフ(ROMA UVAROV)』と『ザザ』はロシア・アヴァンギャルド(1910〜30年代初頭、戦争と革命のさなかに生まれた前衛芸術運動)をしっかり表現していました。旧ソビエトの歴史をコレクションに落とし込み、裏に隠された意味を持たせるのがロシアブランドの特徴です。今季は国外の若手デザイナーも参加する“グローバル・タレント(Global Talent)”枠の質が高く、ベルリンが拠点の『ソージ ソラリン(SOJI SOLARIN)』や中国人デザイナーの『リーフ シア(LEAF XIA)』にも引かれました」。トークショーではパージュさんやクアミーさんも森さんの意見と同じで、2人は「現在はブランドと物に溢れているため、デザイナーはストーリーテラーとなり、差別化を図ることが成功のカギ」と若手デザイナーにエールを送っていました。森さんが語る“グローバル・タレント”は、若手支援に力を入れる同ファッション・ウイークが今年始めた若手支援プロジェクトです。オンラインでエントリーが可能で、サラ・ソッツァーニ・マイノ(Sara Sozzani Maino)伊「ヴォーグ」シニアエディターを含む審査員が全世界から10ブランド前後を選出。選ばれたブランドはモスクワで単独ショーを行う権利を得て、経費や渡航費の全面サポートが受けられます。審査員を務める森さんは「アジア各国からのエントリーは多いけど、日本からは極端に少ない。挑戦してみてほしい!」と語っていました。

 初めてロシアを訪れて感じたのは、豊かな歴史があることと、ロシア芸術の深みです。まだファッションの文脈でそれらを十分に語ることはできてはいないものの、発展途上である産業が成長し、さらに国外に出る若手が増えてくると、「ゴーシャ ラブチンスキー」をもしのぐスターデザイナーが生まれる可能性は十分にあると思いました。私が今回の渡航で感じたロシアの魅力については、また別記事で詳しくご紹介します。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける