フォーカス

矛盾はらむ環境保全活動は本当に“サステイナブル”なのか? コペンハーゲン・ファッション・ウイークで考える

 1月29~31日に開催されたコペンハーゲン・ファッション・ウイーク(以下、CFW)を取材した。今季は、新しく最高経営責任者(CEO)にセシリエ・ソルスマルク(Cecilie Thorsmark)を迎えて初めてのファッション・ウイークだ。彼女はグローバル・ファッション・アジェンダ(Global Fashion Agenda)でコミュニケーション・ディレクターを約2年務め、現職に抜擢された。初日のオープニングイベントのスピーチでは、これまで以上にサステイナビリティーに注力し、世界を率先して環境問題に取り組んでいくという理念を明らかにした。結果的に3日間の滞在中“サステイナビリティー”という言葉を耳にしない日はなく、一生分言ったのではないか思う程どこもかしこもその話題で尽きなかった。ファッション・ウイーク後の取材で彼女は「100%持続可能にすることがまだ不可能なのは事実です。しかし、たとえそれがほんの小さな行動であっても、われわれがファッション業界のエコシステムにどのように役立つかを、最大限可能な範囲で徹底的に検討することが、大手企業としての私たちの責務です。デンマークの多くのブランドが、サプライチェーンと協力し、CSR(企業の社会的責任)コンサルタントやサステイナビリティー管理者を雇用するなど、持続可能な方向に前進しています」と語った。
 
 実際にCFWでコレクションを発表したほとんどのブランドが天然素材・再生資源を使用している。デンマーク王立図書館内でショーを行なった「スティーヌ・ゴヤ(STINE GOYA)」は、製造工程で水を必要としないデジタルプリント、自然の植物から抽出した色素による天然染め、再利用のスパンコール、オーガニックシルクなど、人への健康被害や地球環境に負荷が少ない素材で華やかなコレクションを完成させた。「サステイナビリティーの重要性は世界的に認識され、新たな素材は開発され続けている。しかし、それらを仕入れるのは容易ではなく、価格も安くはない」とショー後にデザイナーのゴヤは述べていた。

 デンマーク発で最も成功している「ガンニ(GANNI)」は今季のテーマを“Life on Earth”と銘打った。ショー会場の壁は一面がスクリーンとなり、「ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)」のフォトジャーナリスト、アミ・ビテール(Ami Vitale)の写真が映し出される中をモデルが闊歩した。ショー後のバックステージで最高責任者のニコライ・レフストラップ(Nicolaj Reffstrup)は、新たにサステイナビリティー・コーディネーターの役職を設けたと話した。「今後、再生資源の素材の開発にさらに尽力し、工場はソーラーパワーや風力発電などの再生可能エネルギーにシフトする予定。可能な限り環境へのインパクトが少なく、経済成長とサステイナビリティーを実現できるよう取り組む」と意欲的な姿勢を示した。

 正直なところ、筆者は特段エココンシャスな方ではない。もちろん倫理的な選択をしたいし、資源は無駄にすべきでないと思い可能な限り行動に移している。しかし、犠牲なくして人間は生きることができないとも思う。犠牲を最小限におさえるための動きが“サステイナビリティー”なのだが、そこにはさまざまな要素が複雑に絡み合い、視点を変えれば矛盾も見えてくる。例えばペットボトルのリサイクルは、原料であるポリエステルを生成する際の石油資源の使用量を減らし、温室効果ガスの低減につながると考えられている。一方で、武田邦彦著「リサイクル幻想」では、新品のペットボトルを作り消費者の手元に届けるまでには、石油が約40g使われるのに対し、リサイクルには少なくとも約150gの石油が使われ、実に4倍近くも消費されると指摘されている。さらに、洋服に使用されるポリエステルを含む合成繊維の多くは、自然に分解されず、製造工程や洗濯で抜け落ちた繊維が海に流出し、海洋環境に被害を及ぼすという懸念もある。言葉の持つイメージや先入観だけで、“エコ”だと全てを一括りにはできないのだ。

 サイステナブルか否かについての議論が止まないのは、ファー問題もまた然り。ここ数年でファーフリーを宣言するブランドが相次ぐ中、コペンハーゲンでは「サックス ポッツ(SAKS POTTS)」や「オー バイ コペンハーゲン ファー(OH! BY KOPENHAGEN FUR)」のコレクション、セレクトショップや街中でも毛皮を多く目にした。毛皮と人工ファー、どちらがサステナブルであるかの結論を出す事は専門家ですらまだできず、ここで筆者の意見を述べるつもりもない。個人的に興味を引かれたのは、時代の潮流とは逆行するように、コペンハーゲンの人々が堂々と毛皮を打ち出す姿勢だった。世界のミンクファーの50%、チンチラファーの60%、フォックスファーの10%を輸出するデンマークにとって、毛皮は重要な産業であるため彼らの姿勢も不思議ではないが、人工ファーばかりがショップに並ぶパリや動物愛護団体のデモが活発なロンドンの現状とはかけ離れていることにやはり驚いた。

 「オー バイ コペンハーゲン ファー」チーフ・マーケティング・オフィサー兼広報のトリーネ・ストーム(Trine Storm)に毛皮がサステイナブルだと主張する理由を聞いた。「毛皮はファッションとして使用されるずっと前から耐久性の高い持続可能な衣類材料であり、他のアウターウエアに比べて断然長持ちします。また、天然の毛皮は生分解性であり、廃棄後も環境に有害ではありません」。動物愛護の観点から毛皮に反対する意見がある事については、以下のような回答だった。「動物の飼育の主な目的は毛皮に使用することですが、実際のところはどの部分も無駄にせず100%使用されており、それを明確に提示している農場とのみ取引をしています。それらは国際毛皮連盟の厳しい監査を通って認証を受けた、倫理的扱いで動物を飼育する限られた農場です。私たちは常に動物福祉の分野での研究に高い優先順位を置き、認証を受けていない農場の毛皮は販売しません。動物がより良く扱われるほど毛皮はより美しく、そして毛皮がより美しくなるほど、農家は毛皮のためにより多くのお金を得るという循環型経済が成り立つのです」。

 リサイクルや毛皮について、あなたはどんな意見を持っているだろうか?今回コペンハーゲンを訪れて、筆者が初めて知った事実も多くあり、環境問題や毛皮産業について改めて調べたり考える貴重な機会となった。しかしまだまだ疑問も多く、自分の中で結論は出ていないし、何が本当に“倫理的”なのかも分からない。学んだ事といえば、物事を表面的に捉えたり、感情論や多数派意見に流されたりするのではなく、多角的な視点で考える姿勢が重要という点だ。ソルスマルクCEOは「自分のスケールで自分ができることを自分自身に尋ねることが大切」と口にしていた。この記事を機に、あなたが自分自身で考え、自分なりの意見を持ち、考えるきっかけになってくれればうれしい。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける