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父は皇室専属デザイナー 芦田多恵が語る「55年の歴史にあぐらをかいていたらダメ」

 ファッションデザイナーの芦田多恵といえば、上皇后美智子さまの専属デザイナーを務めた故・芦田淳氏の愛娘。スイスのボーディングスクールを経て米国の美術大学で学んだという生粋のお嬢さまだが、実際に話してみるとツンツンとしたところは全くなく、天真らんまんで非常にパワフルな女性だ。父から引き継いだ「ジュン アシダ(JUN ASHIDA)」と共に彼女が手掛けているプレタブランド「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」は、名門私立小学校のお迎えママ達のご指名ブランドとしても有名。だが、そんなややコンサバなイメージとは裏腹に、ランウエイショーで電子音楽家の渋谷慶一郎とコラボレーションするなど、面白い取り組みを続けている。2019-20年秋冬のショーには初めてメンズが登場した。安定した顧客層をつかみつつ、そこに安住せずに常に挑戦する意図を芦田に聞いた。

WWD:メンズを企画したのは多恵さんのキャリアでは初です。どうしてメンズをやろうと思ったんですか?

芦田多恵(以下、芦田):突発的に思い付いたので、長い間メンズについて思いを巡らせていたというわけではありません。ただ、このところ実はいろいろと考えていたことはあって。メンズを始めた理由はいくつかありますが、まず1点目は、ここ2年くらいショーを見た男性から「メンズはないの?」と聞かれることが増えていたこと。最初はお世辞で言ってくださっているんだわと思っていたんですが、だんだん「本当に着ていただけるかも」と思ってきて。2点目としては、会社が2018年に創業55周年を迎えたということがあります。父親が創業してからの年数なのでもちろん私が55年やってきたわけではないですし、スタッフも同様ですが、私を含めて皆55年という年月にあぐらをかいているなという感覚があった。まるで何でも知っているかのような錯覚があって、でも世の中はどんどん変わっている。それではいけません。

WWD:親から事業を継いだ二代目というと、“守りに入りがち”といったイメージもありますが、多恵さんはとてもアグレッシブです。

芦田:あぐらをかいている状態から脱するためには、私を含め、社員が誰も経験したことがない仕事をしないといけないと思いました。昔、父がイタリアブランドと提携してメンズをやったことはありましたが、1からメンズを企画して、ビジネスを作っていくということは会社として初めて。知らないことを経験し、人に教えてもらいながら探っていくことで、メンズだけでなくウィメンズでも固定観念を振り払って自由になっていけるのではないかと考えたんです。私はメンズデザイナーではないからメンズはできないと尻込みもしましたが、今はジェンダーレスの流れもあって、それに後押しされた部分もあります。よし、メンズをやろうと決めてスタッフにLINEを送ったら、スタッフはどうやら「正気なのか……?」と思ったようでなかなか返事がこなかった(笑)。それで、「私(わたくし)、本気よ」と畳みかけました。

“迷っている時間があるなら、
まずやってみる”

WWD:一方で、会社として守っていくべき部分もあります。そのバランスはどう考えていますか。

芦田:55年は非常に重く、守らなければならないものはもちろんあります。モノ作りに対する精神など、父が作ってきた姿勢の部分です。ただ、守ることはそのまま保存することとは違って、変わっていくことが守っていくことになる。同じことをしていても時代は変わるので、意味や価値も変わっていきます。その中で意味や価値を守るためには、われわれが変わっていくしかない。試行錯誤ばかりなので悩む部分はありますが、チャレンジすれば新しい景色が見えてくる。大事にしているのは、迷っている時間があるならまずやってみるということ。やはりファッションなので、時代に対して柔軟であることは絶対だと思うんです。デザイナーにもスタイルを守る人、信念を主張をする人などさまざまなタイプがありますが、私は服そのものとしては自分の信念を打ち出しすぎない方がいいと考えるタイプ。服は着るものだから、信念が込められ過ぎていると重くなってしまいます。私の服は人が着て初めて完成するものだから、そのためには時代に対してかなり柔軟でないといけない。

WWD:メンズ商品はどういった人に着てもらいたいですか?

芦田:男性のファッションってウンチク豊富ですが、若い男性は比較的そういったことを気にしないですよね。うちの若い男性スタッフもあまり気にしていないようです。ウィメンズも同様ですが、顧客像は特に決め込んでいません。感覚的にファッションを楽しむことができる男性に着ていただければと思っています。メンズでは、ウィメンズと共通のテディーベアのようなボア素材を使ったコートや、タロットカードの柄をアップリケのモチーフにしたブルゾンなどを作りました。感覚的に楽しんでほしいとはいっても、メンズならではのマニアック感もくすぐりたい。それでセルビッチのデニムなども企画しています。

WWD:ウィメンズでは、豪華客船クルーズなどが中高年層を中心に広がっていることで、ドレスの需要がじわじわ伸びていると聞きます。

芦田:クルーズ需要は確かに意識しています。でもそれ以上に注目しているのが、フォーマルシーンのTPOが変化していること。私自身もパーティーに行く際に感じますが、招待状でドレスコードが“ブラックタイ”となっていたら、昔はイブニングドレスを着ていかなければならなかった。でも今はすごく幅があって、もっとカジュアルな場合もあるんですね。逆に、ドレスコードが“ダークスーツ”となっていたからあまり厳かな格好で行かなかったら、「ロングドレスで来るべきだった……」と後悔する場合もある。だったら、そのどちらにも解釈できるようなパンツのセットアップを作るべきだな、といった具合に企画しています。あとはくるくるっと丸めてトランクに入れられるような素材感のドレスを作るなど、フォーマル提案のなかでもさまざまなシチュエーションやニーズを考えるようにしています。