11月に開業した「EXPOCITY」は、物販だけでなくエンタメ施設を強化
「爆買い」と「服が売れない」の一年
2015年の「新語・流行語大賞」に、訪日外国人による旺盛な買い物を指す「爆買い」が選ばれた。確かに15年の世相を表した言葉の一つだろう。訪日外国人旅行者数は15年1〜10月までに前年同月比1.5倍に増え、通年では1900万人に達する勢いだ。銀座や心斎橋では、ラグジュアリー・ブランドの紙袋を抱えきれないほど持った中国人が街の主役のように闊歩する。都心の百貨店の免税品売上高は2〜3倍に跳ね上がった。ファッション企業にとっても「爆買い」さまさまである。
一方、15年、取材を通して何度も聞いた言葉が「服が売れない」だった。何人ものアパレル関係者からため息交じりにこのセリフを聞いた。「爆買い」と「服が売れない」という対照的な言葉が飛び交ったのが、15年のファッション業界の世相だったといえる。
訪日外国人や富裕層を除く、圧倒的多数のマスマーケットのブランドの「服が売れない」。百貨店は訪日外国人と富裕層による高額品の伸びで覆い隠されているが、主力の婦人服は大半のブランドがずっと低迷したまま。ショッピングセンターなどに出店するSPA(製造小売り)の客数減にも歯止めがかからない。15年はワールドやTSIホールディングスなど、マスマーケットで成長してきた企業による大規模なリストラが業界に衝撃を与えた。J.フロント リテイリングの山本良一・社長は「(大丸松坂屋百貨店の15年3〜8月期の)データを見ると、年間200万円以上を買うお客さまの販売は前年同期比7.8%増だったのに対し、(ボリュームである)50万円以下のお客さまは6.7%減だった。二極化はますます顕著になっていくだろう」と予想する。単なる二極化ではない。マスマーケットにおいて、ファッション自体から消費者が離れていることへの危機感を、多くの業界人が抱くようになっている。
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ファッションは一部の人の趣味に?
「物欲なき世界」(平凡社)
編集者の菅付雅信氏が書いた「物欲なき世界」(平凡社)は、そんな消費市場の地殻変動をリポートし、各界で話題になっている。菅付氏は先進国で広がる「モノを買わない」「特別に欲しいモノがない」という消費者の実感を「物欲レス」と表現し、ファッション、食、ライフスタイル、経済、カルチャー、思想などさまざまな分野の専門家のインタビューを通じて、今後を展望する。
菅付氏のインタビューを受けた「ゼムマガジン」の右近亨・編集長(取材当時は「ヒュージ」ディレクター)の言葉が印象的だった。雑誌文化、ひいては消費文化の中心にあったファッション誌のポジションが変わったと右近編集長は指摘する。「誤解を恐れずに言うならば、一般誌だったファッション誌がオーディオや囲碁、園芸、兵器などの趣味雑誌と同等のものになりつつあります。要するに万人にとってジェネラルなものではないということ。これは、近年多くのファッション雑誌がリニューアルをしている現状からもわかるはず。どれだけ素晴らしい内容のファッション特集を作っても、ある一握りの人たちのためのものになってしまい、結果としてセールスを作れない」。
「物欲レス」の時代で勝ち抜くには
ファッション誌はありていに言えば、大衆の欲望を喚起する役割を果たしてきた。よくいわれるネットとの競合以前に、その大衆がファッションに関心を示さない「物欲レス」になっている。若い世代ほどその傾向が強い。服飾専門学校生を対象にした「よく買うブランド」の調査では、00年代半ばから「ユニクロ(UNIQLO)」「ザラ(ZARA)」「H&M」など低価格SPAが上位を独占する傾向が続いている。かつてならば食事を抜いてでも、背伸びをしてデザイナーブランドを着ていたような服飾専門学校生がたくさんいたことを考えると、隔世の感がある。
「物欲レス」の世の中を味方につけたように、合理的な服を提供する「ユニクロ」は、何年も前から飽和状態といわれながらもじりじりと売り上げを伸ばしている。かつては「ユニクロでいい」といわれたが、今は「ユニクロがいい」という消費者が多い。矢野経済研究所によると国内の14年のアパレル市場規模は9兆3784億円。「ユニクロ」の国内売上高は7801億円(15年8月期)なので、単純計算すると、市場シェアは8.3%になる。3年前に比べて1.4ポイント上昇しており、10%越えも現実味を帯びてきた。
「物欲レス」の時代において、ファッション企業にどんな活路があるのか。現状を打破しようと、アパレルは服だけでない雑貨や食を充実させたライフスタイル業態を相次いで開発し、大型ショッピングセンターは物販だけでなくエンターテインメント施設を併設するなど、試行錯誤を続けてきた。だが、成果は今のところ一部に限られる。ファッションは再び消費者の物欲を喚起できるのか。一握りの人たちの趣味へと収縮してしまうのか。いずれにしても、変化できたものだけが生き残る。
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※文中の肩書き・事実関係などは2015年12月7日当時のものです