三原康裕と三陽商会の協業により誕生した「ブラックレーベル・クレスト ブリッジ 」
それは、新たな時代を予感させるランウエイだった。三陽商会による「バーバリー・ブラックレーベル(BURBERRY BLACK LABEL)」と「バーバリー・ブルーレーベル(BURBERRY BLUE LABEL)」の後継ブランドである「ブラックレーベル・クレストブリッジ(BLACK LABEL CRESTBRIDGE)」と「ブルーレーベル・クレストブリッジ(BLUE LABEL CRESTBRIDGE)」の2015-16年秋冬ランウエイショーの話だ。
[rel][item title="【レポート】「ブラックレーベル&ブルーレーベル・クレストブリッジ」2015-16年秋冬 世界観を描く新百貨店ブランド誕生" href="http://www.wwdjapan.com/collection/report/black-labelblue-label-crestbridge/2015-16-fw-other/" img=""][/rel]
三原康裕デザイナーを起用した2つのブランドは、正直期待以上のコレクションを見せてくれた。2つ合わせて300億円(弊紙推定)を売るメガ・ブランドだけあって、三原と三陽商会は売れ筋を確実に踏まえつつも、オーバーサイズのシルエットやスタイルミックスで世界観をプラス。MDにとらわれるあまり、“語りどころ”が単品に傾きがちだった過去から抜けだし、ブランドとして語ることができるようになった。
ショー直前のインタビューで、三原が「新ブランドが目指すのは、『継承と革新』」と言ったのが腑に落ちた。キチンと売れ筋を踏まえ、世界観でも勝負できるようになった進化については、従来型のアパレル・ブランドは売れないことを痛感し始めた百貨店関係者、世界観のない単品ではストーリー仕立てのシューティングが難しかった雑誌関係者の双方を喜ばせた。既存店舗のほとんどを新ブランドに業態転換できる見通しになったことを含め、上々のスタートを切ったと言えるだろう。
「ブラックレーベル・クレストブリッジ」と「ブルーレーベル・クレストブリッジ」の誕生は、規模の大きな2ブランドのスムーズな変身以上の意味を持っている。それは、デザイナーとアパレル企業の社員に、両者の協業は今後、双方にとっての新たな生きる道になると認識させ、さらに後者には改めて「ファッションって楽しい」ことを痛感させた点だ。
創業は1943年。国内にはコートの自社工場を持ち、働く社員一人一人が高い専門知識を有する三陽商会の社員について、三原は「僕の提案を踏まえ、『だったらこうすれば』と逆提案してもらう機会も多かった」と話す。三原も“この道20年”のプロだが、それより歴史が長く、さらに規模も巨大な三陽商会で、各ジャンルに特化したスペシャリストと働いた経験は、「インフラを使い、大勢に売ること」について考える契機になり、三原にとっては、インディペンデントに固執するあまり“小さくまとまる”のではなく、より大きな世界を知るチャンスとなっただろう。
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「ブルーレーベル・クレストブリッジ」2015-16年秋冬コレクション
一方この取り組みは、三陽商会にとっても大きなステップになった。このブランドのある企画スタッフはかつて「売れ筋を追うあまり、そして社内に人材が不足するにつれ、(『バーバリー・ブラックレーベル』の)後年においては、既存のシルエットと手持ちの生地を組み合わせる“順列組み合わせ”のような企画もあった」と打ち明ける。
ブランドに携わりつつも、仕事の中身ゆえ愛することが難しく、いつしかファッション業界に飛び込む際には抱いていた夢さえ忘れていたという。それが、今は三原が「一人一人のモチベーションは、本当に高い。彼らには、長年“やりたいこと”があった」と話すほどになった。外部のデザイナーによる新たな刺激が、モノ作りの企業ゆえディテールにとらわれ、いつしか“木を見て、森を見ず”に陥りかけていた社員を鼓舞したのだ。
ショーで印象的だったのは、コレクションだけではなかった。「慣れていませんが、挑戦していかないと」と苦笑しながら不得手な会場案内を担当した広報部員たち、そしてショーの直後「三陽商会の意地を見せたな!」とバックステージの社員を励ましたという杉浦昌彦・社長と、感動のあまり号泣しながら彼の言葉を受け止めたという社員たち。三原により、2つのブランドの関係者たちは、生まれ変わったとも言えるだろう。
「ブラックレーベル・クレストブリッジ」と「ブルーレーベル・クレストブリッジ」は、三陽商会の社員全員さえ刺激した。別件で後日別事業の担当者に会った際、彼らにショーの話を向けると、あるPRは、「良かったですよね!僕も『着たいな』と思いました」と話し、あるディレクターは「(素晴らしいショーだったのに)取引先の来場が多かった一方、メディアの方の来場が少なかったのが残念......」と悔しそうだった。それぞれが一定の熱量を持って新ブランドについて話していた。2つのブランドが示した三陽商会の新たな可能性を感じ、自身は直接関係ないながらも燃えているのだろう。
ショーの数日前、三陽商会は自社ブランド「トゥー ビー シック(TO BE CHIC)」のディレクターに、「ドレスキャンプ(DRESSCAMP)」の岩谷俊和デザイナーを迎えることを発表した。この協業もまた、三陽社員と岩谷双方にとって新たな刺激になるだろう。商社やアパレル企業の原材料と技術を、デザイナーが料理する時代が本格的に始まった。それは、デザイナーズブランドは高すぎて買えず、一方で、これまでのアパレル・ブランドの洋服はツマラないから買わず、結果いつしかファッション業界から遠ざかってしまった消費者を再び取りこむ救世主になるかもしれない。
※文中の肩書き・事実関係などは2015年4月13日時点のものです