ファッション

YOSHIROTTENと名作家具“マレンコ”の交差 逆提案から実現した10年越しのコラボ

イタリアの巨匠マリオ・マレンコ(Mario Marenco)がデザインし、1971年にファニチャーブランド「アルフレックス(ARFLEX)」から日本で発売されて以降、100回以上の改良を重ねながらも、ほとんど姿を変えずに時代を超えて愛され続けてきたソファー“マレンコ”。この普遍的な造形美を誇る名作家具に新たな息吹を吹き込んだのは、国内外で活躍するアーティストのYOSHIROTTENだ。

始まりは10余年前、YOSHIROTTENが「勝手に作った」という非公式のコラージュ画像だった。一人のファンの純粋な衝動から生まれたアイデアは、逆提案を機に公式なコラボレーションとして動き出し、アートと暮らしが共鳴する一点物の“マレンコ”として結実した。単なる鑑賞物ではなく、日常の中で使用されることを主とした家具として成立させるためのデザイン哲学や、実現までに直面した技術的な試行錯誤などについて、本人に話を聞いた。

「家具は“使いやすいこと”が大前提」

──まずは、今回のコラボレーションに至ったきっかけから教えてください。

YOSHIROTTEN:10年以上前、きっかけは忘れてしまったんですけど“マレンコ”の存在を知り、すぐに好きになったものの購入することはできなかったので、「いつか実現したらいいな」と、フォトショップで“マレンコ”の写真に僕のグラフィックを合成したコラージュ画像を勝手に作ったんです。ただ、これは“マレンコ”に限らず普段から車やお菓子のパッケージなどでも同じようなことをしていて、どこかに発表するわけでもなく日常的にストックしているアイデアの一つでした。

──そのアイデアが、なぜ今になって形になったのでしょうか?

YOSHIROTTEN:5年ほど前、知人がアルフレックスに入社したタイミングで連絡をくれて、やり取りの中で僕が勝手に作った“マレンコ”のコラージュ画像を引っ張り出して送ったんです。それまでに他のアーティストさんたちが“マレンコ”でコラボしているのを目にしていたこともあり、一か八かでしたね。

──“逆提案”から始まったんですね。

YOSHIROTTEN:そうなんです。通常のコラボレーションは、お声がけいただいてからデザインを描き下ろす流れですが、今回はすでに10年前に出来上がっていたコラージュ画像をそのままお見せして、そこから社内で検討していただく形でプロジェクトが動き出しました。

──デザインするにあたって、特に意識されたアプローチはどのようなものでしたか?

YOSHIROTTEN:最初の段階から、僕の作風を全面に押し出すようなことは考えていませんでした。なぜなら、“マレンコ”そのものが完成されたデザインで居心地の良いものだから。なので、空間の中で新しい遊びを楽しんでもらう提案でありたかったんです。“マレンコ”の独特な丸みやフォルム、佇まい、柔らかさ、浮遊感などを汲み取り、それをグラフィックへと昇華させる──例えるなら、「完成された美しいお皿の上に、どう美味しい料理を盛り付けるか」という感覚でしたね。

──平面のイメージを実際にプロダクトとして製品化するにあたり、どのような面白みや難しさがありましたか?

YOSHIROTTEN:平面写真の合成画像から実際に形にするにあたり、まずはCGで3次元のシミュレーションを行いました。平面では良く見えても、立体として360度回転させていくと、「正面はいいけれど、斜めや後ろから見たときにデザインが成立していない」や「この角度からだと美しく見えない」などの歪みが見えてきたんです。その後、どの角度から見ても美しく成立するようにミリ単位で微調整を重ね、それを実際の型紙パターンに落とし込んだ後、縫製の段階でグラフィックをいかにズレなくつなぎ合わせられるかは、アルフレックスさんとの綿密な連携があったからこそ。改めて、平面のイメージを立体物として成立させることの難しさと奥深さを実感しましたね。

──今回のコラボピースは鑑賞されることよりも、日常の中で使用されることを主とした家具です。普段のアート制作との間で、アプローチや思考の違いはありましたか?

YOSHIROTTEN:そもそも僕自身、自分の作品を単に眺めるだけの“鑑賞物”ではなく、一つの“体験”として捉えています。それは、流行りの没入体験とは少し異なり、その時間にその場を訪れて目撃すること、前後の時間の流れや周囲の景色などを含めた総合体験という意味合いです。

アートにおける体験は、本来とても自由なものなんですよね。けれども、家具は“使いやすいこと”が大前提にあり、そこからデザインやプロダクトが生まれてくる。だからこそ、家具としての“マレンコ”が持つ本来の機能性や心地よさを壊してはいけないし、グラフィックを乗せる上でも一番心がけた部分でしたね。

──そんなコラボピースは、10月に一般向けに披露され、抽選販売も実施されるとお聞きしました。

YOSHIROTTEN:10月30日から虎ノ門ヒルズ・東京ノードで開催する個展「ヨシロットン展 彼方との交信/BEYOND EARTH」でお披露目し、会場内のショップエリアに部屋のような一画を設けて、僕のオリジナルゲームが体験できるスペースとともに、3シーターの“マレンコ”を展示・販売します。残念ながら一点モノのアートピースのため着座はしていただけないんですが、“マレンコ”は何より座り心地が素晴らしいので、どうするかの葛藤はありましたね(笑)。抽選販売は、「アルフレックス」の公式サイト内の特設ページで10月30日から2027年1月11日まで受け付けています。

──3シーターの“マレンコ”のほかに、1シーターの“マレンコ”とクッションも制作されたそうですね。

YOSHIROTTEN:1シーターの“マレンコ”は、完全非売品のスペシャルピースとして、アルフレックスの直営店舗などを巡回展示します。10月29日からアルフレックスの大阪店で約2週間の展示をスタートし、その後は東京店、二子玉川のアルフレックス リストア、名古屋店、松坂屋名古屋店を巡回予定ですね。

クッションは、一点モノの“マレンコ”とは別に、一般販売できるモノとして制作しました。このクッションのために、僕の中にある“マレンコ”らしさを再解釈したドローイングを新たに描き起こし、表と裏でグラフィックが違う2種類(A柄とB柄)を用意して、それらを4つ並べると絵柄が一続きになる仕様です。

──最後に、家具は“暮らしの中で使われ続けることでも価値が生まれるモノ”だと思いますが、いかがでしょうか?

YOSHIROTTEN:昔から「自分がデザインしたTシャツが、何十年後かにおじいちゃんになった時、孫と行った古着屋で見つかったら面白いな」と思っています。それと同じで、今回の“マレンコ”が誰かの日常の中でずっと使われ、気に入ってもらえて、その家の思い出や人生の一部になってくれたら本当に嬉しいですね。使い込んでいくうちに柔らかくなったり、少し汚れたりしながら、生活の痕跡が刻まれていく。アルフレックスさんは、メンテナンスを含めて長く寄り添ってくださるブランドですから、何十年も使い込まれた“マレンコ”がどんな表情になるのか、僕自身も今から楽しみです。

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