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「シャネル」が支援する京丹後「あしたの畑」 アートと手仕事で育む、500年後の誇り

「500年後の人々の誇りになる遺産を生み出す」を理念に掲げる「あしたの畑」は、京都の京丹後市間人(たいざ)を主な拠点に、アート・工芸・建築・食を通じて、地域の歴史と文化を踏まえながら、新たな価値を育んでいく集落構想プロジェクトだ。

運営するのは、徳田佳世が理事長を務めるNPO法人「TOMORROW」。徳田は、都内で現代美術ギャラリーに勤務した後、公益財団法人 福武財団で「地中美術館」や「豊島美術館」など数多くの空間やプロジェクトの立ち上げと運営に関わり、独立。京都へ移住し、市内の町家を建築家の西沢立衛らと協働・改修した「丗|SEI KYOTO」を開設した。

「美術館という空間ではなく、歴史や文化が息づく地域を直接訪れて体験でき、さまざまな分野のクリエイターが地域に住み、モノ作りに取り組める場をつくりたい」。そんな集落構想を具現化できる場を国内外で探す中、偶然訪れた間人に魅了され、2020年から「あしたの畑」の活動を始めた。

これまで脈々と地域に受け継がれてきた自然や文化、手仕事が、高齢化や産業構造の変化によって失われつつある中、「あしたの畑」は土地固有の資源や営みを見つめ直し、次世代へと継承することを目指している。6年目となる26年の秋期公開は、「REFLECTION(顧み)」をテーマに、原始的な暮らしの知恵や精神性を再評価しながら、多様な分野のクリエイターとの協働を通じて、未来の暮らしのあり方を探る。

10月12日の開幕に先駆けて行われたプレスツアーに参加した筆者は、徳田をはじめ、「あしたの畑」に関わる作り手の案内で、地域の建物や素材を生かした各拠点を巡った。

創造と学びの新たな拠点「間人プレイス」を初公開

ツアー当日は雲1つない見事な秋晴れ。青々とした空と海が目の前に広がる間人で最初に訪れたのは、今回が初公開の「間人プレイス」だ。

かつて丹後ちりめんの織物工場だった建物を、「シャネル(CHANEL)」の支援の下で改修。職人やクリエイターが集い、地域の手仕事や文化を学びながら制作や交流を行う、新たな創造と学びの拠点として生まれ変わった。

徳田は、25年に東京で開催された展覧会「ラ ギャルリー デュ ディズヌフエム トーキョー(la Galerie du 19M Tokyo)」で「シャネル」と協業。日本とフランスのクラフツマンシップと、その背景にある文化や思想への深い理解を持つエディトリアル コミッティの一員として、安藤桃子や西尾洋一、緒方慎一郎、アスカ・ヤマシタらとともに、企画展示「ビヨンド アワー ホライズンズ(Beyond Our Horizons)」のキュレーションを担当した。また「あしたの畑」の一員であり、建築家の橋詰隼弥は、同展の会場デザインを、「中川木工芸」3代目の中川周士は、数々の展示作品を手掛けている。

企画展示「ビヨンド アワー ホライズンズ」では、日仏のアーティストや職人が協働し、伝統技術と新たな創造性を融合させた空間と作品を発表したが、「間人プレイス」にはそこで使用された木材や作品の一部が再活用されている。

ついに公開の日を迎えた「間人プレイス」。その改修や整備の中心的な役割を担ってきたのが中川だ。

彼は「間人プレイス」を、オフグリッドな暮らしの可能性を探る「壮大な実験場」と位置付け、建物の外観から内装、雨水を貯める仕組みや、大量に出る木くずを暖房器具の燃料であるペレットに加工する仕組みなどの構築に尽力。併設したトイレは、排泄物と木くずを自動で混ぜる機能まであり、農作物を育てるための堆肥にするという。

中川は、「手作りには、心の隙間を埋め、人間が本来持つ能力を呼び覚ます力があるのでは、と考えている。今後はここを訪れた人たちと、さまざまなモノ作りのワークショップに取り組む。自分が長らくやってみたかった、巨大な丸太を丸々1本解体するところから、集った人たちと楽しめたら」と語る。

一方、こうした取り組みは「すぐに答えが出るものではない」とも。「このプロジェクトで出合ったものが、いつかどこかで芽を出すかもしれない。そう思いながら、変化を起こし続けることを諦めずに、長い時間をかけて可能性を育んでいきたい。より良い未来へと進んでいけるように、小さく小さく揺らし続けながら、向かう先を変えていけたら」。

2024年に完成した間人初のアートギャラリー「セイ タイザ」

続いて訪れたのは、地域で初めてのアートギャラリー「セイ タイザ(SEI TAIZA)」だ。取り壊しが進む丹後ちりめんの旧織物工場を再生した空間で、今回は「ステイ ゴールド(Stay Gold)」と「SEA BRIDGES ― 茶」の2つの企画展を同時開催している。

「ステイ ゴールド」展では、「シャネル」の支援の下、25年に東京で開催された「ラ ギャルリー デュ ディズヌフエム トーキョー」で発表された日仏の職人やアーティストによる協働作品を紹介している。

オートクチュールの仕立てを専門とするアトリエ「パロマ」と漫画家の五十嵐大介の平面作品や、花細工のアトリエ「ルマリエ」と京都の唐紙工房「かみ添」嘉戸浩らによる作品が並ぶ。東京からパリ、そして間人へと続く創造の対話を通じて、技術や文化を次世代へとつなぐ試みだ。

もう1つの企画展「SEA BRIDGES ― 茶」は、韓国・ソウルを拠点に食・衣・住の伝統文化の研究を行う文化遺産研究所「オンジウム(ONJIUM)」と「あしたの畑」による共同プロジェクトだ。

今年は、朝鮮半島と丹後の歴史的なつながりを背景に、植物由来の飲み物である「茶」をテーマに展開している。展示空間では、アーティストの浅野友理子が、日韓の暮らしに根付く薬草や食文化に着想を得て、陶器作品や丹後の織物を用いた絵画を展示販売。海を越えた文化交流から、新たなモノ作りの可能性を探っていた。

ツアーの合間には、築約100年余りの家屋を木工や陶磁器、ガラス、唐紙、左官の職人たちと4年がかりで修繕したという「間人スタジオ」で、昼食が振る舞われた。

京都市役所近くの人気居酒屋「ブランカ」や、京都府宮津市のオーベルジュ「由良ブランカ」を手掛けるシェフが腕を振るったメニューは、間人の名物であるへしこをはじめ、丹後地域の海の幸・山の幸がふんだんに使われ、滋味深い味わいで記憶に残った。

かつて海だった地「宮のあしたの畑」
土とともに生きる建築「宮ティーハウス」

続いて訪れたのは、古くから大陸との文化交流が行われてきた丹後町の宮地区。神明山古墳の麓、竹野神社の参道沿いに位置する「宮のあしたの畑」エリアに、2年の歳月をかけて完成したのが「宮ティーハウス」だ。

「宮ティーハウス」は、建築家のアンナ・ヘリンガー(Anna Heringer)、陶芸作家のマーティン・ラオホ(Martin Rauch)、京都の左官職人・中須仁隆が協働した半屋外の建築で、伝統的な工法である版築(はんちく)壁と、木材を相互に組み合わせた屋根が特徴だ。

この場所から掘り起こした土や砂利などを、板で囲んだ型枠の中に入れて突き固め、層を積み重ねていく伝統工法には、建築を学ぶ学生や若手クリエイターらも参加。さまざまな技術や作業を実践しながら、設計から施工までを学べる機会にもなったそうだ。

円形の室内は程よい明るさと広さで、居心地も良かった。土でできたベンチの部分に腰掛けると、ひんやりと冷たい。数寄屋建築に代表される日本の伝統的構法と現代の構造解析を組み合わせ、安全性と造形性の両立を実現した上、再び自然に返る天然素材のみでできたサステナブルな建築でもある。

秋期公開の会期中は焼き芋とチャイを味わうイベントや、「セイ タイザ」の企画展でも協働する「オンジウム」と少人数のティーエクスペリエンスを開催した。今後も建築を通じて人が集い、文化を分かち合う場を目指すという。

また、「宮ティーハウス」が位置する「宮のあしたの畑」には、3つの作品が点在する。アーティストのテレジータ・フェルナンデス(Teresita Fernandez)と中川周士らによる、世代を超えた協働作品「フィールド オブ スターズ(Field of Stars)」、建築家・西沢立衛が地域の焼杉を用いて設計した小さな「納屋」、そして陶芸家の新里明士と加藤貴也が間人の土で制作した「あしたの畑窯」だ。いずれも土地の素材や風景と呼応しながら、新たな創造の可能性を提示していた。

古代から未来へ、丹後 間人の風景がつなぐもの

プレスツアーの最後に訪れたのは、日本海を見渡す高台に位置する大成古墳群だ。奈良に都が置かれる以前、丹後は大陸との交易や文化交流を通じて独自の文化を育み繁栄していた。間人周辺にいくつも残る古墳群が、その豊かな歴史を今に伝えている。

「あしたの畑」の代表を務める徳田は、初めて間人を訪れた日、まさにこの高台から眺めた景色に一目惚れしたそうだ。ツアーに同行していた徳田は、「そのときは夏だったけれど、まさに今日のような雲1つない快晴の日だった」と、眼下に広がる風景を眺めながら語ってくれた。

筆者は今回のプレスツアーで初めて京丹後を訪れた。以前から長らく足を運んでみたいと願っていたものの、なかなか機会がなく、ツアーに参加していた地元・京都新聞の記者に「交通の便などの理由から、“東京から最も遠い場所の1つ”とも言われている」と教えてもらったほどだ。実際、東京からは新幹線と車で片道約5、6時間かかった。

それでも、念願かなって実際に訪れることができ、非常に記憶に残った。かつて海を越えて多様な文化が行き交ったこの土地には、豊かな自然と紀元前から続く歴史、手仕事の文化、地域の人々の暮らしが静かに息づいていた。そして、京都市内に国内外から多くの観光客が訪れる一方、京都市内からも車で約2、3時間の距離にある京丹後は、まだ広く知られていない魅力が数多く残されていると感じた。

「あしたの畑」プロジェクトは、そうした土地の資源や文化を単に保存するのではなく、まさに土地を耕し種をまくように、現代のアーティストや職人たちと協働して新たな価値を生み出し、未来につなげるために長い時間をかけて育てていく取り組みだ。

かつて大陸との交流によって文化が花開いたこの地で、再び国境や世代、分野を超えたクリエイションが始まっている。「500年後の人々の誇りになる遺産」を目指す「あしたの畑」プロジェクトの挑戦は、土地の記憶を受け継ぎながら、未来の文化や私たちの暮らしのあり方を問い続けていくだろう。

◾️「あしたの畑」秋期特別公開
会期:10月12日~11月8日
時間:10:00-17:00、最終入場 15:30(水曜日定休)
会場:間人/ 間人スタジオ、SEI TAIZA、間人プレイス、宮/宮のあしたの畑(Field of Stars、宮ティーハウス)
鑑賞料:大人 3500円、学生 2500円(学生証を提示)
※宮の作品は常時自由鑑賞、無料
※日時指定ツアー制、別途プライベートツアーも実施

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