1972年の誕生以降、全国に店舗網を広げ、今や幅広く一般層に認知されるジュエリーブランド「4°C」。ギフトの定番や、手に取りやすいジュエリーとして広く親しまれる同ブランドが今、パリコレに参加する気鋭デザイナーとの協業を通じて、モードの世界へ新たな一歩を踏み出している。
2026年1月、パリ・メンズ・ファッション・ウイークで行われた日本人デザイナー・森川拓野が手掛ける「ターク(TAAKK)」のショー。マニアックな素材使いとエッジの効いたコンセプトでコアなファッション好きから支持される同ブランドの26-27年秋冬コレクションは、「湧き上がる衝動」をテーマに、縄文時代を着想源に据えた。当時の人々が身に着けていたようなプリミティブな装身具へオマージュを捧げたコレクションの随所で、鉱石をかたどったジュエリーがきらめき、ショーに詰めかけた多くのファッション・ジャーナリストやバイヤーたちの注目を集めていた。
天然石に直接シルバーを吹き付ける「一点もの」のアプローチ
このジュエリーは、「ターク」の森川とともに、「4°C」が2021年に立ち上げたジェンダーレスライン「4°C オムプラス(4°C HOMME+)」が手掛けたものだ。純銀や純金を鉱物に直接吹き付ける「4℃」の独自技術を応用。砕いたり削ったりしていない、ありのままの天然石にシルバーを密着させることで、リングから原石がそのまま生え出したかのような造形を実現した。天然石は森川自らが選定している。従来の「4°C オム+」のモノ作りが、同じ形にカットした石を数百ピース単位でそろえ、同じ爪留めで量産する発想だとすれば、今回は“石ありき”でデザインを起こす真逆のアプローチをとった。同じ石は二つとないため、在庫が尽きれば再びデザインに合う石を一つひとつ探すところから始まる。文字通りの一点ものとなった。
1月のランウェイを飾ったのは、ショーのために生み出されたショーピース用のジュエリーだった。両者の協業はその後も続き、続く6月のパリでの27年春夏ショーでは、今秋発売するカプセルコレクションがランウェイに登場した。カプセルコレクションでは前述のような天然石を使った一点ものに加え、鉱物から型を取って地金を流し込み、原石のプリミティブな造形を鋳造で再現したモデルも用意。リングを中心に、ネックレスやバングル、ピアス、カフスをそろえる。全15型で構成し、平均単価は11万円で、主役となるリングは13万円、リング7型の平均単価は10万円。ネックレス(3型)とバングル(2型)は平均15万円、カフス(1型)は6万円、ピアス(2型)は5万円となる。10月末には限定店舗での展開が決定しており、それに合わせて百貨店でのポップアップ開催も控えている。
SPAの強みを再認識 互いに与え合った刺激
「ターク」は、「LVMHプライズ2021」のセミファイナリストに選出されるなど実力派として知られる一方、ファッションに関心の薄い一般層からの認知度は高くないであろう。ではなぜ、マスブランドとパリコレブランドという、一見意外な協業が実現したのか。
きっかけは、ブランドのプレス担当者が「4°C オム+」との縁をつないだことだった。森川が原始的な装身具のイメージ写真を見せると、返ってきたのは「話を聞いてみたい」という前向きな返事。そして初回の顔合わせで提示された一つの試作品で、森川はすぐに協業を決意したという。パールの表面に、じかにシルバーが吹き付け、石の形をいかしたまま金属をまとわせる。後にコレクションの核となる技術の原型だ。「まだ完成度は低かったけど、これが世の中にないということは分かった」と森川は振り返る。
協業がスタートしたのは昨年9月。ショーまで、すでに半年を切っていた。しかし、「4℃」および「4℃ オム+」を運営するエフ・ディ・シィ・プロダクツ社内でPR、商品部、生産管理が一体となるセクション横断のプロジェクトとして動き出すと、難しいと思われた26年1月のショーでの披露を見事に実現させた。「4°Cさんの技術基盤と、発想を形にするスピードがあったからこそできたことだと思う」(森川)。
「自分たちが当たり前だと思っていたことを、強みとして再認識する機会になった」と話すのは、エフ・ディ・シィ・プロダクツの牛村晃也・第一事業部商品第一部4℃ジュエリー商品課長だ。「私たちはSPA(製造小売業)として企画から製造まで全て自社で完結でき、独立系ジュエラーにはない組織力とスピード感がある。森川さんのクリエイティブを表現するにあたって、この短期間であそこまでの精度を出せたことは、『4°Cさんにしかできない』といろんな方に言っていただけた」(牛村氏)。
量産を前提としたモノ作りが基本の「4°C オム+」にとって、今回のような一点ものの取り組みは新しい挑戦でもあった。「森川さんから湧き出てくるアイデアに対して、これまでの量産ベースのモノ作りの固定概念を一度外して向き合った。それに僕たちはジュエリーブランドだから、ジュエリーそのものに視点が偏りがち。洋服とともにジュエリーを『世界観を作るショーピース』としてアウトプットする森川さんのパリコレデザイナーとしての考え方には、目からウロコの部分も大きかった」と牛村氏は振り返る。
「コスパ」ではない付加価値で海外に道筋
「4°C」のシンプルでコンサバティブなブランドイメージとは一線を画す、今回のカプセルコレクション。ビジネスとしては限定的な規模ながら、その先鋭的なデザインは、これまでとは異なる客層を開拓する役割を担う。
「ターク」の卸先は、「ヌビアン(NUBIAN)」や「ミッドウエスト(MIDWEST)」「アマノジャク(AMANOJAK.)」といった高感度・実力派のセレクトショップがラインアップする。こうした店での展開も視野に入る。「もしそういう店に並んだコラボアイテムが、その子たちの『ファースト4℃』になったら、世間の人たちが抱く“4℃”のイメージとは相当違うものになるんじゃないか」(森川)。今回のコラボ商品は「4°C オム+」の既存ファンではなく、新規客層による購入を念頭に置いている。「これまでギフトなどのシーンでお求めいただいていた方も多いが、“自己表現”として選ぶ、新しい魅力を伝えたい」(牛村氏)とする。
また、「ターク」は海外のブラックカルチャーやヒップホップ界隈でも人気を高めており、著名アーティストや俳優などセレブリティーにもファンがいる。「すでに『あのジュエリーは何だ?』という海外バイヤーからの問い合わせは多い。反応はめちゃくちゃいい」と森川は手応えを掴む。ヨンドシーホールディングス(エフ・ディ・シィ・プロダクツの親会社)は、連結売上高の9割超を国内が占める一方で、海外の販路開拓が課題となっている。「ターク」のような先鋭的なファッション性と結び付くことは、海外での存在感を高める足掛かりになるかもしれない。牛村氏は、「森川さんとの出合いによって、自分たちが認識していなかった強みを再認識し、クリエイションの面でもビジネスの面でも、まだ広がっていく可能性を感じられた。これを成功事例にして、他のデザイナーとの協業も視野に入れていきたい」と前を向く。