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ルーヴル美術館と祝う「ヴァシュロン・コンスタンタン」270年の探求

ヴァシュロン・コンスタンタン,VACHERON CONSTANTIN

「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」は創業270周年を迎え、盛大なお祝いがフランス・パリのルーヴル美術館で行われた。ジュネーブ最古のマニュファクチュール(自社一貫製造)と芸術の都パリを象徴する最高峰の美術館を結ぶものとは何か。

メゾンと屈指の美術館をつなぐ
時代の新たな息吹

メゾンが始まった1755年、創業地スイス・ジュネーブは「社会契約論」を著したジャン・ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)を輩出し、啓蒙思想が広く社会に根付いていた。その知識を体系化した大著「百科全書」(ディドロとダランベールが編集し、ルソーやボルテールらが寄稿)は、ジュネーブの時計製造を支えた時計職人を「時計づくりに携わる芸術家に与えられる名称である」と定義した。

当時の時計学は、工学をはじめ、数学、力学、天文学、物理といった数理科学に基づき、学術分野の一つでもあった。その広範な知識を駆使した時計職人は、時間を自在に操り、優れた工芸によって作品は道具を超え、芸術の範疇へと近づいていく。先進技術と美が融合した時計は、畏敬や好奇心、感動を呼び覚ます人類の新たな叡知にほかならなかったのだ。

メゾンの創業者、ジャン・マルク・ヴァシュロン(Jean-Marc Vacheron)は、こうした時代の薫風を受け、独自のタイムピースを探求していく。科学と芸術の目覚ましい発展とともに旧体制から社会が移り変わりつつある中、それはまさに啓蒙の担い手としての役割をはたし、確実に新しい時を刻み始めたのだ。

同じく啓蒙の時代を象徴したのがフランスのルーヴル美術館だ。フランス革命によって王家の美術品が公開され、1793年に公共美術館として創設した。それまで一部に独占されていた芸術や文化を社会遺産として公共財化し、それは知識を共有する近代美術館の先駆けとなり、世界に波及したのだった。

オートマトンと計時機構を融合した
初のクロック

ヴァシュロン・コンスタンタンとルーヴル美術館。啓蒙主義が息づき、芸術や文化、伝統と遺産に対する価値観を共有する両者が手を携えたのは2016年のことだ。美術館に保管されていた1754年にフランス王ルイ15世に献呈したクロック「天地創造」の修復をきっかけに、2019年に本格的なパートナーシップを結ぶ。翌年にはクリスティーズがルーヴル美術館のために開催したオークション“Bid for the Louvre”にユニークピースを出品し、その売り上げを美術館連帯プロジェクトに全額寄付するなど連携を深めてきた。こうして培ってきた互いの理解と絆によって、ルーヴル美術館はメゾンの270周年を祝すにふさわしい舞台となり、クロック “ラ・ケットゥ・デュ・タン(La Quete du Temps / 探求)”とその世界観を共通する腕時計“メティエ・ダール – 時の探へ求敬意を表して – ”という新作に結実したのである。

特にクロックが目指したのは、オートマトン(機械仕掛けの自動人形)と時計製造の概念を再定義した両者の融合である。世界で初めてオートマトンを時計の計時機能の一部として組み込み、真の複雑機構に昇華させる挑戦だ。

高さ1070㎜、幅503㎜の圧倒的な存在感は3つのセクションからなる。天空図と太陽をあしらったガラスドームにオートマトンの天文学者が直立する上部に、中央にはトゥールビヨンなど複雑機構を備えた文字盤と背面に北半球の天文時計を設ける。さらにその下の八角形のボックスにオートマトンの機構とオルゴールを収めている。

開発は7年におよび、23種の複雑機構に加え、1分半にわたるオートマトンは144種の動作を秘め、2曲の楽曲を奏でる機械式オルゴールを内蔵する。新開発した技術のうち、時計製造に関して7件、オートマトンには8件の特許を出願する大作だ。

奏でられる楽曲で目覚めたオートマトンは、まるで広大な宇宙に陶然とするかのように周囲を見渡し、大きく手を広げた後、周回する球状の月の軌跡を示す。そして第二の楽曲が流れると、右腕に続いて左腕を上げて、取り巻く天空図の星々を指し、視線を向ける。まさに天文学者が宇宙の神秘へと誘うのだ。

この一連の動作が終わると、いよいよクライマックスだ。両腕で左右に浮かぶ時刻の目盛りを指す。その目盛りもランダムに配置され、順番通りでない複雑な腕の動きが楽しめる。天体と連なった計時の動きは、変わることのない両者の存在と関係性をあらためて感じさせるだろう。この機構はアラーム設定の他、オンデマンドでも動作できる。

メティエ・ダールを駆使した
リストウオッチも発表

天文時計 “ラ・ケットゥ・デュ・タン”とともに、その技術と世界観にインスピレーションを受けたリストウオッチ “メ ティエ・ダール ‒ 時の探求へ敬意を表して ‒ ” も発表された。文字盤は、1755年のメゾン創業日にジュネーブから見上げた天空図を背景に、ダブルレトログラードによる時刻表示とパワーリザーブインジケーター、そして月齢を示す立体の高精度ムーンフェイズを組み合わせる。さらに背面の文字盤には、天空図上で恒星時を表示するとともに星座の動きをリアルタイムで追跡し、9130年でわずか1日しか誤差は生じない。3年の歳月をかけて開発したダブルフェイスの超複雑時計だ。

天文学者を表す中央の人物像は、両腕で時刻を表示し、通常の連続動作の他、10時位置のプッシュボタンにより、任意で起動させることもできる。ネイビーのグラデーションで仕上げたスケルトンダイヤル越しには、4件の特許を出願する新開発の手巻き式ムーブメントのキャリバー3670を搭載する。

“メティエ・ダール ‒ 時の探求へ敬意を表して ‒ ”は、伝統と遺産を受け継ぎ、複雑機構である天文時計とレトログラード表示というメゾンを象徴する2つの要素を再解釈する。そしてそこには270年の歴史で培ってきたヘリテージからの着想や技術を存分に注ぐ。手仕事による伝統工芸と現代的な装飾技法による仕上げを組み合わせた芸術表現は、まさにメティエ・ダール(芸術的な手仕事)と呼ぶにふさわしい。

芸術と時を結ぶタイムピース
ルーヴル美術館の展覧会で展示

ヴァシュロン・コンスタンタン,VACHERON CONSTANTIN

なお、置き時計の“ラ・ケットゥ・デュ・タン”は、ルーヴル美術館でお披露目された後、11月12日まで開催される展覧会「メカニック・ダール – 機械美の芸術(Mecaniques d’Art)」の中心的作品として展示される。展覧会ではパートナーシップのきっかけとなった「天地創造」をはじめ、同美術館の名作コレクションと並ぶことで互いに呼応し、時空を超越した芸術的工芸の価値を紡ぐ。それは、メゾンの価値観の基盤である文化への取り組みをより確固たるものにするとともに、文化的パートナーシップを通じて共有する、歴史的な技術や遺産の保護と伝統技術の継承への強い意思を知らしめるだろう。

ドームの天空図はメゾンが創業した1755年9月17日のジュネーブの夜空を再現し、天文学者の腕はリアルタイムの星の位置を指す。そして滑らかな動きで時刻を伝える指先は、過去から現在、そしてその先に広がる探求の未来を指し示すのである。

TEXT : MITSURU SHIBATA
問い合わせ先
ヴァシュロン・コンスタンタン
0120-63-1755