ファッション

270年にわたる「ヴァシュロン・コンスタンタン」の探求の旅へ

ヴァシュロン・コンスタンタン,VACHERON CONSTANTIN

「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」は、技術革新と美への探求、そして時代に寄り添うデザインを磨き続けてきたウォッチメゾンだ。複雑機構から装飾技法、アーカイブの継承に至るまで、そのすべてに揺るぎない誇りと信念を宿す。今年、270周年を迎えたメゾンの挑戦と進化の軌跡を、あらためて見つめたい。

いまもメゾンに貫かれる、
最善を尽くす誓い

スイス時計の名門「ヴァシュロン・コンスタンタン」は、今年創業270周年を迎えた。この間一度も途切れることなく時計製造を続けるジュネーブ最古のマニュファクチュール(自社一貫製造)を誇る。

1755年の創業からいまも変わることなく貫かれるのは探求の精神であり、その指針となったひとつの言葉がある。“Do better if possible, and that is always possible(できる限り最善を尽くす、そう試みることは少なくとも可能である)”。1819年に創業3代目にあたるジャック=バルテルミー・ヴァシュロン(Jacques-Barthelemy Vacheron)に、メゾン名にも並ぶ盟友フランソワ・コンスタンタン(Francois Constantin)が宛てた書簡に記された言葉で、今日のメゾンのモットーとなっている。

当時フランソワは、ヨーロッパ各地を市場開拓に回り、滞在先のイタリア、トリノから本国のジャック=バルテルミーに先の言葉を綴った。その旅はけっして容易ではなかっただろう。言葉は自身を鼓舞すると同時に、複雑時計の製作に挑んでいたジャックを激励し、勇気づけた。二人の友情と絆はより深まり、箴言はメゾンの精神として現在に至るまで受け継がれているのだ。

マルタ十字に込めた
気高さと勇気と誇り

「ヴァシュロン・コンスタンタン」のロゴマークを見れば、ひとつのエンブレムが掲げられていることに気付くだろう。4本の枝と8つの先端を特徴にするマルタ十字だ。モチーフになったのは、ゼンマイがほどける速度を一定に保ち、より正確な計時をするために香箱に取り付けられたムーブメントの部品で、その形状がまさにマルタ十字を連想させることから1880年にエンブレムとして正式採用された。しかし通じ合うのはフォルムだけではない。マルタ十字は長い歴史において培った気高さ、勇気、誇りを示す紋章であり、そこに熟練した職人技の気高さであり、どんな困難にも立ち向かう勇気や、優れた仕事を成し遂げる誇りを重ね合わせたのである。

こうして高い精度や複雑機構を極める一方、メゾンは伝統的な装飾技法を用いた美術工芸の美しさを追求した。とくにプラチナやゴールドに繊細な彫金を施し、優美なジェムセッティングで飾るレディースウォッチの歴史は古く、創業以来、創造性や技術とノウハウを生かし、数々の時計を発表してきた。スタイルも当初のブローチやペンダントからやがてブレスレットへと移り変わり、19世紀末には女性向けの多くの腕時計を発表した。それは、時代の変化を見据え、女性たちの社会的地位や躍動感あるライフスタイルに寄り添い、華やかな時代を謳歌する自由奔放な気持ちに応えたのだった。

20世紀に入ると、メゾンのモダニティへの取り組みはさらに加速した。その代表作が“アメリカン 1921”だ。狂騒の20年代が幕を開け、懐中時計から腕時計が普及しつつあったアメリカで発売された。クッション型ケースに文字盤を斜めに傾けるというユニークなスタイルは、クルマのハンドルを握った手首での視認性に優れ、先進的なドライバーズウォッチとしてモータリゼーションの訪れを象徴した。そこに込められた“classic with a twist(伝統的でありながら遊び心のある)”というエスプリは現在のメゾンにも通じる。

ヘリテージを継承し、
次世代に繋ぐ矜持

メゾンを語る上でもうひとつ欠かせないことがある。それはヘリテージの継承だ。社内には専門部署を設け、800種もの歴代の工作機械やツール類の管理から、技術や製造工程の資料、書簡や台帳など450万以上の膨大な文書を保管し、専任者が調査を進めている。またこれと並行して、所蔵するタイムピースを分析することで史料と実機の両面から貴重なアーカイブを検証するのだ。その近年の成果が前述した“アメリカン 1921”の復刻だ。

これは誕生100周年の記念プロジェクトとして策定され、1921年のオリジナルを忠実に再現した。それも機構やデザインのみならず、100年前の治具を使い、時計職人の手仕事までも復活させる壮大な試みだ。そのなかで蘇った装飾技法“コート・ユニーク”では、技術者は道具の習熟から始まり、技術の修得までに500時間以上を費やしたという。

なぜここまで時間や手間をかけ、過去の技術を継承するのか。それは、数世紀にわたって世に出した時計が変わらず動き続けるための、マニュファクチュールとしての責務であると同時に、歴史ある時計の技術や文化を次世代に繋げんとするメゾンの矜持に他ならない。加えて唯一無二のヘリテージを辿ることで、より豊かな発想や価値ある技術が生まれることも見逃せないだろう。

ミニマリズムの美学に
新たな個性を宿す

今年発表した周年記念モデルには、文字盤の左下方にメゾンを象徴するマルタ十字を刻み、そこから繊細なギョーシェを施した幾何学パターンが放射状に広がる。その陰影が、1950年代の薄型モデルをモチーフにミニマリズムの美学を極めた“パトリモニー”コレクションに、270周年を飾るにふさわしい個性を与えている。そして通常の時分針に加え、上下にレトログラード日付表示とムーンフェイズを備え、とくにレトログラード機構はメゾンが1940年から採用し、ここでも伝統の技術が息づくのである。

こうした270年に及ぶメゾンの魅力を探る体験型展覧会「The Quest(探求):270年にわたる卓越性への追求」が現在、東京・神宮前で開催中だ。いつの時代も最善を尽くし、これからも続くメゾンの探求の旅とその核心に触れる貴重な機会である。

INFORMATION
ヴァシュロン・コンスタンタン
「The Quest(探求): 270 年にわたる卓越性への追求」展

時間:11:00~19:00(最終入場18:30)
定休日:火曜日、水曜日
住所:東京都渋谷区神宮前5-11-1
入場料:無料 (予約来場優先、入場規制あり)
※展示内容は予告なしに変更されることがあります

TEXT : MITSURU SHIBATA
問い合わせ先
ヴァシュロン・コンスタンタン
0120-63-1755