ファッション

自由な発想から生まれたファッションブランド「ボーイ」が日本に本格進出 デザイナー・デュオが語るブランドの魅力と成功の秘訣

 2006年創業の「ボーイ(BOYY)」は、クリエイティブ・ディレクターのジェシー・ドーシー(Jesse Dorsey)とワナシリ・コングマン(Wannasiri Kongman)が立ち上げたファッションブランドだ。バッグをブランドの中心アイテムに置きつつ、シューズやアパレルなど、デザイナーの2人がその時々で「作りたい」と思ったアイテムを自由気ままに展開するスタイルをとっている。これまでミラノとバンコクの2拠点を中心にブランドを成長させてきた「ボーイ」が今春、日本に本格的に進出する。豊田貿易が輸入販売する。

流行に左右されない
「ボーイ」のバッグ

 ブランド名の「ボーイ」は、幼少期にいわゆる“トムボーイ(おてんば)”だったデザイナーのワナシリが“ボーイ”というニックネームで呼ばれていたことにちなんで名付けられた。その名の通り、「ボーイ」が展開するアイテムはクラシカルな要素を残しながらもマスキュリンなエッセンスを盛り込み、流行に左右されないデザインを追求している。ウィメンズのバッグには珍しく“カール”や“ボビー”といった男性名が付けられているのもこのためだ。

 クロエ・セヴィニー(Chloe Sevigny)をはじめとするセレブリティが愛用する「ボーイ」は、ブランド立ち上げから16年という長いキャリアを持つが、2023年春夏シーズンから豊田貿易とパートナーシップを結び、本格的に日本で展開する。中心価格帯は、アイコニックなビッグバックルをあしらった“ボビー”が税込9万9000~30万8000円、東南アジアのランチボックスをテイクアウトする際に使用する袋からインスピレーションを得た、持ち手の部分を外して交差させることで表情を変える“ワンタン”が同15万9500~26万9500円など。いずれも上質なレザーを使用し、高い収納力を誇るバッグがそろう。

成功の秘訣は「業界基準」ではなく
「自分基準」で考えること

WWD:クリエイティブ・ディレクターの2人は、異なるバックグラウンドの持ち主だが、ブランドはどのように誕生した?

ジェシー・ドーシー(以下、ジェシー):私はカナダ出身で22歳のときにニューヨークに来た。以降、ミュージシャン兼プロデューサーとして作曲やDJ、演奏など、さまざまなことをしながら音楽業界で生きてきた。

ワナシリ・コングマン(以下、ワナシリ):私はタイのバンコク出身。ジャーナリズムを専攻後、ファッションバイヤーなどを経てアメリカに来た。

ジェシー:そんな2人がニューヨークで出合い、ニューヨークの街を一緒に歩いていると、ハンドバッグに目がないワナシリは、目に付いたバッグについてよく話をしてくれた。それがとても面白かったし、彼女の影響を受け、私も歩いているときにバッグに目が行くようになった。そこである日「バッグを作ってみない?」とワナシリに聞いてみたんだ。それがブランド立ち上げの第一歩だった。

WWD:そこからどのようにビジネスとして確立していったのか。

ジェシー:当時は業界のことも、バッグ作りや素材の仕入れ先についても全く知らなかったが、直感的に「いいものをデザインできる」と思っていたんだ。「バッグについて話すのではなく、デザインしよう」と自分に言いきかせて、最初のプロトタイプを作るため、サンプリングや素材の調達先などの問題を解決した。その頃(90年代)のニューヨークは、ファッションと音楽やアートシーンはとても密接だったので、ミュージシャンとして生活していた時にファッションの人脈も作れていた。昔なじみに「Vマガジン」の共同創業者の一人がいたから、彼女のところに持ち込んだら気に入ってくれて、業界の人に連絡してくれた。そうしたら、「ニューヨーク・タイムズ」やバーニーズ ニューヨークのバイヤーの目に留まり、ブランドが少しずつビジネスとして回りはじめた。でも、初期に作った夏用のトートをバーニーズのバイヤーが気に入ってくれたからすぐ店頭に置いてくれると思ったのに、「今季の買い付けは半年前に終わっているよ」と言われたことがあるくらい、本当に当時は何も知らなかったんだ(笑)。

WWD:2人の業務分担は?

ワナシリ:デザインも経営も、全てを2人で決めている。それはブランド当初から変わらないこと。最近、私はマーケティングやコミュニケーションの部分に注力していて、もうすぐECサイトもリニューアルオープンする。

ジェシー:デザインはその時々で、片方の意見が強く反映されることはある。それでも必ず全てについて2人で相互確認を行う。このプロセスは大変だけど、それが良いものを生み出すための秘訣だと思っている。

WWD:ブランドを運営する上で大切にしていることは?

ジェシー:「自分たちがいいと思ったものしか作らない」ということを大切にしている。昔は一般的なブランドと同じように6カ月ごとに新作を出すこともしていたけど、もともとファッションカレンダーの奴隷になりたくないと思っていたし、バンコクに出した40平方メートルの店舗の1カ月の売り上げがニューヨークのショールームの1シーズンのそれに匹敵するようになったときから、ファッションカレンダーにとらわれなくていいんだと実感し、自分たちのルールでやれるという自信になった。

ワナシリ:「自分たちのブランドのことは自分たちで決めたい」という考えが全ての基本。例えば価格帯一つとっても、業界基準で決めようとすると、ブランドを始めたばかりのころは「この場所に置きたければ価格を今の倍にしなければいけない」と言われたこともあったけれど、その時の私たちはファッションビジネスの初心者だったし、業界基準に合わせて無理やり価格を上げることはしたくなかった。

ジェシー:昔気質かもしれないけど、ラグジュアリーとは自分たちで名乗るものではなく、周りから認められて初めてラグジュアリーブランドになれるものだと思っている。同時に、ブランドには最高級の素材を使いたいと考えているから、イタリアに飛んで革を調達したり、自分の目で見て良いと思った工場と関係を築いたりしていくなど、モノづくりに対する思いはすごく強い。

WWD:デザインにおけるこだわりは?

ジェシー:トレンドは追わず、自分たちのひらめきや感覚を大切にしている。誰かに言われて新しいものを出すことはないし、「やるべき」という感覚が湧いてこなければ絶対にやらない。その代わり、「本当にこれだ」と思ったらとことん追求する。

ワナシリ:23年秋冬には私たちが“インデックスコレクション(Index Collection)と呼ぶコレクションの第2弾を発表する。これは、自分たちのルーツに立ちかえり、気の向くままに実験することをテーマにしたコレクションだ。「ブランド全体とのバランス」みたいなことは考えずに、浮かび上がってきたアイデアを具現化する、クリエイティビティーに重きを置いたコレクションだ。バッグだけでなくシューズやアパレルなども含み、このような実験的な試みを行うことでブランドは進化していく。

WWD:日本への本格展開は今回が初だ。

ジェシー:日本への進出は、良い機会に恵まれたから挑戦したいと思った。

ワナシリ:日本はヨーロッパと違って小さいブランドがたくさん出店しているから、その観点からも、「ボーイ」にも日本で成功するチャンスはあると思う。

WWD:今後の目標は?

ジェシー:卸ではブランドの世界観を正しく伝えることが難しいから、小売りを重視している。世界中に出店したいと考えているし、展開するアイテムの幅も広げていきたい。だが、いずれも急速に大きくするわけではなく、少しずつ実験しながら、あくまで私たちのペースで前に進んでいきたい。日本では23年春夏シーズンはポップアップイベントを各地で開催していく。こうした積み重ねが将来的に日本での出店につながるといいなと思っている。

2023年クルーズコレクションは
素材やカラー、形で遊ぶ

 「ボーイ」の2023年クルーズコレクションは、バブルガムを連想させるピンクやビビッドなオレンジ、エメラルドグリーンといったポップなカラーを定番スタイルに採用した。また、定番アイテムにラフィアを使用したり、波状に変形させたりすることで、質感やシルエットにアクセントを加えたラインアップになっている。

 価格帯はラフィアを使用したミニバッグが税込9万9000円、ビッグバックルの“ボビー”シリーズが同13万2000~26万9500円など。3月から各地で開催するポップアップイベントでも販売する。

INFORMATION
「ボーイ」ポップアップイベント

3月29日~4月4日
銀座三越 1階 GINZAステージ
4月1日~8月27日
渋谷PARCO 1階 ポップアップスペース
5月17~23日
阪急うめだ本店 本館1階 プロモーションスペース12

INTERVIEW & TEXT:YU HIRAKAWA
問い合わせ先
トヨダトレーディング プレスルーム
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