ファッション

未知なる国ジョージアで知ったファッションと歴史の関係性 現地の3店舗を紹介

 「ジョージアとは、どんな国?」そう聞かれても、明確に説明できる人は少ないだろう。東ヨーロッパまたは西アジアに区分され、黒海とカスピ海に挟まれているジョージアは、日本の5分の1に相当する国土約7万平方キロメートルの小さな国だ。2015年4月には、ロシア語の”グルジア”から英語の”ジョージア”へと国家名称を変更しており、その背景には、ロシアとの国交断絶が関係していると言われている。首都トビリシには、ソビエト連邦の崩壊から30年以上経った今でも当時の面影を色濃く残す建築が多数残されているが、近年急速に進むジェントリフィケーション(地域における居住者の階層の上位化とともに居住空間の質の向上が進行する現象)によって変貌を遂げつつある。古い建物は解体され、主な収入源とされる観光業により一層力を入れ、富裕層をターゲットとしたラグジュアリーホテルの建設が後を絶たない。

 ファッションにおいても、近年目覚ましい活躍をよく目にする。「ヴェトモン(VETEMENTS)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」を手掛け、ファッション界の革命児と呼ばれるデムナ(Demna)とグラム・ヴァザリア(Guram Gvasalia)兄弟を輩出した国と聞けば、納得する人も多いだろう。2015年から開催されている「メルセデス・ベンツ・ファッション・ウィーク・トビリシ(Mercedes-Benz Fashion Week Tbilisi)」においても、「アヌーキ(ANOUKI)」をはじめとする新進気鋭のデザイナーが多数登場している。

 そんなジョージアのファッションシーンを「イエリ・ストア(IERI STORE)」「バザー(BAZZAAR)」「フライング・ペインター(FLYING PAINTER)」の3店舗を通して紹介したい。

 富裕層が住むエリアとしても知られ、話題のホテル、カフェ、レストラン、バー、ショップなどが集中しているホット スポット、ヴァケ地区に店を構えるのが「イエリ・ストア(IERI STORE)」だ。同店は、ジョージア出身のデザイナーやアーティストの作品を主に扱うコンセプトショップとして、2019年5月にオープン。広大な敷地面積を誇る老舗のワイナリーを改装したビルの一角に位置し、「イエリ・ストア」以外は全て飲食店という立地もユニーク。

バイイングを手掛けるのは、クリエイティブディレクターのアンカ・ツィツィシュヴィリ。取り扱いのある約30のブランドは、国のアイデンティティや文化遺産に基づいてセレクトしているとのこと。ジョージア人デザイナーやアーティストの作品を一ヶ所に集めて見せることにより、単なるコンセプトショップではなく、ジョージアという国の文化や歴史をリアルに感じることができる「インスピレーションスポット」と呼べる空間作りを目指しているという。

 レディースブランドながらマニッシュなデザインが印象的なジョージア人クリエイティブディレクターのタムナ・インゴロクヴァが手掛ける「INGOROKVA(インゴロクヴァ)」。デニムラインは、丹念にブリーチが施されたライトブルーとオフホワイトをメインカラーに、ジャケット、ハイウエストのルーズシルエット、カットオフと豊富に取り揃えている。

ジョージア出身のデザイナー、ニノ・エリアヴァとアニ・モキアの2人が手掛けるバッグブランド「0711」。ラフィア素 材で編んだ巾着型のバッグのフロントには大きなビニールポンポンが施され、愛らしいデザインに。「0711」の バッグは、職人によってひとつひとつ手作業で作られている。

 国立美術館やコンテンポラリーギャラリー、ショッピングモールなどが位置し、観光スポットとしても賑わう大通りから一本中に入った閑静な路地裏に店を構えるのが「バザー(BAZZAAR)」だ。近隣を散策している時に、偶然 ショーウィンドウに飾られたアンティークのセリーヌの靴に目が止まった。

 同店は、2022年3月にオープンしたばかりのヴィンテージショップで、実店舗を構える以前はオンラインのみで販売を行っていた。50年代〜90年代のヨーロッパヴィンテージを中心に、カラフルなアロハシャツやグラフィカルでレトロなサマードレス、スポーティーなナイロンブルゾン、リーバイスのヴィンテージジーンズなどが並ぶ。

 特筆すべきは、その価格設定にある。トビリシにはヴィンテージショップが多数点在するが、海外からの観光客をダーゲットにした店舗が多く、筆者の住むベルリンとあまり大差のない価格設定となっており、物価の安いジョージアであってもあまりお得感がない。しかし、「バザー」においては、観光スポットから程近いにも関わらず、シャツやスカートが30ラリ(約1,300円)〜、ドレスが40ラリ(約1,700円)〜と良心的。値下げされていた半袖のパジャマシャツを25ラリ(約1,000円)で、ジャンプスーツを55ラリ(約2400円)で購入することが出来た。

トビリシには、街の至るところに雑多な衣料品店が立ち並び、一種の景観となっている。衣料品店と言っても掘 立小屋のような質素な造りに、店先には大量の衣類が吊り下げられ、100円ぐらいで購入できるものもある。新 品の中に古着もあり、本物なのか不明なスポーツブランドも入り混じっている。中を覗けば接客する気のない店 主が気怠そうに座っている。トレンドやファッション性を重視した前述のヴィンテージショップとは比較対象にはな らないが、月の平均収入が3、4万円と言われる地元住人にとっては、生活の一部であり、必要不可欠な存在な のだろう。

 コワーキングスペーススペースやギャラリー、レストラン、バーなどが併設されている話題のホステル「ファブリカ(Fabrika)」と同じ敷地内に店を構えるのが「フライング・ペインター(Flying Painter)」だ。同店は、2016年にジョージア人アーティスト3名による共同プロジェクトとして設立された。撮影スタジオのような無機質で広々した店内には、大きなドットのグラフィックパターンのレインコート、レトロな柄のボンバージャケット、ワークウェアを意識したバイカラーのジャンプスーツ、大胆にカッティングされたシャツなどが並ぶ。アイテムは全てユニセックス対応となっており、身体のラインを強調しないルーズなシルエットにタイムレスなデザインを特徴としている。

 一見、カラフルで前衛的なデザインのブランドという印象だが、「フライング・ペインター」のコンセプトにはジョージアの歴史が深く刻まれている。中でも"Global Warming"と名付けられたラインでは、美しいベルベット素材のジャケットを多数展開しているが、実はソビエト時代のニキータ・フルシチョフ政権下を皮肉っている。1960年代に大量に建設された最もグレードの低い集合住宅のことを「フルシチョフカ」と呼び、各部屋に必ず敷かれていたという鹿の絨毯からインスパイアされている。庶民の質素な暮らしとは180度違い、貴族のように着飾った当時の政治家の姿が描かれている。

 ジョージアでは、歴史的背景をコンセプトに取り入れたブランドが非常に多く、そこにはソビエト時代を払拭したいという思いと決して忘れてはいけないという相反する思いが込められているのかもしれないと感じた。利用客のほとんどがラップトップを持参し、スタイリッシュで居心地の良い「ファブリカ」は、ソビエト時代の縫製工場をリノベーションした建物であるという点は皮肉なのか、希望ある未来の姿なのか?

 数年単位で急速に変貌を遂げているジョージアのカルチャーに今後も注目していきたい。

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