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老舗「コールマン」の日本トップが語る「これからのアウトドアブランド」

 「コールマン(COLEMAN)」は、1900年にウィリアム・コフィン・コールマンが米国で創業し、昨年120周年を迎えた老舗キャンプブランドだ。テントや折り畳みチェア、ツーバーナーのコンロなどに加え、フェス会場などでもよく見かける荷物や子どもを乗せたアウトドアワゴンは日本で累計販売数80万台以上というヒット商品に。ガソリン式ランプの販売が祖業であり、その現代版ともいえるLEDランタンも人気定番アイテムだ。

 日本ではコールマン ジャパンを1976年に設立。気候や体型、使用シーンなどローカル特性に合わせて、徐々に日本向けに企画・生産した商品を拡充し、現在は全体の8割を占めるほどになっている。販路はキャンプや登山などのアウトドア専門店やスポーツ量販店、ホームセンターなどの卸売りと、昭島店(東京都)を旗艦店とした直営店(12店舗)だ。

 ここにきて、廃棄物に新しい命を吹き込むことをコンセプトにした新プロジェクト「MFYR(エムエフワイアール)」をスタート。Movement For Your Rightの頭文字をとったもの。アジアパシフィック・リージョンの社長も務める中里豊コールマン ジャパン社長は、「キャンプやアウトドアを愛する人々に、サステナブルな思想をムーブメントとして巻き起こしたい」と語る。直線的なモノの消費から、循環型の社会を目指す新たな一歩として、自社製品の廃棄削減に取り組んでいく。

 立ち上げを支えた1人は、今年コールマンに参画した松岡善之クリエイティブ・アドバイザーだ。北軽井沢のキャンプ場スウィートグラスをはじめとしたアウトドアフィールドのランドスケープや企画・デザインを多く手がけ、アパレルのクリエイションなども手がける人物だ。もう一人が、元「アナザーエディション」ディレクターで、現在は「スタイルウォーズ トウキョウ(Style Wars Tokyo)」を手がける森由美デザイナーだ。2009年から手がけるアウトドアブランド「モンロ(Monro)」を通じて、コールマンの“インディゴレーベル(INDIGO LABEL)”のアイテムをクリエイティブ・プロデュースしたりもしてきた人物だ。

廃棄予定のテントやタープを再利用したバッグを販売

 今回、「MFYR」のプロジェクト始動時に使用したのは、サンプルややむなく廃棄される予定だったテントやタープの生地だ。アウトドアの環境下で耐えられる丈夫さと、意外なほどのしなやかさを生かしながら、日常使いできるバッグへと生まれ変わった。ボディはもちろん、持ち手やショルダー、メッシュパネルなどの部分もできるだけテントのパーツからピックアップ。集まってきたバラバラの廃棄テントの状態をデザイナーの森さん自身が見極め、デザイン性の高さと無駄のない生地取りを実現するために1点ずつ粗裁ちし、国内工場で縫製するなど、こだわりも強い。

 第1弾として6月10日から販売するのは、トート(4500円)、サコッシュ(4200円)、バケツトート(5300円)の3種。コールマンのオンラインショップと昭島店で販売する。5月に渋谷のトランクホテルで発表会を行い、6月1日からは特設ページも公開してきたこともあってか、トートバッグは発売開始15分で売り切れるなど、注目度の高さがうかがわれる。

 「コールマン」は日本で、簡易型から本格派まで、年間3000~4000張のテントを販売している。次のステップでは、直営店や卸先の協力を得て、お客から不要になったテントなどを回収していく仕組みの構築を目指す。廃テントを回収し、修理可能なものは再生してアウトレットショップで再販。使用可能なパーツ類はリペアパーツとして活用する。それ以外の部分は、素材リサイクルとサーマルリサイクルをしている産廃処理プラントへ送る、という仕分け作業が発生する。その際に、「MFYR」向けの素材をピックアップし、リメイクやアップサイクルをすることになる。製造ラインはプロパー品同様のステップと管理体制で行う。第三者機関評価、検品など、品質管理チームの管理下で製造を行うなど、品質の維持には妥協しない考えだ。「『MFYR』の取り組みは、ユーザーの賛同なくして成立しない。信頼を寄せるクリエイターやデザイナーなどとも協力しながら形を具現化し、コンセプトや製品ごとのストーリーを共有することで、共創していきたい」と中里社長。
 
 5月中旬に渋谷のトランクホテルで商品発表会を開催した際には、森デザイナーが廃棄テントや寝袋などから作り上げた一点モノの服も参考商品として展示したところ、メディアやバイヤーなどからの評判も良かった。今後はオーダーメイドでの受注生産なども検討していくことになりそうだ。

ロングライフと、子どもたちのキャンプ支援がサステナビリティの2本柱

  「コールマン」のサステナビリティ戦略は、 “ロングライフ製品”と“未来を担う子どもたちへ”の2つだ。“ロングライフ製品”では、「性能やデザインがともに良くて、長く使えて、使い込むほどに愛着が湧く製品を目指している」。調理用コンロやテント、クーラーボックス、ツーバーナーグリル、ランタンなど多くの商品がグッドデザイン賞の「ロングライフデザイン賞」を受賞。アウトドアワゴンや、ターフドームテントは「ペアレンティングアワード」にも選ばれている。

 長く使うための「修理・再生」のカギを握るのは、一つは流山プロダクトセンター(千葉県流山市)だ。全国から修理依頼品があつまるこのセンターには、修理に必要なほぼすべてのパーツをそろえている。廃番になってからも3年間パーツを持ち続けることも約束している。 「もう一つ、大切にしているのは、お客さまご自身でメンテナンスや修理ができるようにサポートすることだ」。YouTubeや講習会、ワークショップなどを通じてハウツーを紹介。「モノを大切にして長く使っていただけるように、プロダクトライフサイクルを長くしていくことを訴求していく。サステナビリティの一環でもあるが、モノや『コールマン』への愛着を強めてもらいたいという思いが強い」と中里社長。

 2本目の柱である“未来を担う子どもたちへ”では、未来のグッドキャンパーを育む自然体験をサポート。アウトドアライフの楽しさを子どもたちに教育・啓蒙。野外活動を積極的にサポートしている。キャンプをはじめたいファミリーへのキャンプ教室「コールマン キャンプカレッジ®」や、知的・発達障害を持つ子ども達のためのサーフィンスクール、YMCA障害児プログラムへのサポート、東日本大震災で被災した福島県の子どもたちに向けたキャンプイベントなども実施。2020年からは、野外活動を通じて未来のリーダーを育てる「キャンプ塾」、発達障害を持つ子どもたちへの自然体験プログラム「自然塾」の活動も支援。シングルマザーやシングルファザーのキャンプサポートなども行っている。

コロナ禍でアウトドア人気が加速、ユーザー層の拡大が特徴

コロナ禍によってアウトドアやキャンプの人気が高まっているが、中里社長はこの動きをどう見ているのか?

「第一次キャンプブームは1990年代後半で、RV車(レクリエーションヴィーグル)がはやり、ファミリーのレジャーの典型となった。今回は第二次成長期。デジタル化などの反動もあり、2015年ごろからじわじわとアウトドアや自然が見直されてきた。今回の特徴は、客層が多様性に富んでいること、シングルもグループも、カップルも子連れのファミリーも、老若男女、幅が広い。今回のコロナ禍でアウトドアが再度見直され、ニューノーマルの過ごし方の一つとして定着した。単なるブームではない」と捉えている。

 嬉しい反面、マナーやルールがわからずに、図らずも環境破壊や他者に迷惑をかけてしまう人がいるのも事実だ。そこで、「人と自然に優しいキャンプ体験を。『グッドキャンパーの心得』」をつづった啓蒙チラシやポスターを制作して配布したところ、初心者や子ども連れ、キャンプ場オーナーなどからも喜ばれているという。

 「気候変動対策が世界的な課題になる中で、アウトドア好きとして、そして、アウトドア産業に携わる人間として、20年後も30年後もお子さんたちがキャンプができる環境を残したい。『MFYR』もその一助として、無駄をなくして地球を大切にしたいと考えて行動を起こしたもの。『コールマン』はファッションやデザインとは縁遠い、どちらかというとシャイで武骨なブランドだ。勉強しながら、共感していただける人々の力を借りながら取り組みを進めていきたい」。

松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)

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