ファッション

たった1人のミラノ・メンズ取材 「プラダ」に感動し静かな街で文化施設探訪

 1月15〜19日に、2021-22年秋冬シーズンのミラノ・メンズ・ファッション・ウイークが開催されました。リアルのショーを予定していた「エトロ(ETRO)」「フェンディ(FENDI)」は直前でデジタルのみの発表に切り替えたため、今シーズンは完全デジタルでのファッション・ウイークとなりました。パリからミラノに渡航した私が取材できたのは結局「プラダ(PRADA)」の展示会のみでしたが、結果的には行く価値があったと大満足しています。

「プラダ」会場はほぼ貸し切り状態

 その理由の一つは、素晴らしい「プラダ」のコレクションをいち早く生で見られたこと。昨年9月に披露したウィメンズよりもミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)のバランスが良くてしびれました。「プラダ」などビッグメゾンの展示会は来場者でごった返すのが普通なのに、私が訪れたタイミングで展示会場にいたプレス関係者はなんと1人だけ。おかげでゆっくり写真を撮ることができ、レポート記事はほぼ独占で公開できました。

 展示会場はショーの撮影が行われたセットの中だったため、映像で観ていたフワフワフェイクファーの壁や床、高い天井の空間の中を体感できました。会場で生地に触れ、担当者からコレクションの詳細を聞き、(ミウッチャとラフが最も表現したかったことは何だろう)と想像を巡らせていると時間はあっという間に過ぎました。デジタルにはデジタルの良さがあるとしても、実際に足を運んで得られるリアルな体験に勝ることはありません。理屈では説明できない感覚が心に働きかけてくるからです。

ミラノの街はガラガラ

 「プラダ」で素晴らしい体験はしたものの、ミラノの街は寂しかった。生活必需品を扱うスーパーや薬局などを除いてほとんどの小売店は閉店し、レストランもデリバリーのみ。多くの人でにぎわうドゥオーモやスカラ座周辺も人がほとんどいません。ミラノ在住者によると、美容室も生活必需とみなされ営業許可が出ていたようです。私が住むフランスは本屋の営業が認められており、何を生活必需品としてみなすかでお国柄が出ているように思いました。

 コロナ禍で対人を避けたいという消費者の需要に応えるため、イタリア全土で展開する大手スーパー「エッセルンガ(Esselunga)」は無人レジの導入を試験的に開始しました。店内は生鮮食品や生活用品を扱う普通のスーパーで、バーコードを機械に読み取らせて支払う仕組みになっており、従業員との接触が一切ありません。日本でも徐々に導入されていますが、もともとは人件費削減の目的で誕生した無人レジ。今後はウイルス感染予防対策としてニューノーマルの生活で当たり前になっていくのかもしれません。

アート好き必見エリアを散策

 パンデミックの影響があるとはいえ、住む人がいる限り街は変化し続けるもの。特に、世界最大級のデザインの祭典「ミラノサローネ(MILANO SALONE)」の開催地として知られるトルトーナ地区は、再開発エリアとしてここ数年発展し続けています。1990年代には、ミラノ市が工場跡地だった同エリアを文化目的で再開発する案を発表し、現在「モンクレール(MONCLER)」「フェンディ(FENDI)」「ジョルジオ・アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」などのオフィスも近隣に集まります。ミラノ・メンズが通常開催されていた頃はこの付近で数多くのショーが行われていたものの、なかなかゆっくり見る機会がなかったので今回は散策してみました。

 2015年にはこのエリアに大規模なミラノ文化博物館(Museo delle Culture)が開業。展示室のほかに、世界の文化に関する学術的な研究を行うセクターも設けています。そしてすぐ隣に、芸術と文化の発展を目的として複合施設「ベース(Base)」が18年にオープンしました。製鉄所を改修した6000平方メートルの敷地には、ギャラリーやワークショップなどが行えるイベントスペースのほか、コワーキングカフェやゲストハウスもあります。「ミラノサローネ」開催地ということで、会期中はアーティスト向けにゲストハウスとしても提供しています。

 「ベース」に続き、翌年には複合施設「コンボ(Combo)」も同エリアに開業。1600年代に主流だった、中庭を囲ってコの字型に建てられた鉄の欄干アパート“カーザ・ディ・リンギエーラ”を改修して、ゲストハウスやギャラリー、レストラン、ラジオ局を併設しています。「ベース」同様、「ミラノサローネ」会期中は主にアーティストが宿泊しており、世界中から訪れる人たちの展覧会を定期的に行っています。ミラノの定宿が営業していなかったので、私は今回「コンボ」に滞在しました。ゲストハウスといっても部屋にはシングルベッド2つとユニットバスがあり、ベッドメイキングのサービスがない以外は至って普通のビジネスホテル感覚で快適。ゲストハウス以外のサービスは停止しているため、文化的ハブとして誕生したこの施設の醍醐味を感じることはできませんでしたが……。受付の方に聞くと、2019年9月のオープン当初は、地元客にコワーキングスペースが大人気だったそうです。「フリーランスのクリエイターがそれほど多くないミラノだけれど、パソコン一台でどこでも仕事できる職種が増えているんだなと実感した」とのこと。パンデミックによってイタリアでもテレワークが普及したため、コロナ終息後にはより多くの人がこのエリアに集まって新たな文化が生まれることを期待しています。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける