サステナビリティ

「パタゴニア」「H&M」が注目するスタートアップ、コットン古着でリサイクル繊維を実現

 フィンランド発のスタートアップ企業インフィニテッド ファイバー(INFINITED FIBER)は廃棄衣料や段ボール、稲や小麦のわらからコットンに近いセルロース繊維「インフィナ(Infinna)」を製造する技術を開発した。同社の技術は100%廃棄衣料を原料にしても新品のような品質を提供でき、綿やビスコースと比べて優れた染色性などを持つという。すでに「パタゴニア(PATAGONIA)」や「H&M」とも協働して試作品を製作したり、パートナー企業と工場を建設したりと、量産に向けた準備が着々と進む。これまで欧州委員会やフィンランド政府など公的資金を中心に660万ユーロ(約8億3000万円)を調達。今後は、さらに各地域のテキスタイルメーカーと組んで事業拡大を狙う。ペトリ・アラヴァ(Petri Alava)共同創業者兼最高経営責任者にオンラインインタビューを行った。

WWD:古着からセルロース繊維が作れるとか。

ペトリ・アラヴァ共同創業者兼最高経営責任者(以下、アラヴァ):私たちが開発した技術は、さまざまな原料からセルロース繊維「インフィナ」を生産できる。古着、廃棄段ボール、稲や小麦のわらなどから生産可能だ。現在は古着を原料に、ポリエルテルやスパンデックスなどを分離してセルロースを取り出して生産している。われわれの技術で製造するのは“セルロースカルバメート”で、人工繊維としては珍しく手触りや見た目はコットンに近くナチュラルだ。また、ビスコースやコットンに比べて染色しやすい点も特徴だ。

WWD:特に廃棄衣料を原料にすることに重きを置いているとか。

アラヴァ:われわれは、埋め立てたり焼却されたりしている繊維廃棄物に対して、価値のある循環型経済のソリューションを提供することができる。当社の技術は天然資源への圧迫を軽減することができる。もちろん、将来的にはわらや段ボールなどを原料に使用する可能性もある。

WWD:“セルロースカルバメート”は技術開発が進んでいるものの、さまざまな理由から量産化に至っていないと聞いたことがある。

アラヴァ:当社の技術の起源であるVTT(フィンランド技術研究センター)は何年もの歳月をかけて技術を磨き上げ完成させた。現在の技術にたどり着くまでにたくさんの研究開発作業とパイロットテストを行った。当社はまだパイロットスケールだが、商業生産にスケールアップする準備ができている。

WWD:強度も含めて、どれぐらいのクオリティーなのか?

アラヴァ:コットン古着から再生する場合、これまでの技術では繊維が10%程度減ってしまうので、品質が低下してピリングの問題が起こりやすかった。しかし、われわれは新品のような品質が提供できる。これまでとは異なる技術アプローチなので、リヨセルやテンセル、ビスコース繊維のテクノロジーとは違う。

WWD:ではレンチング・グループ(LENZING GROUP)や米国のエヴァニュー(EVRNU)、そして同じフィンランドVTT出身のスピノバ(SPINNOVA)とは違う技術ということ?

アラヴァ:そうだ。使用する技術も薬品も異なるので、できる繊維もかなり違う。競合他社の技術は明確には分からないが、レンチング・グループはリヨセルテクノロジーで、作られる繊維は全く異なる。スピノバの詳細情報を持っていないが、木材の機械処理に基づいていて、彼らの技術革新は原料の処理方法だけでなく、そのプロセスで生成される繊維の面でも異なる。

当社の技術は、セルロースを含む繊維廃棄物(ポリエステルやナイロン、エラスタンなどの物質を含む)をケミカルリサイクルして、カルバミン酸セルロースを粉末状に再生し、その後いろいろな用途で使用できる高品質なカルバミン酸セルロース繊維に生まれ変わらせることができる。また、繊維は非常に汎用性が高く、糸や織物の製造工程で優れた効果を発揮する。デニムから、シングルジャージー、フレンチテリー、シャーリング生地などファッション用途から不織布まで幅広く繊維を製造することができる。

WWD:特にどういった衣類に最適なのか?

アラヴァ:デニムが最も適している。プロトタイプで作ったデニムは、一般的なデニムと全く変わらないものができた。われわれの技術は安定性があると信じている。消費者が使用した後の衣類(ポストコンシューマー)を100%用いても質の高い素材を作ることに成功している。他社にはまだできていない技術だ。エラスタンを含む素材を分離することに問題があるようだ。

WWD:価格はどうなる?

アラヴァ:将来的には綿に対しても価格競争力のあるものにしたいと考えている。また現在、消費者がリサイクル素材や循環型のビジネスモデルに付加価値を見いすようになってきている。特に欧州で顕著で、米国でも広がりを見せている。つまり消費者は、安いかどうかではなく、企業がどのようにサステナビリティに取り組んでいるかなどに価値を置くようになっている。非常に励まされることだ。

WWD:使用する薬品はどういうものを使っているのか。

アラヴァ:薬品というと聞こえが悪く、私は当初ショックを受けた――だからこそ、われわれはクリーンな薬品を使っている。われわれが用いるのは、動物飼料グレードの尿素で、完全にリサイクルしている。LCA(ライフサイクルアセスメント)の評価も他の薬品に比べて高い。例えばビスコースは主に二硫化炭素が用いられているが、毒性が強く、吸い込むと脳に悪影響を及ぼす。

目指すは地産地消のモノ作り

WWD:現在の生産量と今後の計画は?

アラヴァ:フィンランドにパイロット工場が2つあり、今はプレコマーシャルの状態だ。生産量は年間150トンなので、この工場では商業生産はできないが、この工場には2つの目的がある。1つ目はテキスタイル業界に、この技術のスケールアップが可能であると示すこと。われわれはその準備ができている。2つ目は、ファッションブランドとのコラボレーションのため。すでにパタゴニアやPVH、H&Mと取り組み、彼らのサプライチェーンで試してデニムやTシャツ、セーターなどを商業的に生産できるかを検証している。そして、次のステップは、業界でのパートナーを作ることだ。日本はテキスタイル業界のリーダーの一つだから、とても興味がある市場だ。

WWD:今後は繊維メーカーなどと協業して事業を拡大する計画ということ?

アラヴァ:そうだ。われわれのビジネスの本質にあるのはコラボレーションだ。われわれはテクノロジーオタクであり、また、世界規模のメーカーになりたいと考えている。そのため、商業規模の工場をいくつか建て始めている。テクノロジーの規模がより大きくなってきている自信はある。

WWD: 各国にパートナーシップを持つのが次の段階?

アラヴァ:われわれは環境への負荷を低く抑えるためにできるだけ輸送を避けたいと考えている。そのため、その土地での原料調達を目指している。有望な顧客候補が2社アジア市場にあり、規模拡大に取り組んでいる。ヨーロッパにも2社ある。

WWD:服をリサイクルして新たな服を作ることがメインになるのか?

アラヴァ:何を原料にしても結果は全く同じだ。私たちの技術は、何を原料にしようが関係なく、ポイントはその地域で何が入手可能かということ。古着の収集方法は各国で異なる。ニューヨークでは改善されてきているし、EUでは廃棄テキスタイルを分別して収集している。段ボールにも興味をそそられる。オンラインショッピングが拡大していて、廃棄段ボールの量も増えている。要は、原料のコストや何が入手可能かということ。原料がなんであれ、常に同じ繊維を作ることができる。

WWD:さまざまな業界を見てきたあなたにとって、ファッションやテキスタイル業界はどう映る?

アラヴァ:われわれは、ファッションやテキスタイル業界を導く立場にはないが、われわれが確実にポジティブな傾向だと思うのは、ファストファッションでさえも、新しい素材を探している点だ。テキスタイル業界が母なる地球に与える影響が大きいのは原材料生産を見れば明らか。過去20年間、繊維はポリエステルが主流だったが、ポリエステル製の服は洗濯時にマイクロファイバーが海に流れ出て、最終的には食品に入り込む。綿花栽培も美しく見栄えはいいが、残念なことにサステナブルとは程遠いといえるだろう。綿はとても乾燥しやすく、さまざまな種類があるが、1キロの綿を育てるのに、1~2万リットルの淡水が必要だと言われているから。そういった綿花栽培の地域では、すでに20億人もの人が水不足に苦しんでいる。綿花畑は食料生産のために使われるべきだ。また、ブランドは以前にも増して、生分解性のある素材を使おうとしているのが見てとれる。

テキスタイル業界は遅れを取っているビジネスモデルだと言えるだろう。廃棄テキスタイルのほとんどは焼却されるか埋め立てられ、リサイクルされて新しいテキスタイルに生まれ変わるのはわずか1%。原料になり得るテキスタイルを焼却するのを避け、資源として再利用することは本当に大切なことだと思う。

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