ファッション

コペンハーゲンが示したファッション・ウイークの新たな可能性 世界に先駆けリアル&デジタルで開催

 北欧最大のファッション・ウィークとして知られるコペンハーゲン・ファッション・ウイーク(以下、CFW)が8月10〜12日に開催された。新型コロナウイルスの感染拡大により各都市のファッション・ウイークがリアルでの開催を断念する中、CFWは7月上旬にフィジカルとデジタルの両方での開催を発表。デンマークは欧州の中でも早くから国境を閉鎖し、在宅勤務に加えて商業施設や飲食店の閉鎖などを実施した。現在は欧州の他国に比べて厳しい外出制限はなく、筆者が住むフランスからデンマークへの入国が可能になったため、今季のCFWに参加することができた。

デジタル、フィジカル、
ハイブリッドの3種

 今季は3日間のスケジュールにデンマークを中心とする北欧の32ブランドが参加した。毎シーズン注目度の高いセシル・バンセン(Cecilie Bahnsen)は第1子出産を終えたばかりのため不参加だったが、イギリス発の「リクソー(RIXO)」が初参加したほか、「ガニー(GANNI)」「バイ マレーヌ ビルガー(BY MALENE BIRGER)」「マリメッコ(MARIMEKKO)」などの常連組はいつも通りに名を連ねた。発表形式はデジタル、フィジカル、ハイブリッドの3種類に分けられ、デジタルで参加した11ブランドは専用のオンラインプラットフォーム「cphfw72h」で2分前後のイメージ映像を公開した。映像の後には各都市のジャーナリストがホストを務めてデザイナーへのQ&Aライブや業界人のトークショーが配信されたが、特に目新しい試みは見られなかった。

実際のショーは6ブランドのみ

 フィジカルの形式でショーやプレゼンテーションを行ったのは6ブランド。予算削減とサステナビリティの観点からか、リアルの招待状を用意したのは「バウム ウンド ヘルガーテン(BAUM UND PFERDGARTEN)」のみだった。廃棄生地を使ったコレクションを制作する「デザイナーズ リミックス(DESIGNER REMIX)」は、かつて映画館だった照明工場兼ショールームでプレゼンテーションとランウエイ形式でコレクションを披露した。今季はアップサイクルの考えをさらに押し進め、使用した生地のほとんどはカーテンやベッドシーツなどの古布だった。地下のスペースでは、ミシンや手縫いで衣服を作るコレクションの制作背景が再現された。今シーズン最も話題となったのは、アートや映像、音楽との融合で表現する「ヘンリック ヴィブスコフ(HENRIK VIBSKOV)」だろう。会場の庭園内には、遊具のような乗り物に人形のようなパフォーマーが乗り込んでゆりかごのようにゆらゆらと揺らし、その前をモデルが闊歩した。大掛かりなセットで空想的な世界観をつくり出し、今季のCFWを締めくくるショーにふさわしい内容だった。

“ハイブリッド”はやや拍子抜け

 “ハイブリッド”はデジタルとフィジカルを組み合わせた内容だ。「ガニー」はコレクションを着用したモデルの全身パネルを飾り、別のスペースでは大きなスクリーンにイメージ映像を流した。世界的に急成長している注目ブランドなだけに、今季の見せ方はやや拍子抜けのように感じてしまった。2020年度の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のセミファイナリストにも選出された「ヘルムシュテット(HELMSTEDT)」は、中心街の路上でプレゼンテーションを行った。シグネチャーであるポップな色彩のプリントやオブジェはデザイナー自身が制作し、染色などを施している。まるで少女からのラブレターが届いたようなガーリッシュでメルヘンな一面と、どこかダークな不気味さも漂う独特の世界観だった。これはコペンハーゲン内にあるヒッピーの自治コミュニティー、クリスチャニアでの彼女の暮らしを反映しているのかもしれない。

メリットとデメリットは?

 今回のCFWでは、ウイルス対策としてフィジカルとハイブリッドの会場入り口には消毒液が置かれるとともにマスクが配られ、収容人数はデンマーク政府の方針に従って100人に制限された。ランウエイショー以外のブランドは、可能な限り密集を避けるため、来場者に時間を割り当てるなど独自の措置を取り入れた。通例であればCFWが招待するインターナショナルゲストは25名ほどだが今季は15名となり、空港とホテル間を送迎する移動車は予算削減のためになくなり、会期中の会場間の移動バスも予算削減と密集回避のために用意されなかった。その代わり、ハイブリッドとフィジカルの各会場は徒歩移動が可能な近距離でスケジュールが組まれており、移動に苦労することはなかった。デジタル形式であればオンラインで後からでも確認できるため、日中のスケジュールには余裕があり、ゲストはショーの合間に観光を楽しんだり、市内のハーバーやビーチで日光浴をしたりする姿も見られた。6〜7月のミラノやパリのメンズ・ファッション・ウイークがデジタル化されたことで、リアルを含んだファッションのイベントは約5カ月ぶりとなるため、ロックダウン期間を埋め合せるように多くのゲストは互いの再会を喜んでいた。

「現時点での最善策は
“フィジタル”である」

 9月にはロンドンやミラノ、パリのファッション・ウイークがCFWと同様にフィジカルとデジタルで開催される。主要都市に先行する形になったCFWの最高経営責任者(CEO)セシル・ソルスマルク(Cecilie Thorsmark)は、「開催については中止も含めて、多くのシナリオを用意していた」と明かす。さらに「ロックダウン解除後のデンマークはウイルスの感染状況が深刻化せず、社会も安定するのが早かったことからフィジカルでの開催も可能だと判断した。招待者も消毒液の使用やマスク着用、ハグをしないなどのライフスタイルにも慣れており、会場でも混乱は起きないと考えた。デジタルを取り入れたことに対しても参加ブランドやゲストからいい意見ももらっており、他都市のテストケースになるだろう」と手応えを感じている。リアルでの開催にこだわったのにも理由がある。「衣服もそれを着用する人間も2Dではない。3Dのフィジカルである。ファッションをリアルで伝えることには感情を呼び起こす作用があり、これは決してデジタルに置き換えることはできない。しかしデジタルにも全世界に発信できる強みがあり、若手デザイナーのチャンスを広げる可能性を秘めている。つまり現時点での最善策は“フィジタル”(フィジカルとデジタルを掛け合わせた造語)であり、次シーズン以降も続けていきたい」と語った。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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