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コーセーが共創した女子高校生社長は何者か? 18歳とは思えない責任感と行動力

 昨年12月、コーセーが主催するオープンイノベーションの考えを基にした共創事業「アクセラレータープログラム」に現役女子高校生の伊藤瑛加サンシャインディライト社長が選出された。世界各国で環境問題が重視されている中、「太陽の下で安心して暮らせる環境を」をテーマに、コーセー社員と共に保育園や幼稚園に通う子どものUV対策に着目した日焼け止めの開発を目指す。応募数86社の中で「『日焼け止めの習慣化を世の中に浸透させたい』という彼女の強い気持ちが伝わり満場一致の選出だった」(コーセー広報)という。コーセーは伊藤社長との取り組みを“新市場開拓の起爆剤”として大きな期待を寄せる。弱冠18歳にしてコーセーとの共創を勝ち取った彼女に応募した理由から今後のビジネスプランまでを聞いた。

WWD:コーセーの「アクセラレータープログラム」に応募しようと思ったきっかけは?

伊藤瑛加サンシャインディライト社長(以下、伊藤):昨年5月にJA(全国農業共同組合連合会)グループが主催する「JAアクセラレータープログラム」で特別賞を受賞した後に、本格的に事業を始めようと思いサンシャインディライトを設立しました。その後、OEM工場と商品化に向けてスケジュールまで決めていたのに突然音信不通に。社会の厳しさを痛感しました……(笑)。気をとり直し日焼け止めを販売する化粧品会社もアクセラレータープログラムをやっているのではないかと調べ、コーセーの“新規領域”に関するテーマの募集を発見し、小林正典コーセー常務取締役の「感動ある社会に貢献できるイノベーションを起こしたい」というメッセージに共感して応募しました。

WWD:選ばれる自信はあった?

伊藤:自信はありました。小林常務のメッセージを見た後、紫外線問題を解決する上で会社を設立したのはベストなタイミングだったと思いましたね。ファッションでもエシカルファッションが流行している風潮があり、他の生産形態でも環境に配慮した製品が評価される形になっていることも踏まえて必要な取り組みだと改めて感じました。

WWD:大容量 × 子ども向け × 環境に優しいの3点に着目した日焼け止めを展開するというが、具体的にどういう商品になるのか?

伊藤:まずは、ターゲットとする保育園や幼稚園でなぜ紫外線問題が軽視されているのかに着目したところ、容量が少なく価格を気にせずに使用できない点がネックになっていることがわかりました。既製品の日焼け止めは30〜250mLのモノが主流です。それを1リットルで3000円以下で販売できるようにできたらと思っていました。ただ今、リセットしている状態で、日焼け止めの習慣と社会に浸透させるのに適した価格帯を考えています。習慣化に関しては、この紫外線問題を解決するには自分で紫外線から守る習慣を身につけないといけない。しかし、既製品の日焼け止めだと子どもにはボトルを開けにくかったりして難しいわけです。そこでどのようなパッケージだと子どもにも使用できるのかをヒアリングしました。すると、手洗いやうがいの習慣が付いているボトルのポンプ式なら使用できることが分かりました。そして、大容量かつポンプ式を用いることで、子どもに日焼け止めの習慣化を促すことができるのではないかと考えました。また、大容量にすることによりプラスチックの使用量自体を削減でき環境に優しい製品にもなります。成分では日焼け止めに使われている吸収剤は肌が敏感な子だとかぶれてしまうので不使用とし、そのことが環境への配慮にもつながります。

WWD:現在の課題点は?

伊藤:みなさん日焼け止めを塗ることの重要性は分かっているが、なぜ重要なのかを認識していない人が多いことですね。私自身も事業を始めるまでは、世界保健機関が子どものUV対策の必要性を世界規模で発信していることも、環境省が紫外線に関するガイドブックなどを出しているのも知りませんでした。私のように知らない人はたくさんいると思いますし、日焼け止めを塗る必要性や世界の国々がどのような発信をしているのかを伝えていきたいです。

現場からの声が一番の財産

WWD:そのなかで保育園や幼稚園の子どもから広めていくことが重要か?

伊藤:トライアルとして、昨年11月に開催されたイベント「第10回 ファーマーズ&キッズフェスタ2019」で日焼け止め体験ブースを出展しました。保護者からの「これだとまだ読めない」「この年齢だとできない」などリアルな意見を聞くことができ、それらを改善することができれば日焼け止めを浸透させることも可能なのではないかと感じることができました。また現場の声から、4歳以上であれば自分で日焼け止めを塗ることができるという新しい発見も。2、3歳は成長過程に大きな差が広がる時期なので、成長度合いによって分かれるということがわかりました。今後、紫外線対策を実施していく上では、幼少期からの習慣化が重要だと考えています。幼少期からの徹底により、その子ども達が大人になった時に当たり前のように紫外線対策を行っている社会にしていきたいです。

WWD:その社会を実現するための施策は?

伊藤:ヒアリングを通して、子どもたちに手洗いうがいを身につけさせる手段として、これまで動画と歌を使用してきたことが分かりました。歌と手洗いを同時に行うことにより習慣化が図れたという事例をもとに、現在当たり前になっている事柄の教育手法を参考にしながら日焼け止めの教育教材も販売していく予定です。

WWD:実証実験はいつからスタートするのか。

伊藤:今年中にスタートさせたいと考えています。実証実験期間中は4、5歳を対象にすると思います。2、3歳の子どもの成長度合いがどのくらい分かれるのかも認知したいので、並行して検証していきたいと考えています。紫外線問題の啓もう活動と事業をスタートさせた上でのフィードバックを得ることに注力し、既存の製品を用いた大容量の日焼け止めを販売する予定です。

WWD:それぞれの年齢層に分けて製品を製作する予定?

伊藤:日焼け止めは1モデルで販売していきます。年齢層に分けて製作するとパッケージ代金などがかさばり、理想としているものから離れてしまう。現場の「低価格でないと導入する際にネックになる」という意見があるので、可能な限り低価格かつ大容量で販売できるような形をとっていく方針です。教材に関しては考慮していきたいと考えています。

全ての経験が人生の糧に

WWD:コーセーの共創チームとのコミュニケーションが活発と聞くが。

伊藤:最低でも週に1回は対面でのミーティングを行い、メール上でも常に連絡を取り合っています。また現場の声を大切にしていきたいと思っているので、保育関係者の人ともコミュニケーションを取り、自分の母校も訪問してヒアリングも行っています。また、家族の知り合いで協力してくれる人や日焼け止め事業の助けになってくれる人を探したほか、自分が気に入った保育に関する本の著者に連絡をしてアドバイザーになってもらいました(笑)。

WWD:コーセーと共創したことで良かった点や変化をもたらした点は?

伊藤:コーセーのさまざまな部署の人とコミュニケーションをとる機会が多くあり、それぞれが培ってきたノウハウを共有していただけることは非常にありがたいです。また共創する前は、保育園や幼稚園の保護者の人から「サンシャインディライトってどこ?」という安全性を心配する声が多々ありましたが、共創後は素直に受け入れてくれる人が増えました。

WWD:大きなテーマとして「太陽の下で安心して暮らせる環境を」とあるが、日焼け止め以外で考えている取り組みはあるのか。

伊藤:近年は、気候変動による熱の問題で砂漠化が進むなど太陽のネガティブな部分が目立ち始めており、今後さらに加速すると思います。ですが私たちは太陽がなければ生きていけないし、太陽のおかげでポジティブになれる時もあります。みなさんがポジティブな気持ちをずっと持ち続けられるような環境づくりを行なっていきたいです。また日焼け止めは、既製品があるのにもかかわらず消費者に浸透していないことが問題。その浸透を促せるような事業を展開するために啓もう活動や発信する場はすごく大切だと考えています。

WWD:多忙な毎日を過ごしているように感じるが、高校生活は充実している?

伊藤:学校生活自体がすごく楽しいです。校則のない自由な環境で毎日を過ごしているので、今回のビジネスにも興味を持つことができたと思います。もし校則が厳しい学校だったら毎日遊んでいたと思うのですが、個々を尊重してくれる良い学校に巡り会えて幸せです。改めて良い学校に入ったなと思います。学生生活の中で、この事業を始めた当初にOEM工場との連絡が途絶えたのは、今後につながる良い経験としてプラスに捉えました。その経験を生かすために契約上の問題を学びたいと考え(笑)、中央大学の法学部に行くことに決めましたので。また会社としては「太陽の下で安心して暮らせる環境を」という大きなテーマのもと、太陽の諸問題について今後も活動していきたいので、今回の取り組みで資金を確保できるようにして会社を成長させていきたいと考えています。