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「セリーヌ」出身の注目株「ピーター ドゥ」に学ぶ SNS世代に愛されるラグジュアリーブランドの作り方

 ニューヨーク発の「ピーター ドゥ(PETER DO)」は、デザイナーのピーター・ドゥがオンラインで出会った4人の友人と自宅のリビングルームで始めたウィメンズブランドだ。設立から2年目で1シーズンあたり130万ドル(約1億4300万円)を売り上げるブランドへと成長した。これまで発表した3シーズン合計では300万ドル(約3億3000万円)になる。その魅力はフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)が率いた時代の「セリーヌ(CELINE)」で培ったテーラーリング技術で実現する、タイムレスなリアルクローズにある。

 若手ながら「セリーヌ」と変わらない価格帯でも支持される理由は、制作過程からチームのランチの様子といった日常までをSNSで見せてしまう透明性の高さも一つにある。コレクションの制作過程をSNSで見せることによって、それにかかる手間隙やコレクションへの愛情をフォロワーが理解できるため、正当な価格として受け入れられているのだろう。また、服についての悩みを周囲に聴いて“問題解決”を重視したモノ作りも独特だ。

 2019年末、東京・青山のセレクトショップ「アデライデ(ADELAIDE)」で日本初となるポップアップを開くため来日したデザイナーのピーター・ドゥとセールス・ディレクターのヴィンセント・ホー(Vincent Ho)に、チームビルディングからブランドの将来像までを聞いた。

“チーム全員がオンラインで出会った友人”

WWD:バックグラウンドを教えてほしい。

ピーター・ドゥ(以下、ピーター):僕はベトナムの農場で育ったんだ。首都のホーチミンから1時間ぐらいかかるようなところ。14歳のときにアメリカのフィラデルフィアに移った。その後に進学したニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)では「LVMH グラジュエーツ プライズ(LVMH Graduates Prize)」で優勝し、「セリーヌ」のロンドンとパリのアトリエで2年以上の経験を積んだ。

WWD:今のチームは何人体制?

ピーター:チームは12人で、そのうちの7人が正社員で5人がインターン。少数精鋭で内製化している。みんなインターネット上で出会っているんだ。

WWD:メンバーとの距離が近いようだ。

ピーター:オフィスが大きなワンルームで、何もかもがそこで起きているしね。話したいことがあるときは、相手の名前を叫べばいいというのも便利。「僕のオフィスに来て!」って叫ぶんだけど、そんなものはなくて、ただ僕が座っているところに来るだけなんだけどね(笑)。本当にみんな仲がいいし、もはや一つの大きな家族のようなもので、毎週スタッフのために何か作っているよ。「マスターシェフ~天才料理人バトル!(MasterChef)」っていうテレビ番組で、秘密の食材が入っている“ミステリーボックス”っていうコーナーがあるんだけど、それと似たようなことをやるんだ。毎週水曜日にスタッフが持ってきた食材を持ち帰って家で料理を作り、それを木曜日に会社に持ってきてチーム全員でランチをする。その週にあったことを話し合うんだ。

ヴィンセント・ホー(以下、ヴィンセント):「ピーター ドゥ」は、僕を含めた5人の友だちでスタートした。ピーターの家のリビングルームでね。そこから2人増えて、その後12人に増えたんだ。全員が不可欠でそれぞれ重要な役割を担っている。インターンも僕たち“家族”の一員だと考えているので、全てのディナーに誘うし、受け入れられているんだなと感じてもらえるように努めている。これは大事なことだと思う。

WWD:二人の出会いはブログサイトのタンブラー(Tumblr)だと聞いたが?

ピーター:当時、僕のタンブラーには結構な数のフォロワーがいたんだ。ヴィンセントはたまたま見たか何かで連絡してくれた。

ヴィンセント:当時はスタートアップだった時代のファッションEC、モーダ・オペランディ(MODA OPERANDI)で働いていたんだけど、ピーターのタンブラーを見つけて、「僕はモーダ・オペランディで仕事をしている者だけど、ルックブックなどはある?君たちをうちのバイヤーに紹介しようと思うんだけど、どうかな」と連絡したんだ。でも、当時ピーターはまだ学生で……。

ピーター:そう、それで「僕はただの学生ですが……」と返事をしたのを覚えているよ。何が起きているのか、何をどうしたらいいのかも分からないような状態だった(笑)。それでとりあえず一緒にディナーに行き、それから友だちになったんだ。

WWD:「ピーター ドゥ」を立ち上げる前は2人とも「セリーヌ」で働いた。

ヴィンセント:ピーターはパリのデザインチームにいて、僕はアメリカの「セリーヌ」でセールスをしていた。何が売れていて何が売れていないのかを直接理解することができたんだ。ピーターがデザインしたものについても、顧客の反応を直接ピーターに伝えることができて、この「セリーヌ」時代の経験が今の「ピーター ドゥ」でも生きていると思う。僕たちはデザインとセールスの両方の面を理解しているからね。ブランドを立ち上げるに当たって、これはとても重要なことだと思う。

WWD:ピーターは「セリーヌ」と「デレク ラム(DEREK LAM)」で経験を積んだが、それぞれで何を学んだ?

ピーター:「セリーヌ」では、女性が毎日着られるような服を作るということをフィービーに叩き込まれた。素材や着心地にこだわって作り、日常的に着られるリアルクローズであると同時に、自分の子どもに譲って、その子がまたそれを着て……という永遠に残るようなモノ作りを学んだ。「デレク ラム」で僕はシニア・デザイナーだったから、キャスティングや営業などの「セリーヌ」ではやっていなかったことも担当した。こうした経験は「ピーター ドゥ」を立ち上げる際にとても役に立っているし、自分の準備が整った状態でブランドを設立することができた。

“服作りは「いかに問題を解決するか」から始まる”

WWD:インスピレーションはどこから得ている?

ピーター:まずは“いかに問題を解決するか”から始まる。それで周囲の人たちにいろいろ聞いて回るんだ。例えば秋冬コレクションなら「冬服で好きじゃないところは?」みたいな質問をすると「セーターやコートが重すぎる、そのくせあんまり暖かくない、肌に当たってチクチクする」というような答えが返ってくる。こうした具体的な悩みを解決しつつ、そのとき観ていた映画とか、アーティストとか、周りの人たちとかから得ている。人を観察するのが好きで、それでいろんなことに気づくんだ。だから、「このコレクションの着想源はモロッコです」という風にはならない(笑)。

「セリーヌ」や「デレク ラム」では抽象的なアイデアをもとに制作することがあったけれど、個人的には変だなと思っていた。自分が本当に感じたことがベースになっていないと本物ではないから、何かのレプリカみたいな服になってしまうんだ。それに日常的に着てもらうのが目的だからね。あと「こういうタイプの女性に着てもらいたい」という言葉も嫌い。そもそも、そのタイプの女性が買ってくれているとは限らない。「セリーヌ」ですらも「知的な女性をイメージして……」というようなことを言うけれど、実際に購入している中には僕らのようなアジア系の男性もいる訳で。もちろん、ブランドには女性像があっていいと思うけれど、「ピーター ドゥ」は“着たくなる、着心地のいい服を作る”ということが前提だ。

WWD:人気アイテムは?

ピーター:ごく普通のフィット感のいいパンツ(笑)。ブレザーやニットも売れている。あとカードケースも好評ですぐに完売した。
ヴィンセント:ぴったりフィットするパンツを見つけるのは本当に難しい。とてもシンプルなアイテムだけど、誰もあまり本気で考えないから人気なんだと思う。サンプルを借りていったセレブが後で、「これ、すごくいいから買い取りたい」と連絡してきてくれたときは本当に嬉しかった。無料で着用できるのに、わざわざお金を払いたいと思ってくれたということだから。

ピーター:僕らは商品をタダであげたりしないんだ(笑)。誠実じゃない感じというか、フェイクな感じがする。誰かに何かあげたとしても、本当に着てくれるかどうかは分からない。せっかく作ったものなのに、着られることもなく箱に入れっぱなしにしてほしくないんだ。

“「コンテンポラリーにすべき」にノーと言い続けた”

WWD:価格帯は高いが、支持を得られた理由は?

ヴィンセント:「ピーター ドゥ」は高価格帯の服を売っているラグジュアリーブランドだ。だから値段を理解して購入してくれる顧客のことを本当に大切に思っている。日本には「ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)」や「アデライデ」のような、強力な卸先と素晴らしい関係を築けている。ECも大事だし、SNSで「いいね」をもらうことも大事だけれど、それらは一面に過ぎない。今、ラグジュアリーブランドだと表明している新興ブランドは少ない。

「ピーター ドゥ」を立ち上げたときには、「もっと価格帯を下げてコンテンポラリーブランドにするべきだ」「その価格だったら『セリーヌ』で買うだろう」と多くの人に言われたが、僕らはそれに対してノーと言い続けたんだ。ピーターが伝えたいストーリーを表現するにはコンテンポラリーでは無理だった。いろいろ妥協しないといけなくなってしまうからね。

ピーター:それに、僕たちは長く残るものを作りたい。質の高いファブリックを使い、公正な報酬を払い、労働者の権利を守っている工場で生産したい。ニューヨークはコストの高い街で、僕たちは長時間働いているから、人件費も高い。こうしたことを積み上げていくと、価格帯を低く設定することはできない。ジャケットの制作には、縫製する人、手作業をする人、プレスをする人の3人がかりで2~3日かかるし、その後に手縫いが必要だけど多くの人は、そういう舞台裏を知らないからね。

WWD:ブランドのアイコンでもある特殊素材“スペイサー”はどう生まれた?

ピーター:学生の時にインターンシップを通じて、ベースを作っている工場を見つけて、服に使えるように共同開発したんだ。その工場は今でも“スペイサー”の改善を続けていて、シーズンごとにさらに薄くて軽いものを作ってくれている。これも、もともとは服作りにはたくさんの手作業が発生するけれど、それだけの手間暇がかかっていることをどうやったら伝えられるだろうと、論文を書いているときに思ったことから始まっている。シースルー素材にすればそれが伝わり、服づくりは大変だと分かってもらえると思ったんだ(笑)。ブランド運営もこんなに大変なんだと伝えたくてインスタグラムをやっている部分がある(笑)。“スペイサー”にはいろんな意味が込められていて、ブランドの透明性の象徴でもあるんだ。

WWD:インスタグラムもユニークだ。どのように運営している?

ピーター:僕が全てコントロールしている。僕はまだ誰もインスタグラムを知らなかった時代から使ってきていて、インスタグラムが本当に大好きなんだ。インスタグラムを更新するのは、僕にとってはすごく自然なこと。本当にたくさん写真を撮るから。今でも毎日100枚ぐらいアップしようと思ったらできちゃうぐらい。もう日々の暮らしの中に溶け込んでいるんだ。僕が何をしているのかが常にみんなに分かってしまうので、考えようによってはちょっと薄気味悪いけど……まあ、誰も僕がどんな見た目なのか知らないからね。

“素晴らしいコレクションを発表しているデザイナーは、表に出てこない”

WWD:メディアに顔を出さない理由は?

ピーター:僕の顔は、僕についてみんなが知らないたった一つのことだから、それは僕だけのものにしておきたい。誰にも気づかれたりせずに、好きなレストランに行って、普通に食事したいし。「ピーター ドゥ」はたくさんの人たちの力で成り立っているから僕の顔という一つのイメージだけが目立つのは違うと思う。僕はデザイナーがセレブみたいになっていることに疑問に思っている。生き残るためにそれが必要なブランドがあることも理解しているけど。マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)やニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)は露出も本当に多いし、ファンもセルフィーを一緒に撮りたいと思っている。でも彼らはもっとプライベートにしていた昔のほうが、いいコレクションを作っていたんじゃないかな(笑)。素晴らしいコレクションを発表しているデザイナーは、あまり表に出てこない、プライベートな人が多いように思う。フィービーやエディ・スリマン(Hedi Slimane)がその好例で、ほとんど写真がない。

WWD:まさにSNS世代のPRができているブランドだ。

ヴィンセント:「ピーター ドゥ」は本当の意味で“ミレニアル・ブランド”だ。全員オンラインで出会っているし、バイヤーは僕らのことをネットで見つけたしね。SNSは、みんなの条件を平等にした。従来、ブランドが大きくなるには「ヴォーグ(VOGUE)」などの大手メディアに取り上げてもらうしかなかったけれど、今は誰もが自分のコンテンツを発信できるし、どのように見られたいか、どういうストーリーを伝えたいかを自分で決められる。ブランドの立ち上げ前、ピーターのインスタグラムの世界観に引かれて共感する人たちがたくさんいた。

WWD:今後の目標は?ファッションショーや店舗のオープンの予定はある?

ピーター: 20年の2月にシューズを発表し、年末までにはバッグも出したいと思っている。21年くらいにはファッションショーを開催して、3〜5年後にはニューヨークに店舗を開けたらいいなと考えている。とはいえ、物事は変化するから、きっちりとした計画に縛られることもないかな。