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レースのドレスでおなじみの「セルフ-ポートレート」デザイナーが語る、シグネチャースタイルの重要性

 レースや刺しゅうを駆使したドレスを比較的手ごろな価格帯で提案することで、一躍グローバルブランドへと成長を遂げたロンドン発の「セルフ-ポートレート(SELF-PORTRAIT)」。現在ニューヨーク・ファッション・ウイークで発表しているコレクションは世界約400店舗で取り扱われ、ロンドン、ニューヨーク、バンコクの3都市には旗艦店も構えている。そのクリエイションとビジネスの両方を手掛けるのが、2013年に同ブランドを立ち上げたハン・チョン(Han Chong)=デザイナーだ。イベント「イザ ピンク クリスマス2019」でのショーのために来日した彼に、ファッションデザイナーを志したきっかけからブランディングにかける思いまでを聞いた。

−マレーシア出身ということだが、どんな環境で生まれ育ったのか?

ハン・チョン「セルフ-ポートレート」デザイナー(以下、チョン):僕が生まれ育ったのは、マレーシアのペナン島。大都市ほどいろんなものがあるわけでなく、幼い頃は自然に囲まれて育った。そして、18歳の時に首都のクアラルンプールに引っ越し、その後、セント・マーチン美術大学で学ぶために渡英した。

−ペナンは正直、ファッションとは縁遠い場所のように感じる。ファッションデザイナーを志したきっかけは?

チョン:母方の家系に芸術家が多かったこともあり、幼い頃からアートを勉強していた。ファッションに興味を持ったのは確か16〜17歳の時で、当時教わっていたセント・マーチン美術大学卒の先生から同大学の話を聞いてから。アートは限られた人のものだけど、ファッションならもっと多くの人にアプローチできると感じたんだ。実際、2009年に「ベネチア・ビエンナーレ」にアーティストとして参加したこともあるけれど、振り返ると、やはりファッションで得られる喜びとは違ったよ。

−ロンドンを拠点に選んだ理由は?

チョン:大学時代もロンドンで過ごしたし、チームもいるので、ここを拠点にするのが自分にとっては都合がよかった。ロンドンは、クリエイティブとビジネスのどちらもがある街。そこが自分に合っていると感じるし、大きな刺激を受けている。

−ブレグジット(イギリスのEU離脱)が決定的になったが、ブランドに影響はある?

チョン:もちろん将来的に影響は受けると思う。ただ、実際どんなことが、どのタイミングで起こるかは、まだわからない。

デザインする時にイメージするのは、“普通”の女性

−コレクションを制作する上でイメージしている女性像は?

チョン:「セルフ-ポートレート」を立ち上げる時からインクルーシブ(包括的)なブランドにしたいと考えていた。富裕層だけでなく、一般の女性にもより多くのファッションの選択肢を与えたかったんだ。だから、デザインする時にイメージするのも、“普通”の女性。特に、モダンで自身のフェミニンな一面を見せることを恐れない人を思い浮かべているよ。

−レースのドレスをきっかけに人気を博し、徐々にブランドとして知名度を高めてきた。レースや刺しゅうなどを駆使した手の込んだデザインでありながら手の届く価格帯(ドレスで5万円台〜)というのは、「セルフ-ポートレート」の強みであると同時に、両立させるのが難しい点だと思う。どのように実現しているのか?

チョン:レースは安い素材ではないし、最初は生産数も少なかったから、正直大変だった。一番目立つ前面にだけにレースを使って、背面はより安価な生地にするなど、いろいろと工夫していたよ。当時は利益も少なかったけれど、ブランドとしてシグネチャースタイルを確立することが大事だと考えていたから、レースを使ったデザインにこだわっていたんだ。そして、ビジネスが拡大し生産量が増えた今は、以前よりもずっと自由にデザインができるようになった。レースのパターンもオリジナルでデザインしているしね。アイテムの生産は、大半が中国。そう言うと、正直微妙な顔をする人もいるけれど、実際は最新の設備や仕上げの細かさという点で優れている。クオリティーやスタンダードを保つために、頻繁に工場を訪れてチェックもしているよ。

−レンタルやリセールといった新たなビジネスが広がりを見せているが、そういった分野に興味はある?

チョン:2018年くらいからそういう流れが高まっているのは感じていて、関心もある。とてもサステナブルな考え方だと思うし、今後もいろいろな形を検討していく。すでに取り組んでいるのは、レンタルサービスの「レント・ザ・ランウエイ(RENT THE RUNWAY)」。ドレスはオケージョンニーズが高いし、特に都市部に住んでいる人に比べて地方に住む人はドレスを着る機会が少ないと思うので、レンタルサービスのポテンシャルは高いと感じている。

−現在注力している、もしくは今後力を入れたいカテゴリーは?

チョン:ちょうど最近、スイムウエアをローンチしたところ。そして、定期的にウエディングドレスのカプセルコレクションも制作している。カジュアルなウエディングのためのドレスを探しに来る女性も多いからね。将来的にはバッグやSLG(革小物)も手掛けたいと思っているけれど、新たなカテゴリーはきちんとチームや体制を整え、100%の力を注げるようにしてからしか始めないと決めているんだ。なので、まずは他ブランドとのコラボレーションから始めて、知識を身につけつつ可能性を探るようにしている。そして、どのカテゴリーにおいても、「美しいものを手の届く価格で提案する」というコンセプトを大切にしているよ。

−着実にステップアップをしているように見えるが、現在のビジネス規模は?

チョン:18年の売上高は、小売りベースで1億2000万ポンド(約171億円)。19年は5%増程度になりそうだ。アジアに関しては、ローカライズが鍵になるので、現地パートナーと組むことが重要。日本は(セレクトショップの)イザでの取り扱いから始まり、(その母体である)グルッポタナカがディストリビューターを務めるという関係に発展した。タイも日本と同じような形だ。一方、中国はエラセーイ・グループ(ELLASSAY GROUP)との合弁事業として取り組んでいる。

−次なる目標は?

チョン:現在、グローバルでの取り扱い店舗数は約400。卸はすでに増えるところまで増えたと考えているので、今後は直営店の出店に力を入れる。中国では20年内に5店舗を出店する予定。日本でも東京に旗艦店をオープンしたいと考えているので、滞在中に実際にいろんなエリアを訪れてブランドに合う場所をリサーチするよ。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

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