ファッション

「フェンダー」がジョージ・ハリスンのレコードレーベルと協業 CEOが語るファッション事業と商品戦略

米楽器メーカー「フェンダー(FENDER)」が、ファッションとの連携を強めている。10月16日にはジョージ・ハリスンが設立したレコードレーベル「ダーク・ホース・レコード(DARK HORSE RECORDS)」との日本限定コレクションを発表し、東京・原宿の旗艦店「フェンダー フラッグシップ トーキョー(FENDER FLAGSHIP TOKYO)」で記念イベントを開催。ジョージの息子でミュージシャンのダニー・ハリスン(Danny Harrison)も来日した。さらに21日には「ポール・スミス(PAUL SMITH)」との初のコラボレーションを発売するなど、ギターとアパレルを横断した商品展開を進めている。ラルフローレン・ジャパンの社長を務め、2026年2月にフェンダーの最高経営責任者に就任したエドワード・コール(Edward Cole)CEOに、ファッション事業の位置付けや商品戦略、協業の狙い、日本市場の役割について話を聞いた。

アパレルの出発点はギタリストの需要

「フェンダー」は23年、原宿の旗艦店開業に合わせて、オリジナルアパレルブランド「エフ・イズ・フォー・フェンダー(F IS FOR FENDER)」を始動した。スタイリストやデザイナーとして活動する島津由行をクリエイティブ・ディレクターに迎え、日本の素材や国内生産にこだわった商品を展開している。楽器メーカーが独自のファッションブランドを手掛ける背景には、どのような考えがあるのか。

「私たちが最も重視しているのは、初心者から上級者まで、音楽に取り組むあらゆる段階のギタリストを支えることだ。ギターとプレーヤーが、すべての活動の中心にある」。ギターやベース、アンプが主力事業であることを前提に、アパレルを求める顧客の変化に言及する。「プレーヤーたちは自分のギターや演奏だけでなく、『フェンダー』というブランドへの愛着も表現したいと考えるようになっている。ブランドへの思いを示すために着用できるTシャツや衣服などを、私たちに求める声が増えている」。

アパレル事業の可能性として挙げるのは、演奏時だけでなく、日常生活でも音楽への愛着を示せることだ。楽器の購入とは異なる場面で、フェンダーの商品を選ぶ機会が生まれる。アパレルを、既存のギタープレーヤーや音楽ファンがブランドとの関係を深めるための商品として位置付けている。その考え方の背景には、音楽とファッションの歴史がある。エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)やザ・ビートルズ(The Beatles)、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)から、パンク、グラム、ニューウェーブ、1990年代のグランジ、ヒップホップまで。ミュージシャンの装いは、それぞれの時代のファッションにも影響を与えてきた。

「音楽がファッションを動かし、アーティストやプレーヤーがファッションを動かしてきた。ファッションのトレンドはその後を追ってきた」。さらに、ギター自体がファッション性を備えた商品だと考えている。「ギターは身体に身に着ける楽器だということを忘れてはいけない。それは私たち自身の一部だ」。

“ストラトキャスター“や”テレキャスター“、”ジャズマスター“など、「フェンダー」を代表するギターはモデルごとに異なる形状を持つ。楽器としての性能だけでなく、外観や身体に装着したときの感覚も、プレーヤーにとって重要な要素になるという。「ギターのラインや形状は非常に美しい。プレーヤーはギターがどのように機能するかだけでなく、見た目や身体に触れたときの感覚からも影響を受ける」。ライブでは、演奏者の服装もパフォーマンスの一部となる。「ステージで演奏するとき、そこにはプレーヤーとギターがあり、何を着て、どのような姿をしているかも含まれる」。楽器と装いを一体のものとして考えることが、フェンダーのファッション事業の基本的な方向性だ。「『フェンダー』には、そうした表現に参加する資格があるだけでなく、責任もあると考えている」。

ジョージ・ハリスンとの協業でギターとアパレルを展開

この考えを具体化したのが、10月16日に発表した「ダーク・ホース・レコード」との日本限定コレクションだ。同レーベルはジョージが74年に設立。今回の協業では、ギターに加え、ストラップやピックセット、アパレルを展開する。「ジョージのギタープレーも作曲も非常に独創的で美しい。音楽を通じて、自分の文化や個性、自由な発想を表現していた」。ジョージが「フェンダー」のギターを演奏や作曲に使用してきたことも、協業の背景にある。「“ダーク・ホース“のギターと衣服、アクセサリーを組み合わせることで、ジョージ・ハリスンが体現していた表現の自由や創造性をたたえる。それが今回のインスピレーションだった」。

“ジョージ・ハリスン ダーク・ホース・レコード ストラトキャスター“(19万8000円)は、アルダーボディー、メープルネック、ローズウッド指板に3基のシングルコイルピックアップを搭載。「ダーク・ホース・レコード」のアートワークとゴールドのパーツを採用した。楽器としての基本仕様に加え、レーベルのビジュアルをデザインに反映している。アパレルは「エフ・イズ・フォー・フェンダー」が手掛け、日本でデザイン・生産した全15点をラインアップ。ジョージのザ・ビートルズ後期からソロ活動期の装いや、レーベルのアーカイブを参考に、Tシャツ、シャツ、スエット、デニムジャケットなどをそろえた。価格帯は2万2000〜7万7000円で、原宿の旗艦店限定で順次販売する。

日本限定とした理由には、ハリスン一家と日本の関係がある。ジョージは1966年にザ・ビートルズとして来日し、91年にはエリック・クラプトンとの日本ツアーを実施。息子のダニーも同行して初めて日本を訪れた。ジョージ親子と日本との関係に加え、日本の音楽文化やファッション文化、原宿の旗艦店の存在も重視した。「この国で実施することが理にかなっていた」と話す。なお、ダニーは今回の協業に際して、日本のファンから長年受けてきた支持への感謝を公式発表でも示している。

「ポール・スミス」との協業に共通する音楽文化

「フェンダー」がギターとアパレルを組み合わせる取り組みは、ファッションブランドとの協業にも広がっている。10月21日には「ポール・スミス」との初のカプセルコレクションを発売した。レディ・トゥ・ウエアやテーラリング、アクセサリーなど全16アイテムに加え、日本製の“メイドインジャパン ポール・スミス テレキャスター“(44万円)を展開する。

協業相手として注目したのは、ポール・スミスと英国の音楽シーンとの関係だ。ポール・スミスは若い頃から音楽に親しみ、デヴィッド・ボウイをはじめとするミュージシャンとも仕事をしてきた。音楽を創作の着想源としてきたポール・スミスと、ミュージシャンの自己表現を支えてきた「フェンダー」。両者の共通点に加え、26年にフェンダーが創業80周年、ポール・スミス本人が80歳を迎えたことも協業の契機となった。

「私たち両者が日本を愛していることもあり、日本で両社のアーティストやプレーヤー、音楽文化への愛情を共に祝うことができればと考えた」。コレクションでは「ポール・スミス」のシグネチャーストライプを“テレキャスター“のボディーに採用。アパレルには音楽フェスティバルやロンドンのウォーダー・ストリートのレコードショップ文化に着想を得たデザインを取り入れた。

ジョージ・ハリスンとの協業ではアーティストの音楽と装いを、「ポール・スミス」との協業ではデザイナーと音楽文化の関係を商品に反映している。両企画に共通するのは、ギターとファッションの双方で商品を開発している点だ。「『フェンダー』にとって、日本は販売市場であると同時に、ブランドの店舗体験を高めるための重要な拠点でもある。23年に世界初の旗艦店を原宿に構えたのは、東京に世界的なファッションブランドの旗艦店が集まっていたことが理由の一つだ。『フェンダー』もエレキギターブランドとして、それらに匹敵する店舗を持つ必要がある」と考えたという。
「日本市場、特に東京には、世界で最も洗練された小売りの表現がある」。これまで70カ国以上を訪れた経験から、商品の見せ方や品質、接客サービスなど、日本の小売りの水準を高く評価する。「日本の消費者は品質とデザインに対する期待が非常に高い。この市場で成功するには、卓越していなければならない。日本で成功できれば、世界中のどの市場でも成功できると考えている」と続ける。

「日本で成功できれば世界で成功できる」

原宿の旗艦店ではギターやベースの販売に加え、アパレルやカフェも展開する。今回の「ダーク・ホース・レコード」との協業でも、ギターや衣服の販売に加え、原宿と下北沢のフェンダーカフェで期間限定のポップアップを実施した。楽器購入を目的としない顧客にもブランドとの接点を提供する店舗構成となっている。

こうした取り組みはデジタルにも広がる。公式ウェブサイトを刷新し、グローバルキャンペーン「The One. For All.」も始動した。キャンペーンでは、ギターの演奏や楽曲制作、ステージでの服装までを含めた自己表現に焦点を当てる。ウェブサイトも従来の商品販売中心の構成から、ギターやアンプの音を聴いたり、アーティストのコンテンツを楽しんだりできる体験型へと進化させている。

今後5年、10年を見据えても、楽器メーカーとしての基本方針は変わらない。「私たちはミュージシャンやギタープレーヤーが演奏し、自分自身を表現するためのギターを作る会社だ」と、アーティストやプレーヤーを通じて音楽文化に関わり続ける方針を示した。

こうした取り組みはデジタルにも広がる。公式ウェブサイトを刷新し、グローバルキャンペーン「The One. For All.」も始動した。ギターの演奏や楽曲制作、ステージでの服装までを含めた自己表現に焦点を当てる。ウェブサイトも従来の商品販売中心の構成から、ギターやアンプの音を聴いたり、アーティストのコンテンツを楽しんだりできる体験型へと進化させている。

ファッションやデジタルへと取り組みを広げる一方、楽器メーカーとしての事業の中心は変わらない。「私たちはミュージシャンやギタープレーヤーが演奏し、自分自身を表現するためのギターを作る会社だ」。今後もギターを軸に、アーティストやプレーヤーを通じて音楽文化に関わり続ける考えだ。

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