PROFILE: (右)中村正治/パナソニック ビューティ・パーソナルケア事業部 事業部長 (左)澤田実加/SISI 代表取締役CEO

WWD:コラボレーションに至った経緯は?
中村正治事業部長(以下、中村):私たちはパナソニックビューティとして、ドライヤーやヘアアイロンなどの美容家電を通じてお客さまの髪や肌の悩みに向き合ってきました。単に家電を提供するのではなく、お客さま一人一人がなりたい美しさに前向きに、楽しく近づけるかにこだわってきました。次のステージとして、価値領域をもっと広げていきたいと考えたとき、家電の枠だけにとらわれず、化粧品も含めた一連のお客さまの所作の中で価値を届けることを模索していた。そこで澤田さんと出会ったのが始まりです。
澤田実加CEO(以下、澤田):当社への出資という形でご縁をいただきました。パナソニックさんはCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)をお持ちで、そちらからお声掛けいただいたんです。出資の検討を進めていく過程の中で協業の話も生まれ、何をやるかを議論しながら方向性を絞り、出資していただいたうえで一緒に事業開発を進めていきました。
WWD:出会ってからわずか1年での商品ローンチは異例のスピード。
澤田:大企業との協業はよくあるようで、実はローンチまで至らないこともあると聞いています。何をやるか決めないまま始まって、お金を投じたけれど結局何も発表しない、というケースも見てきました。でもパナソニックさんには、実はベンチャースピリットが溢れていて、皆さんが本当に前向きに「やっていこう」という気持ちを持っている方が多い。承認の段階は大変だったと思いますが、その姿勢があったから1年で実現できたんだと思います。
なぜヘアケアなのか。“トータル設計”という発想
WWD:SISIとのコラボであるなら、スキンケア領域という選択肢もあった中で、なぜヘアケアを第一弾に選んだ?
中村:私たちの美容家電の中で最も認知され、貢献できている柱は何かと言えば、やはり“ヘアードライヤー ナノケア”です。ドライヤーを単に乾かすための道具ではなく、髪をケアする時間に変えたいという思いで商品開発をしてきました。ただ、お客さまの視点で見ると、シャンプーで洗い、トリートメントで整え、ドライヤーで乾かして仕上げるという一連の所作がある。その全体をトータルで設計した商品がないよね、という問いが出発点でした。SISIさんと一緒に、その全体設計に挑んでみようということです。
澤田:当社はもともとスキンケアが強みで、ヘアケアはやりたいと思いながらも手を出しにくい領域でした。競争が激しく、他社と同じ戦い方では勝ち目がない。でも今回の取り組みは、乾かすデバイスを起点にして、そこから逆算してヘアケアを設計するというアプローチです。純粋なシャンプーのアプローチとは全然違う領域になるので、チャレンジしてみたいと思いました。また、“ヘアードライヤー ナノケア”の出荷台数はスキンケアデバイスよりもはるかに大きい。その主力事業の部分を一緒にやらせてもらえるというのは、本当にありがたいことでした。発想の根幹はスキンケアにあるので、そのエッセンスをヘアケアに持ち込む形で作っています。
エビデンスを主軸にすえたこだわり
WWD:激戦のヘアケア市場における後発組として、差別化した最大のポイントは?
澤田:市場調査として、日本に流通している主なシャンプーを“全て”と言っても過言ではないくらい買い集めて試しました。最近は価格帯も上がり、予算をかけられるようになり、質もどんどん良くなっている。その中で、他にない「ユナイト!」ならではの特徴は、“全体設計”でアプローチすること。だからこそ、処方設計の軸に“エビデンス”を置こうと決めました。“ヘアードライヤー ナノケア”とこのシャンプー・トリートメント・ヘアミルクを合わせて使うことで、髪にどういう効果が出るのか。そのエビデンスをしっかり時間をかけて取ることを最優先にしています。
WWD:成分や処方の具体的なこだわりは?
澤田:2つの特許技術を採用しています。1つは、ダメージの空洞部分にだけ選択的に補修効果をもたらす技術です。全体に補修してしまうと、使い続けているうちに成分が蓄積してしまう“ビルドアップ”という現象が起きて、髪が重くなったり褪色しやすくなったりする。それを防ぐために、傷んでいるところだけに必要な補修を施す設計にしています。もう1つが“ボンドケア”です。髪には4つの結合があり、ダメージを受けるとその結合が乱れてしまう。その結合を整えることで、使い続けることで髪が強くなり、質感が変わっていく。しかも、水素結合だけはヘアケア剤単体ではなかなか補修できない。ドライヤーの力が必要なんです。だからこそ、“ヘアードライヤー ナノケア”とシャンプー・トリートメント・ヘアミルクというアウトバスまでのトータルで使うことで、4大結合すべてに対応できる設計になっている。これが最もユニークな点だと思います。
WWD:香りにもこだわった。
澤田:脳波試験を行いました。世界中のラボで、香りが人間の脳や気持ちにどのような作用をするかを研究している機関があります。今回は海外の専門家を招いて脳波の測定を行い、“エナジャイジング”と“フレッシュネス”のスコアが高い香りを選んでいます。美容メディアの方にお話しすると「新しい」と言っていただける部分です。
彦根の工場から降りてきたインスピレーション
WWD:ブランド名「ユナイト!(UNITE!)」にはどういった意味が?
澤田:3つの意味があります。ボンドケアの「結びつく」、材とデバイスが「1つになる」、そして毎日新しく生まれ変わっている自分を「再構築する」。その3つを込めた名前です。実はこの名前の着想は、滋賀・彦根にあるパナソニックさんのナノイーデバイス製造工場を見学させていただいたときに生まれました。空気中から集めた水分に高電圧を加え、ナノサイズの微細な水粒子へとつくり変え、それが髪に水分を与えたりキューティクルを引き締めたりするという話を聞いて、「世の中のほとんどのものは実は原子と分子なんだ」というインスピレーションが湧いたんです。それをデザイナーに伝え続けていたら、ピクセルという概念、小さなものが集まって1つの形になるというモチーフからデザインが生まれました。ロゴの書体がピクセル的に見えるのもそのためです。
WWD:パッケージのピンクが印象的。
澤田:当社の最初の商品がピンクで、パナソニックさんにも象徴的なピンクのドライヤーがある。お互いの商品へのリスペクトを込めてピンクを選びました。機能も感じてほしいし、でも最終的には“アガるデザイン”であることが大事。その両方を取れる着地点として、このデザインになっています。
開発の現場。異なる文化が交わる苦労と成果
WWD:コラボの難しさは感じた?
澤田:化粧品と家電では、開発の流れが全然違います。いつまでに処方を固めないといけないかというスケジュール感が、お互いにとって「そうなの?」という驚きの連続でした。現場で一緒に動いてくれたメンバーには、本当に苦労をかけたと思います。
中村:我々のほうは専用モニターというか、ドライヤーで乾かした後の髪の手触り感を見るエンジニアがいて、その人たちに実際に使ってもらいました。きしみ感、洗っているときの指通り感など細かい評価項目ごとにスコアリングし、何十人分のデータを集計してフィードバックしました。滋賀にいる研究者がリードし、ラボでの評価試験もお願いしました。
澤田:そのフィードバックが非常に精緻で、最終的に取れたエビデンスのデータがめちゃくちゃきれいだったんです。シャンプー・トリートメントをして乾かすという工程での髪のデータがしっかり出て、“ヘアードライヤー ナノケア”との相性がいい剤系が開発できたと実感しています。
販路と今後。ドライヤーとシャンプーが並ぶ「業界初」の景色
WWD:販路は?
中村:ドライヤーとシャンプー・トリートメントをセットにしたバンドル品を、一部の量販店で販売する予定です。パナソニックとして、これは間違いなく初めての試みです。ただ、メインの販路はSISIさん側の顧客接点を活用していく形で考えています。
WWD:今後の展開は?
中村:今回はあくまでスタートだと思っています。ヘアケアにおけるトータル美髪ケアとは何かを、一連で設計し直すという試みを始めたにすぎません。スキンケア領域や、昨今関心が高まる男性美容など、まだまだやりたいことは多くあります。具体的に次が何かはお答えできませんが、この「ユナイト!」をしっかり世の中に送り出し、育てていきたい。それが今一番大切なことだと思っています。