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「シュプリーム」の元ディレクター、アンジェロ・バク 「平凡な10型のTシャツより、喉から手が出る3型のTシャツを作る方がクールだろ?」

 世界中にストリートブランドは数あれど、1994年にジェームス・ジェビア(James Jebbia)が立ち上げた「シュプリーム(SUPREME)」を超えるストリートアイコンはいまやないだろう。そんな世界トップのブランドをディレクターとして率いた経験を持つアンジェロ・バク(Angelo Baque)が主宰するブランドが、「アウェイク ニューヨーク(AWAKE NY)」だ。

 「アウェイク ニューヨーク」はその名の通り、2012年にニューヨークで立ち上がったストリートブランドで、インスピレーション源はバクが住んでいたアッパー・ウエスト・サイド地区におけるさまざまなカルチャー。現地のカルチャーとムードにバクの感性をミックスしたアイテムは、ストリートとスポーツの絶妙なバランス感を持ちながら洗練された雰囲気があり、感度の高い人々から支持を集めている。

 10月、「アウェイク」と「カッパ(KAPPA)」のコラボコレクションがドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA以下、DSMG)で世界先行販売されるタイミングで、バクが久々の来日を果たした。「アウェイク ニューヨーク」についてはもちろん、表に立たず影の立役者として時代を築き上げた「シュプリーム」から離れた理由、そして世界を熱狂させた「シュプリーム」と「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の歴史的協業の渦中にいた彼だからこそ思うコラボが蔓延する現在のファッションシーンについて話を聞いた。

WWD:「アウェイク ニューヨーク」を立ち上げた経緯から教えてください。

バク:「シュプリーム」で働いていたときにサイドプロジェクトとして始めたんだが、動機は単純で欲しいけど見つからない洋服を自分で作ろうと思ったから。その頃の俺は「シュプリーム」はもちろんだけど「アーペーセー(A.P.C.)」も着るようになったり、心境やスタイルに変化が表れ始めていた頃だったんだ。

WWD:では、もともとは自分のためのブランドだったということでしょうか?

バク:最初は自分のことだけを考えて立ち上げたけど、今は着てくれるみんなのためーー特に若者やスケーターに向けて作っている。当初はロゴをあしらったシンプルなものを中心に作っていたが、最近は俺のルーツの1つでもあるグラフィックにフォーカスしたアイテムも出すようになったよ。

WWD:ブランド名の由来は?

バク:「AWAKE」という単語を雑誌で見かけて、そこに「NEW YORK」を足しただけ。なんの雑誌だったかは覚えていないんだ。

WWD:ロゴにストリートブランドであまり見られない飾りのあるスクリプト書体(筆記体)を採用していますが、その理由は?

バク:どこか洗練されている感じにしたかったし、1980年代の本のタイトルみたいな見た目にしたくてね。俺はマンハッタンのアッパー・ウエスト・サイドに13〜14年くらい住んでいて、その間にスタイルや音楽などいろんなことに大きな影響を受けた。それで俺に関する物語の本がもしあったとしたら、その本のタイトルはどんな見た目で、フォントやタイポグラフィーはどんなものになるだろうかと考えたんだ。

WWD:自分の原体験をもとにデザインしたんですね。

バク:その通り!ロゴは友だちと一緒にデザインしたよ。このロゴを見れば、メトロポリタン美術館だったりカッツ・デリカテッセン(Katz's Delicatessen)だったり、いかにもニューヨークという場所を思い出す、そういうものにしたかったのさ。

WWD:ファッションスクールでデザインを学んだ経験は?

バク:通ってはいたけど中退したし、写真学科だったよ。だから「シュプリーム」でも画作りを担当していたのさ。

WWD:先ほどグラフィックがルーツの1つと話していましたが、あなたにとって洋服にグラフィックを落とし込むというのはどんな意味なんでしょうか?

バク:インテリジェンス(知性)のあるものにしたいから。というのも、「シュプリーム」で学んだことの1つに、“キッズのインテリジェンスを過小評価するな”というのがある。俺は1990年代初頭のファッションにとても影響を受けているんだが、最近はそういったストリートウエアが無くなってきていると思っているんだ。分かりやすく言い換えると、“服を教育のプラットフォームとして使う手法”がなくなってしまっているということ。クールな服であると同時に、そこから情報を得ることができたり教育的な効果があるものにしたいという意味を込めているんだ。

WWD:「アウェイク」のインスタグラムを見ていると、時折歴史上の人物や名作映画を紹介するストーリーを上げますよね?あれは「アウェイク」なりの教育の一環ですか?

バク:そうだ。この間はちょうど、アメリカが「ヒスパニック文化遺産月間(National Hispanic Heritage Month)」(※9月15日~10月15日)だったからラテン系やヒスパニック系の発明家や俳優、政治家などを紹介することで、顧客を啓発しようと思ったのさ。

WWD:SNSはブランドにとって重要なツールのようですね。

バク:そもそもSNSがなければ「アウェイク」は存在し得なかったくらい重要なもの。というか、今のブランドはSNSがないと無理なんじゃないか?SNSがブランドのマーケティングを担っている、それが現実だよ。

WWD:Tシャツやキャップなどで原色を多用しているイメージです。

バク:俺にとってTシャツはキャンバスなんだ。グラフィックのデザインやTシャツのデザインを考えるとき、まずTシャツをキャンバスに見立てる。だから色は原色が多くて、ロゴはそのアクセント。Tシャツやキャップで原色の生地を使用しているのは偶然ではないんだ。

WWD:型数をベーシックなアイテムだけに絞っている印象ですが、トレンドやニーズは気にしないんでしょうか?

バク:それは“Less is more(少ないほうが豊か)”だから。作るアイテム全てを最高なものにしたい。平凡なTシャツを10型作るよりも、喉から手が出るような本当にいいTシャツを3型作る方がクールだろ?

WWD:無駄なデザインを生み出さないということでしょうか?

バク:ビジョンを薄めたくない、という言い方が正しいかもしれない。例えばDSMに行くと全てが素晴らしいほどにキュレーションされているが、置いてあるアイテムは各ブランドやデザイナーが作った中の一部なわけだ。それを「アウェイク」は自分たちで完結していると思ってくれればいい。

WWD:DSMGで「カッパ」とのコラボアイテムを世界先行販売していましたが、コラボのきっかけは?

バク:2年ほど前に「カッパ」のほうからアプローチしてきたんだ。ジャージーに“2018”の文字があるのはそれが理由。

WWD:デザインに力を入れたからこそ、発売までに時間がかかったんでしょうか?

バク:それは相手がイタリア人だから、というのは冗談(笑)。単純にいいものを作るには時間がかかるからさ。

WWD:DSMGで先行販売したものの、オンラインでの販売を店頭よりも2週間以上遅らせていました。その理由は?

バク:とにかく日本に来たかったからだから、理由を聞かれると困るな(笑)。まぁ東京で何か特別なことをしたかったし、DSMとはずっと前から良好な関係にあるから、「アウェイク」とDSMのタッグの次の章をスタートさせたかった感じさ。オンラインを遅らせたのは、DSMGを訪れて洋服を直接見て触れてほしかったからだ。

WWD:確かに実際に手に取って初めて、ジャージーに写っている「日清カップヌードル」の文字が「AWAKE」になっていることや素材感に気づくことがありました。

バク:まさにそういうことなんだよ。店頭での販売に限定にすることで顧客は店を訪れる必要があって、服に触れて対話することになる。それに俺としてはDSMをサポートしたい気持ちがあった。お互いをサポートし合うのはとても大切なことだからな。「アウェイク」はまだまだ小規模なものだし実店舗もないから、DSMをサポートすることは俺にとっても意義があることなんだよ。

WWD:店舗を設ける予定は?

バク:できれば来年、ニューヨークに旗艦店をオープンしたいと思っているけどまだ分からない。

WWD:「カッパ」とのコラボと同じタイミングでVERDYとのコラボも発表していましたが、彼とはどういう関係ですか?

バク:1年前に彼のビジネスパートナーのパウロ・ケイル(Paulo Calle)から、ビジネス上のアドバイスがほしいという連絡が来たんだ。俺が彼のメンターのような立場で関係が始まって、あるときVERDYとのコラボの話を持ちかけられたのさ。

WWD:最近はどのブランドもコラボを発表するようになっていますが、コラボそのものについてはどう思いますか?

バク:よく知っている相手かどうかは大事なポイントで、俺の場合はコラボする前に相手のことをよく知りたいと思うんだ。先に友だちになって本当の友情を築いてからやるかどうかを考えたいんだよ。そのほうが絶対にいいものができると信じているから。DSMともただコラボしているわけではなくて、その先にあるつながりや絆が大事だと思っている。これは今のキッズになら伝わると思うんだ。だって彼らにとってコラボはもう何も特別なものじゃないから、買うかどうかの条件に入ってこない。だから自然と関係がつながっていったチーム感やファミリー感のあるコラボのほうが特別感があるし、キッズもそれを感じるから欲しいと思うはずさ。

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