バーゼルのメイン会場
時計業界最大のイベントで世界最大の時計フェア「バーゼルワールド2015」が3月19日から26日まで、スイス・バーゼルのバーゼルメッセで開催された。時計界の名門・老舗から独立時計師まで、スイスだけでも200を超える時計ブランドが集結。宝飾メゾンを加えると288ものブランドが集い、全8日間の期間中には世界中から約15万人もの時計関係者やバイヤー、ジャーナリストが集まった。スイスの時計業界は今、三つの大きな課題に直面している。一つめは今年1月に起きた「スイスフラン高」への対応。二つめは成長から成熟、つまり成長率が1ケタ台に減速した世界市場への対応。そして最後が、“アップル ウォッチ”に象徴されるスマートウオッチの波への対応だ。15年春のバーゼルで最大のトピックスとなったのは、三つの課題の最後、スマートウオッチへの、スイス時計ブランドの積極的な対応だった。
最大の話題はスマートウオッチ
「フレデリック・コンスタント」のスマートウオッチ “オルロジカル・スマートウォッチ”
時計界を席巻する4大グループのうちの2つ、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン グループの「タグ・ホイヤー(TAG HEUER)」と、ケリングの「グッチ(GUCCI)」がバーゼル期間中、スマートウオッチの本格開発を表明した。また、かねてから開発を進めてきた「フレデリック・コンスタント(FREDERIQUE CONSTANT)」や「ゲス ウォッチ(GUESS WATCH)」も発売予定のプロトタイプを展示。「ブルガリ(BVLGARI)」は、セキュリティ機能に特化したコンセプトモデルを発表。さらに「ブライトリング(BREITLING)」はスマートフォンとの通信連携機能を持つパイロットウオッチ、「スワロフスキー(SWAROVSKI)」も運動管理機能を備えたジュエリーを公開・展示した。
200を超えるフェアの出展ブランド数からすれば、積極対応したブランドが7つというのは、ごく少ないかもしれない。だが会場で感じたのは、スイスの時計関係者に広がるスマートウオッチに対する並々ならぬ危機感だった。
その背景にはスイスの民間銀行やシンクタンクが発表した、スマートウオッチがクオーツ腕時計に与える影響に関する予測がある。「今後3〜5年の間に、スイスで販売するクオーツ腕時計2100万本のうち、少なくとも30%、最大で50%はスマートウオッチになる。私たちはそう予測している」とフレデリック・コンスタントのピーター・スターツ最高経営責任者(CEO)は語る。
アプリと連動した「ゲス ウォッチ」のスマートウオッチ
この種の予測を現実として受け止めている人は数多い。「スイスフラン高や需要の減速は、製造技術の進化によるコストダウンと品質改善で対応できる。しかしスマートウオッチに関しては、何もしなければ、日本製クオーツで壊滅的な打撃を受けた1970年代の“二の舞い”になりかねない。市場はまだ小さいが、決して楽観はできない」。商品価格が数万円から十数万円と、価格的に“アップルウォッチ”と競合する時計ブランドの幹部はこう語った。シリコンバレーなど他社との提携か?独自開発か?いずれにせよ、価格帯で競合する時計ブランドのスマートウオッチへの「参戦」は、今後さらに続くだろう。
残る課題は?
とはいえスマートウオッチのおかげで、これまで高級時計に比べると活気に乏しかった数万円から十数万円のスイス時計が面白くなることは、今回のバーゼルでハッキリした。これは、時計業界や消費者にとって間違いなく朗報だ。
ただ、スマートウオッチについては、まだまだ先が読めない。世界最大の時計グループで「スウォッチ(SWATCH)」や「ティソ(TISSOT)」「ハミルトン(HAMILTON)」など、スマートウオッチと競合する価格帯のブランドを持つスウォッチグループの動向が不明瞭だからだ。スマートウオッチは、ビジネスのやり方次第で時計の枠を超えたとてつもなく大きな利益をもたらす。それを考えれば、現時点でのスウォッチグループの対応には疑問が残る。もっと積極的に、例えば「ティソ」など傘下のブランドが、スマートフォンのOSを持つIT企業と提携し、“アップルウォッチ”の対抗モデルを開発してもおかしくない。このグループの動向からは目を離さない方がいいだろう。
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一方、3つの課題の残りの2つ「スイスフラン高」と「低成長時代」についても、スイスの時計業界の対応は進んでいる。
スイスフラン高については、まだ3カ月しか経過していないが、この問題を深刻に語る時計ブランドは少なかった。その理由は、ギリシャのユーロ圏からの離脱も危惧されたユーロ危機が一段落して、1ユーロ=約1.03スイスフラン前後と従来よりは高止まりながら、為替がそれなりの安定期に入ったから。時計ブランドは、すでに現在の為替レートを織り込んでいる。価格改定などのビジネスプランの練り直しは、すでに完了したと言えるだろう。
そしてもう一つの課題、事実上スイスの輸出時計の半分以上を受け入れる中国と関連市場における成長の急減速に始まる世界の時計市場の低成長についても、各社はポジショニングに応じて対策をとり始めた。
今後の狙いは2極化戦略
「ジラール・ペルゴ」のアートウオッチ “ザ チェンバー オブ ワンダーズ”
スイスフラン高の問題で少々霞んでしまったが、今年は、この新しい時代への対応が本格化したことを表す商品が多かった。「お手頃モデル」と「高額な複雑時計やアートウオッチ」だ。各社は成長市場では、スイス時計の「手作り」イメージからは離れるものの、最先端の製造技術でコストパフォーマンスの高い低価格モデルを販売。一方成熟市場では、付加価値と利益率の高い複雑時計やアートウオッチで勝負する。今後は、この2極化戦略をとるブランドが増えそうだ。
スマートウオッチを除けば、もはや腕時計は時代の最先端を行く商品ではない。だがそれでも、人はアクセサリーとして腕時計を求めている。そしてスイス時計は、低価格なものも、高価格なものも、これからさらに魅力的になるに違いない。スマートウオッチに密かに沸いた今年のバーゼルフェアは、時計というアイテムの不思議な魅力を改めて再認識させる催しとなった。
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