「カルティエ(CARTIER)」は、ストックホルムで新作ハイジュエリーコレクション“アン エキリ―ブル”を発表した。また、映画「キャプテン・マーベル」などに出演の俳優、ジェンマ・チャン(Gemma Chan)をアンバサダーに任命した。
ジェンマ・チャンは、「アンバサダーとして、メゾン・カルティエに参加できることを嬉しく思いますし、ストックホルムで披露される並外れたクリエイティビティーとサヴォアフェールの発表の場にいることを光栄に思います。私は長い間、メゾンのクリエイションの美と技巧を素晴らしいと思っていましたので、刺激的なコラボレーションを続けていくことを楽しみにしています」とコメントした。
「カルティエ」のバランス感覚を反映したコレクション
フランス語で、均衡・バランスを意味する“En Equilibre(アン エキリ―ブル)”コレクションは“何事にも節度”という「カルティエ」の精神を表現し、力強いボリュームや色のバランスの調和を目指す同ブランドのスタイルとクリエイションを反映した。
同コレクションは、アルノー・カレズ(Arnaud Carrez)=「カルティエ」チーフ・マーケティング・オフィサーが「意外なものから普遍的なものまで際限の無いボキャブラリーだ」と表現する「カルティエ」のクリエイションにアクセントを加えることになった。またカレズは、「最終的には、常に美と調和の問題なのだ」と語った。
ジャクリーン・カラチ(Jaqueline Karachi)=ハイジュエリー部門「カルティエ」クリエイティブ・ディレクターは、「石を探す段階から製作まで、どの段階においてもバランスが重要だ。視覚的な調和を取り戻し、クリエイションに意味を与え、自然に見せるプロセスには専門性が問われる。完璧に近い印象を作り出すために、われわれは目に見えないものに取り組んでいる」と話した。
カラチのいう“目に見えないもの”とは、細部にまで至る研磨のような、見られることを想定していないディティールのことだろう。あるいは、カラチやハイジュエリーのチームが石と出合うときに感じる「感動と喜びで胸がいっぱいになる魔法のような瞬間」のことかもしれない。
無駄を削ぎ落としたラインのネックレス
“何事にも節度”を体現する“シト”は、一見シンプルに見えるダイヤモンドとエメラルドのラインが前面と背面でクロスし、ドロップ型の49.37カラットの対になったザンビア産エメラルドを垂れ下がるようにあしらった。
ピンクゴールド細工により、ストーンを直接肌に飾ったような印象を与える“ヤラ”には、5.71カラットのオーバルカットのカラーダイヤモンドとサファイアを繊細なグラデーションで配置した。
“パンテール ダントレ”は、274.58カラット相当のコロンビア産エメラルドのビーズをカスケードにし、4カラットのカイトカットダイヤモンドを抱えるパンテール(豹)に向かって、オープンワークでレース状に構成した。
コーラルとアメシストによる力強い構成の“パンテール オルビタル”には、中央のカボションの上にパンテールが佇んでおり、ダイヤモンドとオニキスの毛並みとエメラルドの瞳を持つ。
希少で観測が難しい雪豹にインスパイアされた“ツァガーン”は、カイト、菱形、三角形のカットのダイヤモンドを使用し、見る角度によって雪豹の顔が見え隠れする騙し絵の効果を用いた。
“トラファルト”は、重さとセッティングの向きの異なる八角形のコロンビア産エメラルド3石を中央に配置し、エメラルドとオニキスを全体にあしらった。
孔雀を思わせるデザインの“パヴォセル”は、ブローチとして着用したりチョーカーにつけたりできるよう、取り外し可能な58.08カラットのスリランカ産サファイアのカボションを中央に配置した。また、クラスプのペアシェイプダイヤモンドも取り外してペンダントにつけて使用できる。制作には合計で5700時間を要し、うち4100時間以上はジュエリーの制作だけに費やされた。このネックレスは、シンプルさと複雑に絡み合った隠れた構造のバランスを体現している。
メゾンのハーモニーを映し出すリング
“タテヤ”のデザインは、着物の帯留めの結び目にインスピレーションを得た。6.98カラットのカボションカットのベトナム産ルビーをセットし、包み込むようにリボンを配置した。
“スクド”は、左右対称なダイヤモンドを主役にシールドカットダイヤモンドとオニキスを組み合わせた。
“モトゥ”は、センターの7.8カラットのペアシェイプトルマリンを噴水のようなポートレートダイヤモンドで囲み、ターコイズとクリソプレーズのビーズを配列した。このブルーとグリーンの配色は、“ピーコック・パターン”として知られる、「カルティエ」のシグネチャーなカラーパレットだ。
“ブリオ”は、25.54カラットのルベライトの周りにエメラルドとルベライトのビーズをあしらった。ストーンの上下には、パヴェダイヤモンドを敷き詰めたホワイトゴールドの円形モチーフをデザインし、オニキスのタッチを加えた。
15.35カラットのスリランカ産サファイアをリングの頂点にセットした“アズレホ”は、テーパードカットダイヤモンドとサファイアビーズを交互にあしらった。
アレクサ・アビトボル(Alexa Abitbol)=ハイジュエリー部門 ワークショップ・ディレクターは、約10万時間を同コレクションに費やしたという。アビドボルは米「WWD」に対し、「(同コレクションは、)デザインと技術のバランスという『カルティエ』のビジョンを体現している。ライン、色、密と疎空のバランスを捉えようとしながらも、職人はその熟達した技術とデザイナーのビジョンとを調和させる挑戦をしているのだ」
また、顧客の目には見えなくともジュエリーを制作する上で必要不可欠なのは、伝統的なクラフツマンシップとテクノロジーのバランスだ。
パリにある工房では、石を掘る彫刻師らは、3Dプリンターや高度な精密工具を活用しながら作業をしている。こうしたテクノロジーツールは、デザインのビジョンを起こすのを助けたり、資源が限られている中での反復作業を確実にする。
アビトボルは、「このバランスは、創造性と技術的な実現可能性の限界を押し上げながらも、ハンドクラフトジュエリーの独特な感性を維持する。私が、ハイジュエリーにおける我々のクラフツマンシップは特別で、職人の経験、目、そして感情は代替不可能であると信じているとしても、ここでもまた、バランスの問題になってくるのだ」と話した。