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キャリア女子からミシュランシェフへ転身 「トランクホテル」でアジアの頂点に輝くシェフの美食イベントが開催

「トランクホテル キャットストリート(TRUNK HOTEL CAT STREET)」(以下、トランクホテル)は今年8周年を迎えた。“ソーシャライジング”をコンセプトにしたブティックホテルとして、宿泊者や利用客にユニークな体験を提供。ホテル内のレストラン「トランクキッチン(TRUNK KITCHEN)」は、カジュアルに料理を楽しめるオールデーダイニング。同レストランでは、「エテ(ETE)」の庄司夏子などグローバルに活躍する若手日本人シェフやミシュラン2つ星「カドー(KADEAU)」の ニコライ・ノルガードなど錚々たる料理人をゲストシェフに迎えてきた。2019年以来となる今回イベントでは、23年度の「アジアのベストレストラン50」の最優秀女性シェフに選ばれた「ローラ(LOLLA)」のジョアン・シィを招聘。アジアのソウルフードとフレンチが融合した洗練された美食体験を提供する。シィはプロクター&ギャンブル(PROCTOR & GAMBLE)のブランドマネジャーからシェフへ転身。短期間でアジアのトップシェフに上り詰めた人物だ。男性が多く、競争が激しいガストロノミーの世界で成功した彼女に話を聞いた。

30歳前に飛び込んだガストロノミーの世界

シィは中国人3世としてフィリピンで生まれた。大学でビジネスを学び、シンガポールで7年間マーケティングを担当していた。大企業で働きながら、料理を友人に振る舞うのを楽しんでいたが、「9時5時の会社勤務だけでなく、人生にはもっと選択肢があるはず」と30歳直前にシェフになることを決意した。シィは、「シェフは体と心の両方を感動させるユニークな仕事。私にとって料理とは、魂との会話のようなもの。素材の物語を料理を通して語るシェフという仕事に人生をかけてみようと思った」と話す。

彼女は会社を辞め、貯金でニューヨークに渡り調理学校でフレンチを学ぶ。幼少の頃からフィリピンでシーフードを食べて育った彼女が修行に選んだのは、ミシュラン星付きフレンチ「ル ベルナディン(LE BERNARDIN)」や「カフェブールー(CAFÉ BOULUD)」といったシーフードの名店だ。これら誰もが知る名店を選んだ理由は、「皆、10代の若い頃からシェフを目指して修行する。10年も年上の私が腕を磨くには、世界最高の店に入るしかないと考えた」と話す。調理場は男性社会で、女性にとっては体力的にも厳しい。小柄なシィだが、男性の若いスタッフに負けるものかと必死に頑張ったという。

北欧の名店を経てアジアの女性シェフの頂点に

その後、シンガポールのレストランを経てデンマークの「ノーマ(NOMA)」やスウェーデンの「ファビケン(FAVIKEN)」で研鑽を積んだ。シィは、「当時、北欧はトップクラスのレストランで注目を集めていた。気候が厳しく食材にも制限がある場所だから、より季節感を大切にクリエイティブにならざるを得ない点も魅力だった」と語る。16年にシンガポールに戻り、「ローラ」のオーナーシェフとしてアジア料理のエッセンスを融合した地中海料理を提供している。

「ローラ」は、22年から「アジアのベストレストラン50」にランクイン、23年には、シィはアジアの最優秀女性シェフ賞に輝く。昨年には、ミシュランガイドにも掲載された。「フィリピンの海辺の小さな町に生まれ、シンガポール、ニューヨーク、北欧と世界中の素晴らしいシェフから学んだ私の人生の旅路を料理で感じてもらえれば」とシィ。

世界的な女性シェフとして認められたシィに、シェフに必要な素質を聞くと、「独創性、根性、寛容な精神、そして、頭を低くして一生懸命働く力だ」という。「シェフは、完成形である料理以外、シェフの仕事は表立って見えないもの。シェフの役割は、ひたすら、料理をデザインして完成形としての一皿をつくることだ」。司令塔であるシェフの勤務時間は16〜20時間に及ぶこともある重労働だが、それも変わりつつある。「全てを自分でやるのではなく、スタッフにそれぞれの得意分野は任せる。お互いに助け合うことで、より良い料理を作ることができる」とシィ。男性中心のシェフの世界でも、技術革新が進み、女性や新しい世代が増えることで変化が起きている。

極上の素材と風味の計算し尽くされたレイヤード

親日家のシィは毎年来日するという。昨年「トランクホテル」に滞在したのがきっかけで、ダイニングイベントの開催が決定した。イベントでは、特別コースを提供。シィは、「渋谷や若者が多い町。若い人にも気軽に料理を楽しんでほしい」とアラカルトメニューも加えた。コースは6皿。中トロやウニなど日本の食材を使用し、フィリピンの食文化とフレンチが融合した独創的な料理は、酸味と甘味、辛味のバランスが抜群で、初夏にぴったりだ。シィがフィリピンのルーツにこだわるのは、各文化の伝統を保ちたいという思いから。「手間のかかる伝統料理を伝えていかないとやがて消えてしまう。私たちのアイデンティティの土台となるものだ」。

フィリピンの屋台料理である“ピアヤ”は、ホタテにフォアグラやトリュフを組み合わせ、ココナッツ、ライム、ハラペーニョで各素材の風味を引き出している。シグニチャーのウニの“フィデウア”はスペインの郷土料理がベース。イカスミで炊いたアルデンテのパスタと濃厚なウニにかすかなライムの香りが加わり、シーフードの旨味を閉じ込めた絶品だ。全ての料理では、組み合わせた素材一つ一つの風味が引き立ち、見事に調和している。その繊細で計算し尽くされた味のレイヤードには感動した。彼女が考えるシェフの役割とは、食材が持つ自然の魔法を最大限に表現すること。食材を自分のルーツや育った環境、人生経験、価値観という自分のレンズで解釈するのが仕事だという。非常に洗練された味わいの特別コースには、シィの確かな腕と細やかな感性、故郷へのリスペクト、アジアの女性シェフの頂点に立ったプライドが表れている。

イベントの会期は5月25日まで。24、25日は、ランチとディナーでコースを提供する。料金は2万2000円。ドリンクのペアリングもあり、ワインペアリングが8000円、ナチュラルワインペアリングが1万5000円、ノンアルコールペアリングが6000円。電話または、専用サイトで予約を受け付ける。

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