
名作フレームを数多く生み出し、時代のアイコンを魅了し続けるアメリカのアイウエアブランド、「モスコット(MOSCOT)」。創業者のハイマン・モスコット(Hyman Moscot)がNYのオーチャードストリートにて手押し車で眼鏡を販売したことから歴史が始まり、1915年にロウワー・マンハッタンに1号店を構え今年で110年目という節目を迎えた。
ブランドがこれまで守り続けてきたものとは、そしてこの先をどう見据えているのか。4代目の経営者であり、オプトメトリスト(検眼医)の資格をもつハーヴェイ・モスコット(Harvey Moscot、写真右)と、5代目で工業デザイナーのザック・モスコット(Zack Moscot、写真左)のふたりに話を訊いた。
現在も“街の眼鏡店”であり続けるために
ーー「モスコット」がオリジナルフレームを手掛け始めた1930年代からこれまで、大資本のアイウエアグループに統合されることなく独立経営を貫けた秘訣とは?
ハーヴェイ・モスコット(以下、ハーヴェイ):今日に至るまで、我々が家族経営の企業であり続けることを誇りに思っています。それは容易なことではありませんが、おかげで私たちは自社の価値観に忠実であり続け、「モスコット」を象徴するクラフツマンシップとサービスを維持することができているのです。2代目のソル・モスコット(Sol Moscot)は「人々を公平に扱えば、彼らはまた店に戻ってきてくれます」という言葉を残しました。これは非常にシンプルで、正しいことを行い、高品質のアイウエアを提供し、記憶に残る顧客体験を確実に提供することにつきます。こうした姿勢、お客さまとの信頼関係こそが「モスコット」を形作り、手押し車による行商から世界的な存在へと成長させたのです。
定番は我々を支え
新作は我々を前進させる
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ーー1950年代に発表されたウェリントン、“レムトッシュ(LEMTOSH)”を筆頭に、「モスコット」の名作は今も人気が高い。
ザック・モスコット(以下、ザック):これら定番の魅力は、時代を超越したデザインであること。ブルージーンズや黒のカクテルドレスのように、いつの時代も流行遅れになることはありません。
ーー過去の名作と新作の棲み分けは。
ザック:“レムトッシュ”は時代を超えた傑作ですが、“ダーベン(DAHVEN)”や“ドルト(DOLT)”といったモデルは、まさにブランドの“今”を反映しています。クラシックは我々を支え、新しいモデルは我々を前進させる。役割は違いますが、共通しているのはブランドのDNAに忠実なものであるということ。つまり、独自のデザイン要素、正確なフィット感、卓越した職人技を感じるものであることです。
ーークラシックデザインがアウトトレンドになっている現状は「モスコット」にとって逆風なのか。
ザック:現在アイウエアは、トレンドよりも“自分の個性を表現するもの”であるかが重要視されています。人々が気分やシーンに合わせ複数本持つようになった今、バランスのいいワードローブには往々にしてクラシックなアセテート、モダンなメタル、そしてその時々のトレンドアイテムが含まれています。この変化は、「モスコット」の時代を超越した魅力を再確認するチャンスでもあります。
100周年からの10年
そしてこれから
ーー2015年の創立100周年以降、この10年間「モスコット」はどんな取り組みをしてきたのか。
ザック:この10年間「モスコット」は先人たちの価値観を尊重しながら、デザイン、テクノロジー、コミュニケーションの革新に注力してきました。才能あるアーティストや写真家とコラボレーションしAIも活用しますが、私たちはAIを使って未来を描くのではなく、「モスコット」110年の歴史を12枚の画像で視覚化しました。NYの街と、街を作ってきた「モスコット」のスタイルの変遷をリアルに感じることができます。
ーー近年は主にアジア、ヨーロッパにおいて店舗を拡大中。なかでも日本はアメリカ国外ではもっとも多い5店舗を展開だが、日本で人気の理由とは。
ハーヴェイ:私たちの目標は、ブランドのストーリーや伝統、クラフツマンシップを評価してくれるファンの方たちとともに、あくまで慎重に成長していくことです。職人技や伝統を重んじる日本の文化は、家族経営の企業として先人に敬意を示す「モスコット」の価値観と親和性があります。そのため、日本市場に自然にフィットするのだと考えています。
最新作にも貫かれている
ブランドの核とは
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ーー最新作となる2025年春夏のコレクションは、2代目ソルの知人や親戚のストーリーをもとに作られているのが特徴。
ハーヴェイ:今作に限らず、私たちのデザインのインスピレーションの多くは、2代目である祖父と父が共有していた物語から得ています。私たちはよく「お客さまがフレームを掛けるのであり、フレームがお客さまを掛けるのではない」と言っています。過去のスタイルだけでなく当時の人達がどう掛けていたのかといった、個性や背後にあるストーリーのほうが重要になることもありますね。
ーー今シーズンのイメージビジュアルには、ザック氏本人も登場。「“DESIGNED BY MOSCOT”(モスコットはモスコットによってデザインされている)」と大きなメッセージを掲げている。
ザック:ブランドを運営する5代目として、そしてデザイナーとして、今でも「モスコット」が家族経営のブランドであることを強調することが重要だと考えました。この言葉は、ブランドの核が揺るぎないものであることを改めて認識させてくれます。
ーーでは、時代が変わってもブレることのない「モスコット」らしさとは。
ザック:The “LEMTOSH”(それは、“レムトッシュ”そのものです).
モスコット トウキョウ
03-6434-1070