サラ・バートン(Sarah Burton)=アーティスティック・ディレクターによる新生「ジバンシィ(GIVENCHY)」のデビューは、2025-26年秋冬パリ・ファッション・ウイークにおける最大のニュースだ。バートンは3月7日、自身初の「ジバンシィ」のコレクションを、1959年からのメゾンの本拠地であるジョルジュ・サンク通り3番地のサロンで発表。それは、彼女が90年代後半、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)が「ジバンシィ」のトップを務めていたとき、共に働いた思い出の場所でもある。初のコレクションは、近年のゴスやストリートへの傾倒をリセット。本懐であるシルエットに立ち返り、会心の出来栄えだった。すでにセレブリティーのレッドカーペットも手掛けており、オードリー・ヘプバーン(Audrey Hepburn)らと蜜月だったユベール・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)を彷彿とさせるメゾンへと再興しつつある。“眠れる森の美女”が覚醒した。
着想源は1952年の綿織物

「ジバンシィ」のクリエイションを託されたバートンはまず、アーカイブのリサーチに没頭。そしてユベール・ド・ジバンシィ最初のメゾン、アルフレッド・ド・ヴィニー通り8番地の邸宅にある隠し戸棚の中から改装の際に発見された、1952年のファースト・コレクションの一部を成す綿織物のパターンをインスピレーションの源にしたという。バートンはユベール・ド・ジバンシィがマネキンに生地を当てながら理想のシルエットを追求した姿を思い浮かべ、「『ジバンシィ』は、一言で言えばシルエット。理想のシルエットのために追求するパターンとカッティング、クラフツマンシップにこそ立ち戻るべき」と悟った。そして近年のゴスやストリートなどのムードを削ぎ落とし、パターンとカッティングに尽力。それぞれ計3回のモデルフィッティングというオートクチュールに匹敵する過程を経て、ジョルジュ・サンク通り3番地にある「ジバンシィ」の現在の本拠地で、シルエットへのこだわりを見せつけた。会場の椅子は、綿織物が入った茶封筒が見つかった時の様子を再現したもの。歴史を積み重ねて今日に至った「ジバンシィ」へのリスペクトなのだろう。
フィッティングへの徹底したこだわり
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デビューコレクションは、メッシュで作ったボディースーツで幕を開けている。構造を詳らかにするメッシュ素材だから一切の誤魔化しが効かない。セカンドスキンのように“シンデレラ・フィット”するボディースーツでの幕開けは、パターンとカッティング、そしてフィッティングに徹底的にこだわったバートンの自信の表れに他ならない。女性の体こそ、一番美しいシルエットという思いも込めているのだろう。
「現代女性の全てを表現したい。強さや繊細さ、感情的な知性、パワフルでありながらセクシーであること、その全てを」と話す通り、バートンはテーラリングを軸に、メンズ由来の技術をウィメンズのシルエットに活用して、相反するものの融合に挑んだ。たとえばジャケットやコートは、ショルダーラインが力強いのに対して、ウエストは緩やかにくびれて優しい。覆い隠した前面に対して肌を露出する背中、レザースカートの後ろに深く刻んだスリットなどは、フォーマルのムード漂うコレクションの中で官能的な雰囲気を醸し出す。
ユベール・ド・ジバンシィへのオマージュも忘れない。オードリー・ヘプバーンも愛したリトル・ブラック・ドレスは、シャンティレースを使ったマイクロミニのベビードールドレスで提案。軍服由来のトレンチコートなどには、コクーンバックと呼ぶふんわりと広がるシンボリックなシルエットを盛り込んだ。白シャツは片方の肩でプリーツを寄せながら生地を垂らし、裾はアシンメトリーに仕上げてドレスに昇華。昨今のウィメンズに欠かせないヘルシーやアクティブ、自然体なのにエレガントな雰囲気を纏わせた。
イヴニングも圧巻だった。ユベール・ド・ジバンシィが多用したリボンやノットのアイデアで、オリエンタルなボタニカル刺しゅうを加えたダッチェスサテンを操り、ドラマチックなシルエットに仕上げていく。チュールのフリルやねじれたリボン、フェティッシュなコーンヒールのミュールやサンダル、パンプスもクチュールメゾンの品格を備えた。
“メゾンの核となるシルエットに
立ち戻ろうと考えた”
WWD:初のコレクションを制作するにあたり、どのようなことを考えたか?
サラ・バートン「ジバンシィ」アーティスティック・ディレクター(以下、バートン):私にとって、「ジバンシィ」のDNAはシルエット。それ以外の全てを削ぎ落とすことで、このメゾンの核となるものに立ち戻ろうと考えた。
WWD:アーカイブとはどのように向き合っているか?
バートン:「ジバンシィ」にはヘリテージ部門に素晴らしい女性の責任者がいて、彼女はこのメゾンでこれまでに起こったこと、例えば、手紙や写真、パターンなどのあらゆるものを集めているの。信じられない程のアーカイブで、正直まだ全てには目を通せていないけれど、まずユベールの最初のコレクションを見るところから始めた。それは、無駄を削ぎ落としてシルエットにフォーカスしたもので、かなりヒッチコック的でもあった。そこからスタートしたものの、プロポーションにひねりを加えたり、大胆に拡大したりして、現代の女性に響く服になるよう工夫した。
WWD:今回のコレクションには、化粧品のコンパクトやパウダーパフをモチーフにした装飾など、意外なユーモアも見られた。
バートン:今の世界には、ちょっとした楽しさが必要かもしれないと思ったの。私が取り組みたかったのは、私が服を手掛けたり、一緒に仕事をしたりするあらゆる女性たちに語りかけること。だから、このコレクションでは現代を生きる女性の全てを表現したかった。女性には、セクシーだと感じたい瞬間もあれば、力強さを感じたい場面もあるし、もろさや繊細さを感じたい時もある。そんな女性であることの複雑さをたたえるのは本当に素晴らしいことだと思う。
WWD:英国を代表するデザイナーズブランドからフランスの有名なクチュールメゾンへ移籍したが、心境の変化は?
バートン:どこにいても、自分自身のストーリーを語らなければならないということは同じ。そのメゾンが象徴するものを確立することは重要だけど、私たちが生きている今の世界に何を伝えたいのか、人々にどう感じてほしいのかということを、感情や信頼をもって解釈することが大切だと思う。
WWD:いずれはクチュールも手掛けたいと語っていたが、具体的な計画は?
バートン:私にとってはアトリエが全て。なので、まずは揺るぎないアトリエを確立したい。ゆくゆくは「アレキサンダー・マックイーン」時代に取り組んでいたような学生向けのパターンカッティングなどのワークショップにも取り組みたい。クチュールを手掛けたい気持ちはあるけれど、それはふさわしい時期が来たらと考えている。
レッドカーペットの世界も
バートンの「ジバンシィ」に注目
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サラ・バートンによる「ジバンシィ」はパリ・ファッション・ウイークに先駆け、レッドカーペットの上で早くも注目を浴びていた。女優のエル・ファニング(Elle Fanning)は3月2日(アメリカ時間)、バートンによる「ジバンシィ」のドレス姿でアカデミー賞のレッドカーペットに登場。フランス・リヨンのレースとシルクのチュールを贅沢に用い、ブラックのグログランリボンとコルセットでウエストを緩やかにマークしたドレスは、パパラッチの注目を集めた。バートンは、ユベール・ド・ジバンシィが1952年に作ったドレスに着想源を得たという。同じ会場には、ティモシー・シャラメ(Timothee Chalamet)もバートンがデザインしたカスタムメードのレザースーツ姿で登場。鮮やかなバターイエローは、25-26年秋冬コレクションを彷彿とさせる。
ジバンシィ ジャパン
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