ビューティ

資生堂30年以上の肌免疫研究から生まれた世界初※1の最新知見とは

資生堂とサイエンスは切っても切り離せない。100年超の研究開発の歴史の中で、シワやシミ、たるみといった生活者の 不変の肌悩みに向き合うとともに、肌内部の状態に着目。ホリスティックなアプローチにつながる成果を生み出している。とくに肌免疫研究では世界で初めて※1皮ふの免疫細胞の一種CD4CTL※2(メモリーT細胞※3)が“老化細胞”を的確に除去することを発見した。

資生堂が取り組む肌内部研究の正体

資生堂は2021年に研究開発の強化を目的に、独自の研究開発理念として「DYNAMIC HARMONY」を制定した。この理念は明治期に日本発の民間洋風調剤薬局として創業して以来取り組んできた、西洋の科学と東洋の叡智を融合した成り立ちに端を発する。根本治療と対症療法、漢方と施術、心と体。一見相反する価値や両立が難しい価値を融合し、唯一無二の新たな価値を生み出す資生堂ならではの考え方だ。この理念のもと皮ふ基礎研究の再強化を始め、グローバルブランドに研究成果を導入。各研究拠点の連携強化やインナービューティなどの新領域への挑戦に取り組んできた。

さらに資生堂の研究開発では、「SkinBeauty INNOVATION」、「Sustainability INNOVATION」、「Future Beauty INNOVATION」という3つのイノベーションの柱と、「脱単一カルチャー」というアプローチを戦略として策定した。柱の1つである「Skin Beauty INNOVATION」では、シワやシミ、たるみといった生活者の不変の肌悩みの原因解明・ソリューション開発と同時に、血管やリンパ管、免疫、神経など肌内部の状態と肌表面の関連を明らかにすべく研究を進めてきた。とくに肌内部研究は世界トップレベルの研究機関との多岐に渡る共同研究を推進。化粧品技術に関する世界最大の権威ある研究発表会IFSCCでは化粧品メーカーでは世界トップの受賞回数を誇る。

資生堂の肌内部研究
化粧品技術に関する世界最大の研究発表会
「IFSCC」世界トップの受賞実績

肌のポテンシャルを引き上げる
未来の肌悩みを防ぐ肌免疫研究

肌内部研究の中でも、近年大きなブレイクスルーが生まれているのが免疫研究だ。皮ふの免疫機能が老化を予防している可能性を発見し、生命科学分野において世界最高峰の学術雑誌「CELL」に研究成果が掲載されたのだ。資生堂は「肌自らが持つ力で未来の肌悩みを未然に防ぐ」という考えのもと、30年以上前から免疫研究に取り組んでいる。
加治屋健太朗 資生堂みらい開発研究所 シーズ開発センター センター長は、「新たな知見は『CELL』 に掲載されたが、実は30年前に英国発の総合科学誌 『Nature』に掲載された知見もある。それは肌の中に ある免疫細胞が神経と直接つながっているという研究 だった。神経を通じて肌と脳がつながっているという ことは、肌と心がつながっているということ。今では 当たり前のように言われているが、研究レベルで実証 した初めての例だった。このことからも分かるよう に、肌を肌だけで捉えないというのが、30年前から変 わらないわれわれのホリスティックな考え方である。 全身との接点である免疫をひもとき、自分の持つポテ ンシャルを生かすという視点で研究を進めている」と 話す。資生堂は独自の技術と免疫研究を各国の権威あ る先進的な外部研究機関とコラボレーションしなが ら、継続的な成果を生み出し続けている。

3つの見えないものを見える化
肌の美しさを取り戻すアートなアプローチ

化粧品メーカーである資生堂がこれほどまでに基礎研究である肌内部研究に力を入れるのはなぜか。同社の研究領域をリードする加治屋健太朗 資生堂みらい開発研究所 シーズ開発センター センター長に聞いた。
WWD:資生堂が肌内部研究に力を入れているのはなぜ。

加治屋健太朗 資生堂みらい開発研究所 シーズ開発センター センター長(以下、加治屋):私たちは肌悩みを肌表面から対症療法的に治すのではなく、内側から自分の持つ力を最大限に生かしてケアしたいという東洋的な発想から研究を進めている。肌は目に見える表面だけでなく、表皮と真皮があり、さらに血管、免疫、神経が張り巡らされ、全身とつながっているからだ。肌の内側への強い興味を持ち、見えないものを見える化するというユニークな研究アプローチは強みだ。免疫研究もその一つだ。

WWD:見えないものの見える化について詳しく教えて。

加治屋:肌表面だけでなく、肌内部に加え、体、心、そして未来という見えないものの見える化を目指している。冒頭でも触れたが肌においては、免疫や血流、神経といったものを見える化すること。われわれの技術によって、血管や神経が全身と肌をつなぐとても美しい構造を持つ三次元的なネットワークを形成していることが可視化できるようになった。心に関しては、例えば化粧品は肌だけでなく、目には見えないが心にも作用すると言われる。そこで化粧品を使ったときの心の状態を可視化するための技術を開発している。未来については、シワやシミ、たるみといった今見えるものを改善することがメインストリームではあるが、肌・体・心のつながりを解明し、未来が見えれば予防がかなうはずだ。

WWD:肌の見える化の中でも30年以上にわたって取り組んでいる免疫研究とは。

加治屋:全身との接点という意味や、もともと持っているポテンシャルを生かすという意味で免疫に注目し、長らく研究してきた。そもそも免疫とは「疫(やまい)」から「免(のがれる)」と書くように、外敵から身を守るシステムのこと。一般的にいう免疫は全身に共通するものと、臓器によって局所的に異なるものがある。とくに肌の免疫には花粉やPM2.5、紫外線などの外敵に備える必要があり、ほかの器官の免疫と大きく異なる。

WWD:新知見に至った経緯は。

加治屋:「肌は本当に加齢によってのみ老化するのか」という基本的な疑問があった。20代と60代を比較すれば年齢と老化との相関はあるものの、老齢の皮ふでは分かっていなかった。研究を進める中で、免疫細胞が関係することが明らかになった。免疫は外敵からの逃れるために存在しているため、生体内で老化に対してそれほどの意味を持つとはこれまでは考えられていなかった。ところが今回の発見では、免疫細胞が老化細胞を皮ふにとって異物・不要なものと認識していることが明らかになった。この点が一番面白く、インパクトが大きかった。

WWD:今後の免疫研究の展望は。

加治屋:自らが持つ美のポテンシャルを免疫研究を通じて伝えていく。資生堂には「アート&サイエンス」というDNAがある。三次元的に肌の内部の構造を可視化したとき、研究員はサイエンスの中にアートを感じるはずだ。三次元の皮ふ構造をアートとして捉えると老化などの変化によって乱れた肌内部の美しさを免疫研究で取り戻すことは、結果的に肌の美しさにつながるだろう。

明らかになった肌免疫細胞が
老化細胞を除去するメカニズム

皮ふの免疫細胞の新たな機能として、老化細胞を除去することと、そのメカニズムを発見した。“年齢を重ねた肌には老化細胞が多いはず”という多くの人が抱くイメージを覆す新たな発見に注目が高まっている。

発見1 : 老齢の皮ふでは
老化細胞と年齢は相関しない

Hasegawa T et al.,Cell. 2023(一部改変)
ヒトの皮ふ組織において、加齢とともに老化細胞が蓄積されるかどうかを調査した結果、若齢の皮ふと老齢の皮ふを比べると、老化細胞が必然的に増加していた。一方で、老齢の皮ふだけを見てみると、加齢に伴って老化細胞は必ずしも増加していないことが分かった。このことから、老齢における老化細胞の蓄積は、なんらかの要因によって抑えられている可能性が浮かび上がった。

発見2 : 免疫細胞の一種CD4CTL(メモリーT細胞)が
多い皮ふほど老化細胞は少ない

Hasegawa T et al.,Cell. 2023(一部改変)

老齢の皮ふでは加齢にともなって老化細胞は必ずしも増加しないという発見から、老齢の皮ふにおいて老化細胞の蓄積を抑える要因を探った。すると老齢の皮ふでは免疫細胞の一種であるCD4CTL(メモリーT細胞)が多いほど老化細胞が少ないということが判明した。このことからCD4CTL(メモリーT細胞)が老化細胞の蓄積を抑えている可能性が浮かび上がった。

発見3 : CD4CTL(メモリーT細胞)が
老化細胞を選択的に除去する

実際にCD4CTL(メモリーT細胞)が老化細胞を除去できるかどうかを調べるため、正常な線維芽細胞(正常細胞)と老化した線維芽細胞(老化細胞)をヒトの皮ふから分離した免疫細胞とともに培養したところ、CD4CTL(メモリーT細胞)によって、老化細胞が選択的に除去されることが確認できた。

発見4 : ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)が
CD4CTL(メモリーT細胞)の老化細胞除去を助ける

次にCD4CTL(メモリーT細胞)がどのようなメカニズムで老化細胞だけを除去するのかを探った。その結果、老化細胞内に共生しているヒトサイトメガロウイルス(HCMV)というウイルスの一部(抗原)が老化細胞の表面に出現し、CD4CTL(メモリーT細胞)がその抗原を目標として認識することで老化細胞を除去していることを発見した。

Solution : ツバキ種子発酵抽出液が
肌免疫細胞の老化細胞除去効果を高める

資生堂は長崎県五島列島に古くから自生するヤブツバキ資源を有効活用するために、日本酒造老舗のヤヱガキ酒造と日本の発酵技術を掛け合わせて、ツバキ種子発酵抽出液を開発した。そしてこのツバキ種子発酵抽出液が皮ふの老化細胞を除去する機能をもつ免疫細胞CD4CTL(メモリーT細胞)を誘引するCXCL9※4の発現を高めることを世界で初めて※5発見した。つまりはツバキ種子発酵抽出液によって皮ふの免疫細胞による老化細胞除去効果が高まることが期待される。
※1 細胞傷害性CD4+ T細胞がサイトメガロウイルス抗原を標的として老化細胞を除去するCell誌(2023年)
※2 Cytotoxic CD4+ T細胞(CD4CTL):T細胞の一種で、理想的な健康長寿のモデルとされる超長寿者に多い免疫細胞であることも知られている
※3 免疫細胞であるT細胞は病原体などの異物と遭遇し役割を果たすと、多くは死滅するが、体内に一部が残り、再感染や再発に備えて記憶し、同じ異物に対して迅速で強力な免疫応答をするのがメモリーT細胞である
※4 免疫細胞などの細胞の遊走を促進するタンパク質
※5 ツバキ種子発酵抽出液が肌の健やかさに重要な表皮因子(免疫細胞CD4CTLを誘引する因子)CXCL9の発現を促進する技術が世界初 先行技術調査を用いた資生堂調べ(2024年3月)
このページの内容は全て技術に関する情報です。
EDIT&TEXT:NATSUMI YONEYAMA
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資生堂
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