ファッション

単なるファッションブランド以上の存在に 「ニューバランス」の最新コラボレーター「ブリックス&ウッド」

10月18日、「ニューバランス(NEW BALANCE)」と米ロサンゼルスのサウス・セントラルを拠点とするブランド「ブリックス&ウッド(BRICKS & WOOD)」の3作目のコラボスニーカー“1906 ユーティリティ エコーズ オブ ア バタフライ(1906 UTILITY ECHOES OF A BUTTERFLY)”が、日本国内で発売を迎えた。

この前日、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)は「ブリックス&ウッド」のブランドチームを日本に招へいし、関係者や友人を招いた発売記念朝食会を7階に併設するカフェ「ローズ ベーカリー(ROSE BAKERY)」で開催。この日のためだけに考案されたスペシャルメニューが振る舞われ、参加者たちは東京とロサンゼルスの太平洋を越えた交流を楽しんだ。そして、朝食会を終えて満足気な様子を見せていたファウンダーのケイシー・リンチ(Kacey Lynch)とCOO兼デザイナーのダニ・バラザ(Dani Barraza)にインタビューを敢行。「ブリックス&ウッド」の設立経緯から、「ニューバランス」とのコラボのきっかけ、今作の制作秘話、そして2人が気になっていることまで、たっぷりと話を聞いた。

単なるファッションブランド以上の存在に

ーーまずは、「ブリックス&ウッド」というブランドのイントロデュースからお願いしたく、設立経緯を教えてください。

ケイシー・リンチ(以下、ケイシー):「ブリックス&ウッド」は、俺がファウンダーとして2014年にカリフォルニア・ロサンゼルスのサウス・セントラルで設立したブランドで、ストーリーをきちんと語ることのできるプロダクトが作りたいという思いがベースにある。というのも、設立以前に某ストリートブランドで働いていたんだけど、ファッション業界はモノを作って売ることばかりが先行していて、属しているカルチャーやコミュニティーへの恩返しの気持ちをはじめ、愛情や感動などが欠けていると思うことが多かったんだ。だから、何かモノを作ることでカルチャーやコミュニティーに還元しながら俺たちの気持ちも伝えられる、ストーリーのあるプロダクトを作り始めたのさ。今、「ブリックス&ウッド」では「こういう背景があるから作った」と説明できないアイテムは一切販売していない。俺たちは大人数で動いているチームではないが、誰もがクリエイターであり、ファンのエデュケートを考えながら取り組んでいるよ。

ーー単なるファッションブランド以上の存在ということですね。

ケイシー:まさに。まぁ、いまだにブランドとはどういう場であるべきか考えているけどね。少なくとも“モノを作り売った”、そんな取り引きだけで終わるようなブランドにはしたくない。買ってくれたファンが、「『ブリックス&ウッド』を身に付けている」だけでなく「こんな気持ちになれるんだ」とまで周りに言えるような、ブランド以上の大きな存在を目指しているよ。

ーーブランド名にも、同様の思いが込められているのでしょうか?

ケイシー:「ブリックス&ウッド」はストーリーが大事だからね、ちゃんと背景があるよ。由来をかいつまんで話すと、俺がもっとも影響を受けてきた人物でありメンターでもある父親が、ある日、自分の車の上に葉っぱが落ちてきた話をしたんだ。ちょうどその頃、俺は自分のブランドを立ち上げる準備をしていて、「ブリックス&ウッド」をブランド名の候補として考えていた。それで、彼から「葉っぱは美しく、質感や手触りも良い」と聞いて、木であれ、花であれ、石であれ、命を生み出す自然の源こそブランド名に最適だと気付いたんだ。父親に相談したら「いいじゃないか」と承認が下りたから、帰宅するなりインスタグラムやタンブラーといったSNSを開設したよ。ただ、「ブリックス&ウッド」と耳にした時、どう感じてもらっても問題はなくて、それぞれの感覚に任せている。俺個人としては、単純に音の響きも好きだね。

「『NB』は、レーダーの外側にいるブランドだった」

ーーここからは「ニューバランス」とのコラボについてお伺いしたいのですが、どのような流れで21年に初協業が実現したのでしょうか?

ケイシー:とてもありがたいことに、共通の友人を通じて「ニューバランス」からアプローチがあったんだ。正直に言うと、当時ロサンゼルスで「ニューバランス」を履いている人は全然いなくて、いわゆるレーダーの外側にいるブランドという認識だったから、コラボの話を聞いてもエキサイティンな気持ちにならなかった。でも裏を返せば、「ニューバランス」がロサンゼルスのスニーカー勢力図を塗り替えられる余白があったということ。思い返すと良いタイミングだったし、俺たちが成長するきっかけにもなったね。もちろん、今では毎日履いてるよ(笑)。

ダニ・バラザ(以下、ダニ):ケイシーの言う通り、ロサンゼルスで存在感を確立していない「ニューバランス」と手を組むことで、お互いがワンランク上の階層にいけると思っていたから、結果的には大成功だったね。今じゃ、どこもかしこもだけど(笑)。

ーーその中で、3作目のコラボモデルとして“1906 ユーティリティ エコーズ オブ ア バタフライ”を発表されましたが、モデル名にも入っている“バタフライ”を着想源とした理由を教えてください。

ダニ:まず、「ニューバランス」と“1906 ユーティリティ”をベースにコラボすることが決まったんだけど、「何かカッコいいものを作らなきゃいけない」というプレッシャーがあったし、普段デザインする場合はストーリーや背景をベースにしていることもあって、思うようにプロジェクトが進まなかったのね。でもある日、ケイシーと仕事の話をしていたら目の前にチョウが止まって、「こうして私たちが話している小さなことも、思いがけない大きなことにつながるかもしれないよね」と、バタフライエフェクトの話になった流れでチョウを着想源にしたの。

ケイシー:コラボモデルのデザインをする時間が無くて焦っていたのに、まさか飛んできたチョウから全てがスムーズに進むとは思わなかったよ。

ーーロサンゼルスには、こんなにも鮮やかなチョウがいるんですか?それとも、飛んできたチョウと着想源としたチョウは別種ですか?

ケイシー:話をしている時に飛んできたのは、ロサンゼルスによくいるオオカバマダラで、着想源にしたのは別種だね。

ダニ:チョウについてリサーチしている中で、“世界でもっとも美しい鱗翅類(りんしるい)”と称されるマダガスカルサンセットモス(和名:ニシキオオツバメガ)というマダガスカル島にしかいない固有種を見つけて、正式に着想源をチョウにすることになった感じ。マダガスカルサンセットモスは、正確にはチョウじゃなくてガなんだけどね(笑)。

ーー全体のカラーリングはマダガスカルサンセットモスが由来で、それぞれのカラーごとに異なる素材を採用しているんですね。

ダニ:そうなの。メッシュ地のトゥのアンダーレイでバタフライエフェクトを、リップストップ生地のサイドパーツで虫取り網を、レザー地のダブルアイレットにドットをあしらうことでチョウの羽模様を、湾曲したプラスチックパーツのヒールでチョウが水の上を羽ばたいた時にできる波紋を表現していて、クイックシューレースの先端もあえてバラバラにすることで、チョウの触覚をイメージしたわ。あとは、右足のサイドにだけ「ブリックス&ウッド」のブランド名をあしらっているのがポイントかな。

ーー本作をはじめ、これまで「ニューバランス」と3つのコラボスニーカーをデザインしてきましたが、重要視してきたことはなんでしょうか?また、普段のアパレルのデザインフローとは異なるものでしたか?

ケイシー:最高の質問だね!普段アパレルをデザインするときは、まずダイレクトにリーチできる地元サウス・セントラルのコミュニティを想定し、どうストーリーテリングするかを考えているけど、スニーカーに関してはそもそもの畑が違う。そして、「ニューバランス」にはオリジナルのファンがいるわけだ。彼らは、俺たちが普段接しているような層とは異なり、おそらく世界各地の一般大衆に近いと思う。だから、「日本人やフランス人は、俺たちがデザインしたスニーカーを気に入ってくれるかな」といった具合に、今まで考えていなかったロサンゼルスを離れた視点が必要になったんだ。要するに、コンフォートゾーンから抜け出して、オープンマインドにならなければいけない。それに、スニーカーというアイテムの特性上、独特のこだわりやスタイルを持ったヘッズとナードが多いから、そこの新たな知見も必要だったね。

ーーということは、「ニューバランス」との3度のコラボを経て「ブリックス&ウッド」での仕事にも変化はありそうですね。

ケイシー:方向性も、働き方も、俺個人も100%変わったと言って過言ではないね。ビジネスのスケールが圧倒的に大きくなったし、成長速度も想定よりずっと速くなっているよ。ファンも変わって、以前までは「ブリックス&ウッド」は知っているけど「ニューバランス」をあまり知らないパターンが多かったのに、今はどちらにも理解がある感じがするね。

2人が気になること、日本からの影響について

ーーDSMGで来日記念イベントが開かれたように、世界が「ブリックス&ウッド」の動向に注目している一方で、あなた方が注目しているモノやコトはありますか?

ケイシー:ざっくりとした答えになるけど、経済かな。特にキャッシュフローに興味があって、ここ数年のコロナショックによる経済危機を経て、今の消費者はどうお金を稼ぎ、何に使い、なぜ貯めるのかを知りたい。だからといって、金繰りを意識しすぎて「ブリックス&ウッド」がスケールダウンするような動きはしたくないし、バランスの取り方を考えているよ。

ダニ:私が興味のあることもケイシーと少し似ていて、自分が何にどれだけ消費しているか。食べ物でも、音楽でも、オンラインで何かに課金するでも、これまでは頭の中が消費行動でいっぱいで、あまりにも多くのものを過剰に消費しすぎていたと思うの。だから、最近は行動整理しながら消費の仕方と量を考えるようにしているね。

ーー消費というと、「ブリックス&ウッド」のオンラインストア「SPACE(S)」では、いくつかの日本の雑誌を取り扱っていますよね?

ケイシー:そもそも、俺はファッションスクールでデザインの勉強をしたこともスキルもないし、夢はセレクトショップをオープンすることだったんだ。自分のブランドのアイテムだけではなく、キャンドルからパフューム、ハンディファンまで、今まで購入して良かったアイテムや好きなモノを全て並べるのが理想で、そのうちのひとつが日本の雑誌ってわけ。あと、オレゴン州ポートランドにあった革製品専門店「タンナー グッズ(Tanner Goods)」で5年ほど働いていたんだけど、オーナーが「ポパイ(POPEYE)」や「ブルータス(BRUTUS)」などの日本の雑誌を置いていて、店舗のレイアウトも日本の店舗や雑誌を参考にしていたから、俺も自分のお店を持ったら同じようなことをしたかったのさ。日本には2019年に初めて訪れて、価値観が変わるくらい日本人の親切心や礼儀、清潔感などに感銘を受けて、学ぶべき文化がたくさんあると感じたね。

ダニ:私は今回が初めての日本で、まだ滞在日数は2日だけどすでにマインドセットが変わりつつあるね。日本人は本当にみんな優しくて、「見習って、もっと素敵な人間にならないと!」と思わされている(笑)。

ーー先ほど、ケイシーはファッションスクール出身ではないと話されていましたが、同じく「ニューバランス」のコラボレーターであるジョー・フレッシュグッズ(Joe Freshgoods)も卒業しておらず、ダニはいかがですか?

ダニ:今まさに在学中で、12月に卒業するの!ただ、ストリートウエアの世界では、コミュニティ内のコミュニケーションで学ぶことの方が多いし、必ずしもスクールに通う必要はないと思うわ。だけど、私は人から何かを教わることが大好きだし、何より大学の学位を取得して両親を安心させたいのが本音(笑)。

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