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なぜライブコマースは成功しない? 導入支援のテイラーアップCEOに聞く、視聴獲得から購買導線作りまで

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 ファッション・ビューティ業界のEC化が進む中、販売手法の一つとしてライブコマースを取り入れる企業が増えた。一方で日本のライブコマース市場は成長過程にあり、正攻法がつかめていない企業も多いのではないだろうか。美容やファッションをはじめ多くの企業のライブコマースを支援するテイラーアップの松村夏海社長にライブコマースの活用術について聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2023年4月24日&5月1日合併号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋に加筆したものです)

中国とは異なる日本市場の特徴は?テレビショッピングとの違いは?

 テイラーアップは、企画から配信までワンストップで提供するライブコマースコンサルティングサービス「ライブル(LIVURU)」や、インスタグラムライブの分析とダイレクトメッセージ(DM)自動送信SaaS「ライブコマース フォース(Live Commerce force)」、ライブコマース人材の育成プログラム「ライブル エデュケーション(LIVURU EDUCATION)」を展開する。

 松村社長はファッションやビューティ企業からライブコマースに関する多くの相談を受ける中で「日本には中国のようなライブコマース機能を持つアプリやプラットフォームがなく、文化や社会背景、ライブコマースの仕組みも異なる。テレビショッピングのような印象を持つ人もいるが異なる点が多い」と指摘する。中国の場合、普段から使っているアプリやECモールにライブコマース機能がある。また、テレビショッピングはより多くの人が視聴するテレビが媒体でありデジタルプラットフォームを利用するライブコマースとは異なる。「日本でライブコマースの視聴者を獲得するには、消費者が日々接するSNSから配信すべきだ」という。

 また中国のライブコマースやテレビショッピングのイメージでは、視聴してすぐに購入するパルス型消費行動、いわゆる“衝動買い”が連想される。しかし同じような購買導線がない日本ではライブ配信の前後の施策も重要だといい、配信前には既存のSNSアカウント、メールマガジン、LINEなどのCRM(顧客関係管理)やインフルエンサーの起用で視聴への導線を作り、視聴後もDMで販売先へ誘導する、ターゲティング広告などで購買導線を作るなどライブ配信時間以外も設計する必要がある。

 松村社長はライブコマースの成功には視聴導線、購買導線、視聴動機、購買動機の4つが重要だと話す。「ライブコマースは点で捉えられることが多いが、成功させるにはマーケティングファネル(商品認知から購入までのプロセス)全体で考える必要がある。ライブコマースが最も適しているのはミドルファネル(消費者が興味を持って情報収集している段階)以降だ」と松浦社長は話す。

ライブコマースを活用してファンコミュニティーを構築

 ブランドのビジネスモデルや目的によってもライブコマースの活用の仕方や設計の仕方は異なる。短期で売り上げを上げるなら優位性のある価格や特典などの購買動機が必須だ。一方で、価格維持やブランド毀損の観点から値下げを好まない企業は、ライブコマースを購買データ獲得やファンコミュニティー構築に活用するのが適している。松村社長は「ファンコミュニティー構築にライブコマースを活用する場合、視聴者というリード(見込み客)も獲得でき、顧客のブランド理解も深まる。最終的に高単価高粗利の商品を売ることも可能だ」と話す。

 EC市場の競争が高まり顧客獲得単価(CPA)が高騰する今、リピート購入もマーケティングの課題だ。松村社長によると、「ライブコマースは購入につながるアクションを起こさせることを目的とした獲得型動画広告と比較されることが多いが、実はエンゲージメントを高める側面も強い。ライブコマースの購入者はオーガニック購入や広告からの購入よりもLTV(ライフタイムバリュー、顧客から生涯にわたって得られる利益)が大きい傾向にある」という。ライブコマースは他媒体に比べて視聴時間が長くなりやすく、10分前後の視聴を獲得できる。長く接点を持ちながらブランド理解を深められる分、ロイヤリティーにつながりやすい。

ライブコマースの獲得データを広告運用に活用

 松村社長はライブコマースで取得した視聴データや購買データを配信後に広告配信などに役立てることも重視する。テイラーアップでは、インスタグラムでの配信中に視聴者からのコメントにDM自動返信で購入先やアンケートフォームを案内し、回答から得たメールアドレスへの広告配信、サイトセッションへのリターゲティング広告(過去にウェブサイトを訪問したことがあるユーザーに対して配信される広告)、顧客データを基にしたSNSの広告改善などに活用している。

 ライブコマースのコメント内容も貴重な情報で、商品開発の参考やブランドのクリエイティブ改善、リスティング広告(ユーザーが検索したキーワードに連動して検索結果にテキスト形式で表示される広告)運用などさまざまに活用される。「ライブ配信へのコメントからフォロワーにどんな人がいる、顧客のペルソナやロイヤリティーを知ることもできる」と松村社長。ある新商品のために実施したライブコマースでは、販売のCPAで見るといい結果ではなかったが、数千のセッションを獲得しリターゲティング広告を配信した。リスティング広告のキーワード改善やSNS広告の類似オーディエンス設定によって広告単価を下げることに成功し、全体ではマーケティングに大きく貢献した。

  ライブコマースのさらなる活用術について松浦社長は「ライブ配信後に視聴者が気に入った部分を短尺動画にして広告配信すればさらにCPAを改善できる。広告運用を改善することで最終的にコンバージョンするという考え方もできる」と語る。ライブコマース配信中に売り上げを上げるだけではなく、マーケティングに役立てトータルで成果を上げる視点も必要だ。

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