ビジネス

ファストリ柳井社長が4月8日に語ったこと「業界の常識より『服の本質』を問い続ける」

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は4月8日、2021年8月期上期(2020年9月~2021年2月)決算説明会に登壇し、今後の展望やいま最も重要だと考えていること、今後どのような考え方で経営を進めていくのかを14分間にわたって語った。ここでは、そのほぼ全文に加え、報道陣からの質問に対する一問一答をまとめた。

柳井正会長兼社長(以下、柳井):最初に申し上げたいことは、世界を取り巻く環境がいかに変わろうと、これから大きく成長する企業にとって、グローバルに展開するしか生きる道はないということです。私達ファーストリテイリングが初めて海外に店を開いたのは、2001年9月、英国のロンドンです。そして翌2002年9月、上海に中国大陸の1号店をオープンしました。当時の会社の年間売上高は現在の数分の1、資金も人材もブランドの知名度もない中、未経験の世界に乗り出しました。そこから、まもなく20年になります。その間、失敗は山ほどしましたが、現在では主力事業であるユニクロの売上高、営業利益とも海外事業が国内を上回るまでになりました。

アジアの一国である日本で生まれた企業にとって、独自の美意識や品質、機能性の高さといった特徴を持ちつつ、例えば、クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)、ジル・サンダー(Jil Sander)女史、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)といった優れたデザイナーの皆さんと協業し、ニューヨークのMOMA、パリのルーブル、ロンドンのテートモダンなどの美術館とのコラボレーションをし、世界中のさまざまな文化、デザイン、技術、人材、資源などを利用し、優れた商品を創造しています。

そして、LifeWear、MADE FOR ALLという服の概念を変える世界的にもユニークなコンセプトを持ち、真にグローバルな形で、誰でも気軽に着られる究極の普段着を提供する。こういった我々の日本の中だけに閉じることのない世界的な視野の経営姿勢が世界中の皆様に評価されているものと信じています。

今もこれからも、アジアが世界の成長センターになります。2030年までに世界で50億人が中産階級になります。その半数以上がアジアです。今から従来以上に本格的にアジアに進出していきます。出店のペースを上げ、アジアで圧倒的なナンバーワンになります。

そのためのカギを握るのが、インターネット販売です。店舗での販売とインターネット販売を融合し、相乗効果を出していく。オンラインで注文した服を店舗で受け取れば、受け取ったその場で着用が可能で、サイズが合わなければ交換もできます。ご来店の機会に他の商品を購入されるお客さまも多数いらっしゃいます。店頭受け取りをされるお客さまは、例えば、イギリスでは40%にも達しており、他の国でもさらに増加を見込んでおります。各国におけるECのさらなる強化のため、現在、世界中に自動倉庫を建設中です。

こうした施策をより強くするため、各国・各地域の経営チームを強化していきます。アジアを中心に世界各国で採用した若い人たちが経営者になり、私たちと一緒に世界中に出ていく。能力があれば誰でも世界のどこでも、どんな仕事でもできる。そういう仕組みを作っているところです。

進出した中国を含むアジアには、現在約3万人の従業員がおり、日々の業務を通じて多くのことを学び、優秀でグローバルに活躍ができるポテンシャルを持っています。また、直近の進出国であるベトナムでは同国政府の協力のもと、小売業を近代化し、ベトナムの人材がグローバルに活躍できるプラットフォームの構築を始めています。

販売面でも現在、ハノイとホーチミンに計7店舗を展開しており、いずれも絶好調です。アジア以外でも経営者を育てる取り組みに力を入れています。スウェーデンとベルギーなどでは、女性のCOO(最高執行責任者)が誕生しています。ヨーロッパも深刻なコロナ禍ではありますが、経営の中枢で活躍できる人材が続々と育ってきています。

私達ファーストリテイリングは、山口県宇部市という地方都市の小さな紳士服店から始まりました。何かとくに恵まれた経営資源を持っていたわけでもありません。商店街の小さな紳士服店がここまで来ることができた理由はただ一つ。正しいと思ったことを勇気を持ってやり抜く。状況が厳しくてもめげない、諦めない。そういった精神があったこと。これが一番の要因です。

楽に儲かる方法はないかを考えるのではなく、お客さまに一番喜んでもらえる商品は何か、社会のために最も役立つビジネスは何か。それらをどうしたら提供できるか、真剣に考え実行する。最初から業界の常識を前提にするのではなく、服とは何だろうか。今の社会は服に何を求めているのか。全ての人にとって究極的に良い服はどんなものか。こういったことを愚直に問いかけ、考え抜いて、具体的な商品の形にすることから、LifeWearの発想が生まれました。

こうした姿勢が少しずつお客さまに伝わり、1枚1枚自社の店頭で売り、次もこの店で買おうというお客さまが増え、この積み重ねで現在の我々があります。こうした努力をさらに加速することが継続的な成長を可能にする唯一の道です。

サステナビリティの考え方も同じです。自分の得になるとか、会社が儲かるかとかいうことではなく、地球や人類にとって正しいことは何かを考えて行動する。日々の判断をそういう基準で行うということです。今の世界は誰もが自分の損得、目先の利害だけを考えて、本気で人類の将来のことを考えようとする人があまりに少ない。このままでは地球は今の世代で終わりになってしまいかねません。私は強い危機感を持っています。今こそ、全地球を視野に入れて、人類全体の将来を考えることが必要です。次の世代のために、この地球をどうやって残すのか。そのための企業活動とはどうあるべきなのか。こういったことを本当に真剣に考え行動する必要があります。

「お客さま第一」を貫く

ご承知のように、4月1日から価格表示を内税の総額表示に変えました。それに先立つ3月12日から、ユニクロとGUでは言全ての商品価格を総額表示に統一し販売しております。その際、これまでの商品本体価格はそのまま消費税込みの価格として販売することにしました。今回このような方法をとることにしましたのは、本日お話ししてきたように、お客さまにとってどのような方法が最も便利でわかりやすいのか、という基本な観点から決めたものです。短期的に見ると減収の要因になるとの懸念はありましたが、お客さま第一の基本姿勢をしっかりと守ることで、長い目で見れば、より多くのお客さまに我々のファンになっていただき、たくさんのお買い物をしていただけると考え、最終的に私の判断でこのように決定しました。

この1年あまり、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界の状況は大きく変わりました。グローバルの人の往来はほぼ止まり、各国の経済は停滞を続けています。各国でワクチンの接種は始まっているものの、感染の収束はいまだに見通せない状況です。

加えて、世界の各地で政治的な対立が深刻化し、その影響がビジネスの現場にも及んでいます。厳しい環境ではありますが、愚痴や不満を言っても仕方ありません。今のコロナ禍はいずれは終わります、本当の正念場はこのコロナが終わってからです。昨年の10月の決算説明会で、私はグローバル化の流れは何があろうと止まらない、と申し上げました。しかし今は、グローバル化は止まらないどころか、ますます加速すると確信するに至りました。

例えば、コロナワクチンの接種という問題一つとっても、世界中の国々が協力する体制がなければ、有効な対策はとりえません。これまで機会あるごとに申し上げて来たように、地球上の全ての国、全ての個人は繋がっています。自分さえよければという姿勢で、自らの利益を守ることもできません。そのことを改めて深く認識する必要があります。私は今回のコロナ禍の最大の教訓は、この点にあると考えています。企業は社会的な存在です。社会があって、はじめて企業があります。

世の中にとって良い企業、人々の役に立つ企業であればあるほど、大きく成長する。そういう時代です。私達ファーストリテイリングは今こそ服屋の原点に還り、日常の生活を大切にし、買い物をしたことが嬉しいという体験をしていただく。服によって、世界中の人々をもっと幸福にし、どの国でもどの街でも世界中で親しまれ、感謝される企業になる。それが世界で最も大きく成長する企業になる道だと思います。

私は必ず実現できると確信しております。今後ともよろしくご指導、ご支援をお願い申し上げます。

【メディアからの質疑応答】

ーーこれからアジアでの出店をさらにスピードを上げていくとのことですが、出店ペースの現状と今後の計画は?

柳井正(以下、柳井):出店は東南アジアで年間40〜50店だったものを、今後は年間100店舗前後を目指して(スピードを)上げていきたい。[筆者注:コロナ禍前の2019年8月期実績は、グレーターチャイナで91店舗(うち、中国大陸86店舗)、韓国10店舗、東南アジアなどその他アジアで37店舗。2021年8月期計画は、グレーターチャイナで100店舗、韓国2店舗、その他アジアで40店舗を計画]

ーーサステナビリティについて。柳井さんは、グローバル化は止められない流れだが、世界中で分断が起こっていることや、個人や企業が目先の自分の利益だけを考えている状況などに強い危機感を抱いているといった趣旨の発言を何度か繰り返してきている。ファーストリテイリングはファッション小売業だが、そういった状況に対して一石を投じるというか、世界を良い方向に変えていくために、具体的にはどんなことが必要でしょうか?

柳井:ファッション小売業、小売業だけに特化するということじゃなしに、顧客ニーズから、お客さまのニーズを、あるいは潜在ニーズ、潜在需要と言ってもいいというふうに思いますし、潜在要求かもしれません。そういったものを自分たちで(つかんで商品化することが必要だ)。多分、今の服で不平不満な点があるとしたらこういう点だっていうこと(を理解して解決していく)。それと、裕福な人ばっかりじゃないんで、あらゆる人が本当に良い服、今までにない新しい価値をもった服(が手に入るように)、そういったものを自分たちで考えて、自分たちで作って、自分たちで運んで、自分たちで売っていく。そういう一気通貫みたいなことが現状必要だと思います。それはなぜかって言ったら、情報自体がもう瞬時に世界に伝わる時代なので、最初ニーズのところから最終の販売まで、いかに速くしていくのか、いかに正確にしていくのか、そういうふうに産業自体が要求されているんじゃないかなと思います。やっぱり(企画から生産、販売まで)時間かかりすぎっていうことと、ニーズもない商品を作っている企業がすごく多いと思います。

ーー先ほど説明の中でもあった、世界的な政治的分断と対立というところに関連する、海外のミャンマーと新疆ウイグルの件です。ミャンマーでは3月に取引先の工場火災があったり、かなり混乱をしていると思う。これに伴っての仕入れや生産の影響がどの程度出ているのか。今後ミャンマーの工場で取引の見直しという可能性があるのかどうかというのが一つ目。もう一つが、ウイグルに関して、強制労働や人権問題が取り沙汰されている中で、ファーストリテイリングとしてこのウイグルで作られた綿花を実際の商品に採用されているのかどうか。それに伴って世界的なアパレル各社が対応に非常に苦戦されていると報道されています。取引があったとしたら今後どう対応されるのか。ファーストリテイリングとしてのスタンスや立場を教えていただきたい。

柳井:まずですね、やっぱりそういった政治的な質問自体はノーコメントでお答えしたい。我々は常に政治的には中立な立場でやっていきたいというふうに思っています。ただし言えることは、ミャンマーに対しては、ほとんど取引がありません。ですから、(影響は)軽微です。

ウイグルに関しては、これこそ政治的なことなので、ノーコメントとさせてもらいます。

ーー今のところに関連して、しつこいですが、ウイグル自治区での強制労働の問題ですが、会社としてのスタンスというところで、国際的に機関投資家の団体などがこういった人権問題に対しては厳しい姿勢を貫くようにというようなリクエストを出されているところも結構あるかと思います。こういう声に対しての御社のスタンスということではいかがでしょうか?

柳井:当然、全部の工場に関して、あるいは綿花の生産に関して監視しています。そういった問題があったら即座に取引停止しています。それ以上は、人権問題というよりも、政治問題なので、ノーコメントです。

ーーウイグルに関連して柳井会長にお聞きいたします。中国国内で新疆綿を使わない海外企業に対してボイコット、不買運動の動きが広がっていますが、こういった運動の影響はどう見てらっしゃいますか?先ほど政治的なことに関してはノーコメントとおっしゃっていたのですが、こういったポジションを明らかにしないということ自体がこういった運動に繋がるっていう可能性はないのでしょうか?

柳井:そういった考え方自体が政治的だという風に思います。ですから、人権は非常に大事なことです。それに関しては完全に、我々、やるべきことは全てやっています。我々は政治的に中立なので、これ以上の発言は政治的になりますので、ノーコメントとさせてもらいます。

松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)

最新号紹介

WWD JAPAN

2021-22年秋冬トレンド特大号 明るい未来に向けて心ときめく服を謳歌しよう

「WWDJAPAN」4月19日号は、2021-22年秋冬トレンドブックです。生活者の嗜好やニーズが細分化され、コロナがその流れに拍車をかける今、それでもデザイナーズブランドの新作をベースとしたトレンドをまとめるのは、半歩先の未来を見るデザイナーたちの視点に価値があるからです。コロナ禍でファッションに心地よさを求めた21年春夏からさらに歩みを進め、“ファッションで心踊らせたい” “オシャレを楽しみた…

詳細/購入はこちら